第48話 霊魂石を集めるのは必要になったあとで
町のダンジョンはこれまでより広い。
それに、ミスラが一緒にいるから走り抜けるわけにもいかないから、踏破に時間がかかるだろう。
まぁ、今回はこれまでと違って何周もするつもりはないから、のんびりしよう。
地図を見ながら奥に進む。
「白いマークと薄い赤のマーク……戦ってるのか?」
反応のあった場所に行くと、子供が青い鬼火のような魔物――ウィル・オ・ウィスプに襲われていた。
咄嗟に助けに入ろうとしたが、ミストが待ったをかけた。
「……ダメ。横やりになる。離れて」
「え?」
俺が考える間もなく、矢が飛んできた。
三本の矢のうち一本がウィル・オ・ウィスプを、一本は虚空を射抜き、そして一本は子供の顔に当たった。
ウィル・オ・ウィスプは矢が当たると消え、綺麗な石が落ちた。
霊魂石だろう。
「なっ!」
「……大丈夫。あれはウィル・オ・ウィスプ用の矢。痛いけど当たっても死なない」
「死なないって言っても」
矢を射た冒険者が来た。
よく見ると、俺たちが最初にダンジョンに来たときに見掛けた冒険者だった。
冒険者は霊魂石と落ちた矢を拾うと子供に「次に行くぞ」と立ち去ろうとする。
「待ってくれ!」
「なんだ?」
「行く前に回復魔法で子供の治療だけさせてください。いまはよくてもあとで腫れますから。金はいりませんし、直ぐに終わります」
「お、ラッキーだな。治療してもらっとけ」
男は悪びれた様子もなく、子供の頭をポンポンと叩き、治療をさせる。
いや、実際に悪いと思っていないのだろう。
ヒールの回復魔法をかけながら、世間話をする。
「さっきの矢、三本ともあなたが?」
「ああ、三連射って一度に矢を三本射る能力だ。命中率は落ちるが、一本だけ射るよりはよく当たる」
「そうですか」
弓が下手というわけではなく、最初からそういう能力だったのか。
矢は清めの矢という不死生物に効果のある矢で、それを使えば
治療を終えると子供は小さく会釈し、冒険者のあとについていった。
「……あれはまだ優しい冒険者。中にはスケルトンの囮にも使う冒険者もいる」
「わかってる……あの子、治療が終わったら笑って冒険者についていったし。ホントに酷い扱いされてると思ってたらあんな風に笑えないよ」
「中にはウィル・オ・ウィスプの囮にしか使わない契約にもかかわらず、スケルトンや他の魔物を相手にするときでも囮に使おうとする冒険者もいるようです」
それは極悪だ。
でも、本当に問題なのは、矢を当てられるような扱いをされても優しいと思える環境なのだろう。
なんかもやもやするな。
ゲームだと、ああいう子供を道具として利用するような奴は極悪人扱いされて、あとでザマァ展開が起こったりするのに、こっちの世界ではあれが普通なんて。
「なにもできないのが辛いな」
「……仕方ない。あなたはあの子たちの親じゃないもの」
「あの子たちの親って」
たぶん死んでるんだよな?
と確認すると、アムが頷く。
「あの子がダンジョンに入っていくとき、お金を受け取っていたのは大人ですが、親ではありませんでした。彼らは生きていけない子供を見つけては、こうしてダンジョンで働かせているのでしょう」
「孤児院はないのか?」
「孤児院に入れる人数は限られていますし、この町の人間の孤児が優先です」
「……彼らの多くは冒険者の子供。冒険者のほとんどはよそから来た人間だから町に住んでいても市民権は持っていない。孤児院には入れない」
「子供に罪はないんだけどな」
「……それはどうかな? 生かされた子供に罪がないなんて絶対とは限らないもの」
ミスラがどういう意味でそう言ったのはわからなかったが、ハーフエルフは人間とエルフのハーフだと聞く。
きっと、ミスラにもいろいろとあったのだろう。
俺たちはダンジョンをさらに進むと、ウィル・オ・ウィスプを見かけた。
今回は敵もいないので俺たちが倒そうと剣を抜いたのだが、殺気を感じたのか壁の中に逃げて行った。
あれは追いかけられない。
子供を囮に使う必要性を理解した。
次に見つけたときは、近付かずにサンダーボルトの魔法で倒す。
オーバーキルも甚だしいが、霊魂石を手に入れた。
鑑定してみると、
【霊珠:魔力を含むきれいな石】
とだけ説明があった。
「これ、霊珠かっ!?」
「ご主人様? それは霊魂石では?」
「ああ、いや。俺の地方だと霊珠って言われていてな。ちょっと別の使い道があるんだ」
霊珠は錬金術の素材に使うだけでなく、自宅レベル3で解放される神棚にお供えを納めることで現れる神獣の強化に使う。
一般素材でありながら、大量に必要とする素材の一つであった。
よく霊珠集めに不死生物がたまる迷宮を周回したものだ。
そういえば――と道具欄を確認すると、霊珠が既に一個入っていた。
やっぱりドロップアイテムとして自動入手もしているようだ。
一度に二個入るのは美味しいな。
「ご主人様、ウィル・オ・ウィスプを集中して倒しましょうか?」
「いや、今すぐ使う素材じゃないし」
蒼剣の世界だと店売りはしていなかったが、この世界だとお金を払って買い集めることができるのならそうしよう。
そう思ったのだが、そうすると霊魂石の需要はさらに高まり、さっきのような子供が増える可能性がある。
これは宿題だな。
その後、魔物を倒し続け俺たちはダンジョンの最奥に到着した。
ゲームもそうだったけど、不死生物はやっぱりお金の方はあまり増えないな。
これだと最初に行った村近くのダンジョンの方がイリスのドロップが多い。
せめて、リッチでもいてくれたらいいんだが。
ダジャレなのか、リッチは倒すとかなりお金を落としてくれた。
いや、俺たちのレベルならリッチはきついか。
「……ボスを倒すの?」
「ああ、聞いてなかったのか?」
「……ここのボス、ハイスケルトン。倒しても骨しか落ちないから倒す価値はない」
「普通はそうだろうな? でも俺たちには価値があるんだ。ミスラはここで待ってるか?」
「……ミスラも行く。ここであなたたちだけ行かせるのは冒険者の倫理違反」
まぁ、そうだよな。
「……ハイスケルトンは三体出るから一人一体」
「戦うのか?」
「……最後くらいは」
一人一体ってのはわかりやすくていい。
それに、倒す速度が速いほど、完全クリアの可能性が高くなる。
できれば今回で確定金の宝箱を拝みたい。
さて、行くか。
ボス部屋に入る。
事前に聞いていた通り、現れたのはハイスケルトン――通常より三割増しの大きさのスケルトン三体だった。
開戦と同時に、
「……火よ、顕現せよ!」
「サンダーボルト!」
俺の雷とミスラの炎が両サイドにいるハイスケルトンに命中する。
俺の雷を浴びたハイスケルトンはそのまま動かなくなったが死んでいない。
麻痺しているようだ。
アムはすでにハイスケルトンと交戦している。
「ミスラは左のスケルトンを叩いてくれ! 右は俺が行く!」
そう言ったはいいが、ミスラの方は大丈夫だった。
アムが真ん中のスケルトンを倒し、左のスケルトンに向かったのだ。
その間に俺も右側のスケルトンを倒す。
思った以上に余裕だったな。
「お疲れ様です、ご主人様」
「お疲れ様、アム。ミスラも手伝ってくれてありがとうな」
「……私の助け必要なかった?」
「そんなことないさ。俺が楽に倒せた」
と言ったところで、宝箱が現れた。
金の宝箱一個、銀の宝箱二個、そして茶色の宝箱二個か。
「よし、完全クリア! 中身はなんだろうな?」
「技術書だといいのですが」
やっぱり金色宝箱を開けるのは最後だよな――と思っていたら、ミスラが目を丸くして尋ねる。
「……これなに?」
あぁ、やっぱり説明しないとダメかな?
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