第三章

第103話 冒険者登録は商店完成のあとで

 その日、村人たちが集まっていた。

 ガンテツの村、エルマの村の連中も含めて三つの村になるとその数は小さな町程度の規模になってくる。

 いい加減、名前を覚えられない人も増えてきた。


 村人大勢が集まる理由、それはお披露目会だ。

 いつも通り俺が話をする。


「商店の完成だ!」


 そう言って、今回は俺一人で現場シートを剥がす。

 中からはこじんまりとした店が現れた。

 店内に入って商品を見るタイプではなく、カウンタータイプの店だ。

 店の中には既に紫色の髪、兎耳の少女が店内に入っている。

 彼女は商店の建設と同時にアイリス様からもらったNPC召喚Ⅱで呼び出した兎族の少女だ。

 俺の知ってる商店の主はセールスラビットというほとんどウサギの見た目の獣人なのだが、今の彼女は耳と手足以外は人間と変わりない。

 この世界にもいる兎人族ワーラビットという種族とほぼ同じらしい。

 その理由は彼女が教えてくれた。

 商売をするからには、商業ギルドに入る必要があるらしく、魔物の姿ではそれができないため、この見た目になっているらしい。

 彼女は商店が完成するまでの間に、商業ギルドに登録してきたらしい。

 アルフレッドさんにはお世話になった。

 

「はじめまして、兎人族ワーラビットのウサピーです。ピョン。よろしくお願いします。ピョン」


 ピョンのタイミングが変なウサピー。語尾なのか息継ぎなのか。

 頭を下げると耳も一緒にペタンとなるのが彼女の特徴だ。

 名前がウサピーなのはなぜかって?

 こっちは商店ができる前から、セールスラビットにはウサピーとつけると決めていた。

 人型のセールスラビットが出てきたときは、さすがにこの名前はどうかと思って彼女本人に相談したんだけど、「社長が決めた名前ならその名前がいいです。ぴょん」と言ってきたのでそのままウサピーとなったのだ。


「商店では皆さんが作った野菜や釣ってきた魚、採ってきた果実や拾ってきたキノコなど買い取れるものはなんでも買い取ります。ぴょん。また、お酒、食べ物、ポーションや他の町で仕入れてきたものなども販売します。ぴょん。正社員、アルバイトも募集しているので、働きたい人は面接にきてください。ぴょん。お店は明日オープンです。ぴょん」


 ウサピーがそう言い終わると、頭を下げた。また耳がパタンと折れる。

 一生懸命さはしっかり伝わってくる挨拶だった。


 その後は大変だった。

 野菜や果物の買い取りが始まったのだ。

 他にも家に眠っていてお金になるかもしれないととっておいたが使い道のないものとか、どう見てもガラクタに見えないものとか持ち寄ってきた。

 査定は早くて思っていたより高く、あっという間にウサピーの商店は三つの村全員から信頼を得て人気店となった。


 その日の夜。店じまいをしているウサピーに初日の売り上げ尋ねた。


「買い取り金額は13万7854イリス。売り上げは1万1295イリスです。ぴょん」


 13万イリスって、凄い額だな。

 そんなお金どこにあったんだ?

 売り上げのうち1万イリスは保存食の売り上げ? 買ったのはアム?

 あれって1本100イリスだったよな? 100本も買っていったのか。

 好きなのは知ってるけど買い過ぎだろ。

 

「いろいろです。ぴょん」

「そうだ、俺も色々と買い取ってほしいものがあるんだよな。魔物素材とか」

「魔物素材は買い取れないです。ぴょん」

「え? 俺、素材結構買い取ってもらってたけど?」

「リザードマンの剣とかジャイアントスネークの鱗は戦争が近いから特例措置が下りているんです。ぴょん。魔物素材は基本、冒険者ギルドが買い取るものです。ぴょん。この土地は冒険者ギルドからしたら管轄外ですけど、ミスラさんは冒険者登録していますから、ミスラさんのパーティメンバーの社長からこのまま私が買い取ればミスラさんに迷惑がかかります。ぴょん」

「じゃあ、ミスラに頼んで冒険者ギルドで売ってもらうか……

「というより、社長が冒険者登録したほうがいいと思います。ぴょん。他の国のダンジョンは特定ランク以上の冒険者しか入れないダンジョンもあります。ぴょん。そのダンジョンに通う必要が出て来てから冒険者登録したらダンジョンに入れるようになるのに時間がかかります。ぴょん」


 そう言われてみればそうだな。

 どの国にも所属していないのに冒険者登録する必要はないかって思っていたが、必要になってからじゃ遅いってことか。

 

「登録しに行くか……」

「そうしたほうがいいです。ぴょん。あ、でも明日はポットクール商会のポットクール会頭が来るから、出発前に挨拶していってほしいです。ぴょん」


 ポットクールさんが来るのか。

 もちろん、彼には世話になったから、来るというのならもちろん会うつもりだ。

 頼んでいた商品もあるしな。


 そして、翌日。


「聖者さまぁぁぁぁっ!」


 ポットクールさんが大きな声をあげてやってきた。


「あなた、何を考えてるんですかっ!」


 ものすごい剣幕でポットクールさんが言った。

 こういう時、俺はどうすればいい?

 そうだ、こう言えばいいんだ。


「あれ? 俺、何かやっちゃいました?」

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