第104話 目立つ行為はAランク冒険者になったあとで
「あれ? 俺、何かやっちゃいました?」
と誤魔化そうとしたのはいいけれど、ポットクールさんが怒っている理由はだいたいわかる。
やっぱり商店だよな。
商業ギルドに登録するうえで、ウサピーには、ポットクール商会に利益を還元できるように調整してほしいって頼んでおいたんだけど。
その方法とかはウサピーに丸投げしちゃったから不備が起きたのかもしれない。
ここは素直に謝ろう
「すみま――」
「転移門についてなんで私に相談してくれないんですか!」
え、そっち?
どうやら、商店について怒っているのではなかったらしい。
「これがあれば、我々の商売がどんなに楽になることか。商業ギルドでも全く把握していませんでしたよ。先日、ウサピーさんに聞いてようやく話が入ってきました」
「そうなんですか? 別に隠したりしてなかったんですけど」
そういえば、村人以外に転移門の利用者っていままで誰もいなかったな。
そもそも、死の大地って呼ばれる土地の周辺、どこの国にも属していないため治安が決していいとは言えない。実際、ガンテツの村は盗賊に襲われたわけだし。
「聖者様。転移門は現在三カ所にあるのですよね? どのように利用を?」
「時間事の利用ですね。この村を起点に、一時間置きにガンテツの村とエルマの村を交代している感じです。時間はあれを使って――」
と俺は転移門の横に置いてある古時計を見せた。
宝箱の中から出てきた古時計で、家の中に設置していたのだが正確に時間がわかるものが欲しいということで転移門の横に貸し出している。
「それと、村人限定ですが、商店で帰還チケットの販売が始まってますね。これは一枚500イリスで、それを使うとダンジョンの中以外ならどこからでもこの転移門に戻って来ることができます」
これが商店のいいところなんだよな。
これまで、宝箱からしか入手できなかった帰還チケットが、商店ができると安価で手に入る。
蒼剣だと商店以外の町でも普通に売られていたアイテムなのだが、この世界では売っていないので商店を作る必要があった。
「なんてものを……とにかく、こんなものがあると知られたら、多くの国がこの門を奪おうと動きますよ」
「奪いたいのなら、勝手に持って行ってくれて構いませんよ。どうせこの土地でしか使えませんから。研究して同じものが再現できるとも思えません」
「ならば、この土地を奪いに来る可能性も――」
「それはそれで構いませんよ。しっかり国の庇護下に置いてもらえるのでしたら。ここら辺の集落は全員、税金を納めることができずに国を棄ててきた人たちが開拓した村ですが、今の状況なら十分税金を納めるくらい稼げてますし。さすがに変な貴族が勝手に領主になって重税を掛けてきたり、俺たちを追い出そうとするようならこっちも動きますけど。それと、西のトウロニア帝国だけは勘弁ですね。あっちは獣人や亜人への差別が酷いそうなので」
「そうですか……ちなみに、転移門を設置する条件は?」
「土地の関係――と言っていますが、ポットクールさんにだけ言うと、その土地の住人の俺への信頼度が一定以上あることです。人が住んでいない場所には使えません。あ、でもこの状態で他の国の土地に転移門を設置することはしません。さすがに国境を越えて転移なんてことになったら大問題ですから」
「そこは良識があるのですね」
当然です。
なので、国の庇護下に入るとなったら、三つの村を纏めて受け入れてもらわないといけない。
この村はトランクル王国が、エルマの村はブルグ聖国が治めるとか言い出したら、絶対にトラブルの元になる。
「聖者様、これから冒険者ギルドに行って冒険者になられるとか」
「ええ」
「でしたら、Aランク冒険者を目指してください。Aランク冒険者が村長を務める土地となれば、この村によからぬちょっかいを掛けようとする者への牽制にもなります」
Aランク冒険者か。
確かこの世界はSランクはない。一番上がAランクで、名誉ランクとしてその上のAAランクが存在するんだよな。
実質一番上ってことか。
「わかりました。じゃあ、さくっとAランクになってきます」
「本来はそう簡単になれるものではないのですけど、聖者様でしたら簡単になってしまいそうですね」
だって、最初に出会ったミスラがCランクだろ?
彼女の実力でCランクっていうのなら、あと二つ上げればいいだけだし。
最短でのAランク到達者の二つ名とか欲しいもんな。
「あ、そうそう。ポットクールさんの店って鉄とか扱ってますか?」
「ええ、もちろんです。トランクル王国は戦争の準備でどこも鉄が不足していますから値段がかなり高騰しておりまして。それでも聖者様の頼みであれば――」
「いえ、いらないです。それと、早めに売った方がいいかもしれません。暴落する可能性があるので」
俺はポットクールさんにそう言うと、彼は青ざめた表情になり、直ぐに店に戻ろうとした。
そんな彼を引き留め、なんとか持ってきてくれた米の苗を買うことができた。
これで稲作を始めることができるぞ!
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