第49話 説明するのは宝箱を開けたあとで

「説明はとりあえず宝箱を開けてからでいいか?」


 俺の問いに、ミスラは目を半分閉じて考えるも、頷いた。

 まずは通常の宝箱からだ。

 俺とアム、一個ずつ開ける。


「これはポーションでしょうか? 鑑定したところハイポーションのようです」

「こっちは魔法粘土だな」


 とりあえず、道具欄に収納。

 そして、次にそれぞれ銀色の宝箱を開ける。

 俺の開けた宝箱の中に入っていたのは技術書(緑の手)だ。

 畑の品質が一段階上がる能力だった。


「ご主人様、こっちは鶏が入っていました」


 アムが宝箱の中から鶏を取り出し、道具欄に収納した。

 牧場ができたら卵食べ放題だな…………ミスラがまた驚いている。

 いろいろと言いたいことがあるのだろうけれど、宝箱を開け終わるのを待っているようだ。

 最後に、金色の宝箱は俺が代表して開けた。


「これは魔導書だな。聖属性の魔法、ライトアローだな。サンダーボルトと違って純粋な聖属性の魔法だ。先に覚えたかったよ」

「聖属性魔法の魔導書っ!? 見せてっ!」


 ミスラが突然大きな声を上げて、俺の本を取ろうとするが彼女の手をすり抜けた。

 宝箱を全部開け終えたのでシステムメッセージが脱出するか尋ねてきたが、いいえを選択した。

 外に突然現れた瞬間を誰かに見られる危険が高そうだから。

 それに、ミスラに宝箱を開けたら説明する約束をしたからな。


「……なんで?」

「悪い。この本、俺にしか触れないんだ」

「……どうなってるの? なんで宝箱が出たの? あなたしか触れない魔導書はなに? あなた何者?」

「契約魔法で俺のことを他言無用にしてくれるから言うけど、俺は異世界から召喚された人間だ」

「……勇者?」

「まだ何も成してないのに、勇者を名乗るほど烏滸おこがましくないよ。ただの異世界人だ。」


 ミスラがアムの方を見ると、アムは無言で頷いた。

 そして、ミスラは考える。


「……勇者はこの世界の人間が持っていない能力をいくつも持っていると言われている。それなら理解できる」

「嘘だって思わないのか? 俺みたいな普通の人間が勇者だなんて」

「……嘘なら、他に今回の事象を説明することができない。あなたにはできる?」

「直ぐには思いつかないな」


 もしかしたら、彼女は俺が勇者である可能性についても既に考察していたのかもしれない。


「ミスラさん、ご主人様は約束を守り全てを伝えました。ですから――」

「……わかってる。契約魔法で誰にも言えないし誰にも言わない」

「ありがとうございます」

「……礼はいい。ところで、本の内容を聞かせてほしい。歩きながらで構わない」

「いや、歩きながらっていうか、俺の場合、魔導書を使うって念じれば魔法を覚えることができるんだ。あ、こっちの技術書も使うって念じれば能力を覚えることができる」


 技術書(緑の手)を使うと緑の手の能力を取得した。

 アムに使ってみると、彼女も手に入れたようだ。

 俺は魔導書も使ってライトアローを覚えたが、やっぱりアムには覚えられなかった。


「ライトアロー」


 と魔法を使うと光の矢が飛んでいく。


「とまぁ、こんな感じ」

「……出鱈目な能力」

「自分でもそう思う」

「……本は読んでこそ本なのに」

「そうなんだけど、読めないんだよ」


 俺はそう言ってページを開いて見せた。

 俺には共通言語の能力があって、こっちの世界の言葉がわかるのだが、この文字は読むことができない。

 ミスラがそれを見る。


「……これは魔法言語」

「読めるのか?」

「……余裕。ページめくって」


 ページを捲る。


「……興味深い。これまでにない理論」

「そうなのか……」


 これ、もしかして全部読み終えるまで付き合わないといけないとかないよな?

 ずっと本を持っているのが辛かったので、本を床に置き、ミスラは床に座って本を読む。

 言われたときだけページを捲り、俺とアムは食事をした。

 保存食のスナックバーだ。


「久しぶりに美味しいですね」

「だな。ポチの弁当の方が俺は好きだが」

「ポチさんには失礼ですが、私はこちらの方が好みです」


 アムはスナックバーが本当に好きだな。

 ミスラにも食べるかと尋ねたのだが、彼女は「必要ない」と言って食べなかった。

 そして、一時間。


「悪い、ミスラ。そろそろ出るぞ」

「…………」


 返事がないので、本を閉じる。

 いつまでも彼女の我儘に付き合ってられない。

 ていうか、絶対に終わらない。

 読むペースは速いけど、まだ十分の一程度しか読み終えていない。それくらい魔導書は分厚いのだ。

 文句を言われるかと思ったら、彼女は無言でこちらを見たあと、霊魂石を貸して欲しいと言ってきた。

 何故だろうかと思いながらも、それで動いてくれるのならと、ウィル・オ・ウィスプを倒したときに手に入れた霊魂石を彼女に渡す。

 彼女はそれを手に持ち、手を前に掲げた。


「光よ、顕現せよ」


 そう言うと、彼女の手から光の矢が放たれた。

 ただし、俺の矢より遥かに小さく、弱々しい光の矢だ。


「これは――」

「……魔導書の内容をこの世界の仕組みに取り入れた」


 それで魔法を覚えたっていうのか。

 彼女こそ、正真正銘の魔術師って感じがするな。


「……全部読めば、魔法の理論が完成する」

「協力できない。全部読むとなったら、徹夜しても無理だろ。明日には帰るからな」

「……あなたについていく」

「ついてこられても困る」

「……断られたらミスラは死ぬ」

「我儘言って、それが認められないなら死んでやるって、子供じゃないんだから」


 見た目は子供だけど、俺と同い年だろ?

 と思ったら、


「ご主人様――たぶん彼女は本気です。ここでご主人様が断れば、彼女は死ぬと思います」


 アムが言った。

 そしてミスラを見ると、彼女は無言で頷いた。

 俺は深いため息をついた。

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