第274話 予選一回戦は情報を買ったあとで
動物なりきりセットを着て予選会場に向かう。
受付に行くと、番号のついたゼッケンを貰った。
俺は【13-254】番。
アムが【14-254】番、ミスラが【1-255番】、ハスティアが【2-255番】となっている。
予選の会場は14の部屋に分かれていて、最初の数字が試合会場らしい。
「1番から32番までの方はそれぞれの会場にお入り下さい! それ以外の方は今しばらくお待ちください」
当然だが、一度に何百人も試合ができないので、会場の中は全員が入ることはない。
俺たちは予選会場の前で待たされることになった。
満員電車程ではないが、すし詰め状態だ。
そして、当然だが俺たちは悪目立ちした。
周囲の視線が痛い。
「なぁ、あいつら……」
ほら、やっぱり噂されている。
着ぐるみだもんな。
「ああ、あの奇剣士のサバソを一瞬で倒したブタだ」
「ってことはあの小さい猫が傭兵段サソリの蹄を一瞬で戦闘に不能した魔術師だ」
「狐と変なのもめっぽう強いらしいからな。あの動物集団は今回のダークホースだぞ」
強さで評価されてる!?
どうやら、テストのときに俺たちが倒した連中は結構有名人だったらしい。
変に悪目立ちしてしまうな。
目立つ俺たちとは違って、目立たず埋没している者がいた。
地図で確認しなかったら気付かなかっただろう。
ここにいる人間は、いまは敵ではないので白色だ。
だが、たった一人、協力関係のはずなのに濃い赤の人物が一人。
俺がそちらに視線を向けると、アムも気付いたようだ。
「ご主人様」
「ああ……いたな」
そこにいたのは俺だった。
服装はもちろん、腰に差した剣も白銀の
スクルドは俺たちの視線に気付いたのかこちらを見るとウインクして返した。
やめろ、俺の姿でウインクとか気持ち悪い。
「……ウインク……偽物だけどいい」
ミスラも見惚れるな。
「気配を消して無に徹していますが、しかし、あの佇まい……わかる人にはわかるようですね」
確かに会場の中でも何人かはスクルドの方を見ていた。
あいつもあいつなりに注目されているのだろう。
もしかしたらカイザーの部下が偵察しているのかもしれない。
カイザーの狙いが俺と霜月の戦いだとするのなら、この予選に俺がいなければ失敗ってことになるからな。
まぁ、それならそれで、二の矢、三の矢があるのだろう。
下手したらその二の矢が帝国と戦争と俺たちがこれから建国する国との戦争になるかもしれないから、何もしないなんてできない。
などと考えていたら、スクルドは番号を呼ばれて会場の中に入っていく。
あいつなら万が一にも予選落ちになるなんてことはないだろう。
ちなみに、あいつが入った会場を確認したところ、俺たち四人とは別の会場だった。
未来を見ることができるあいつなら、俺たち四人を避けて予選を受けることもできるので当然かもしれないが、少し安心した。
待っていると段々と人数が減って来る。
どうやら予選会場で失格した人はここには戻ってこないで他のところから出るらしい。
「第2会場250番から260番、第13会場250番から260番の方お入りください。第2会場250番から260番、第13会場250番から260番の方お入りください」
「第2会場250番から260番、第13会場250番から260番の方お入りください。第2会場250番から260番、第13会場250番から260番の方お入りください」
複数の係員が番号を連呼する。
俺とハスティアの番号が呼ばれた。
「ご主人様、ティア、頑張ってください」
「……トール様、手加減忘れないで頑張り過ぎないで。ハスティアはほどほどに」
アムとミスラが応援してくれる。
「ああ、頑張って手加減するよ」
「私も勝ち抜いてきます」
二人に両方に応えるように会場に向かった。
予選会場は凄い熱気だった。
十四もあるというのに、一つ一つの会場がかなり広い。
同時に四試合しているようだ。
254番はまだ先だな。
番号順に戦うわけではないらしく、いまは214番と221番の試合を見ている。
「なんで番号にばらつきがあるんだろ?」
「豚の兄ちゃん。番号にばらつきのある理由を教えてやろうか? それを知って試合を見学するのと知らずに試合を見学するのとでは楽しみが全然違うぜ」
そう言ったのは、背の低いゴブリンのような見た目の男だった。
指をこすっている。
俺は銀貨一枚を取り出した。
「これでいいか?」
「へへ、話のわかる兄ちゃんだ」
男は銀貨を懐にしまって喜ぶ。
「いいか? 一回戦、二回戦の試合はわざと強い奴と弱い奴の組み合わせにしているんだ。何しろ、試合数が多いからな。拮抗した戦力だと試合が長引く。そうなったら一日で予定分の試合を消化できない。だから一回戦二回戦は運営がある程度試合の組み合わせを操作し、強い奴と弱い奴を組み合わせて試合速度を早めてるんだ」
「なるほど、情報感謝する」
俺はそう言って銀貨を追加で渡した。
こういう奴は面白い情報を持っていそうだから、仲良くしておいて損はないだろう。
金払いのいい客だと思ってもらってちょうどいい。
しかし、強い奴と弱い奴の組み合わせか。
だったら、テストで活躍した俺はきっと弱い相手と戦うんだろうな。
「へへ、ありがとうよ。そうだ、兄ちゃんに追加でいいことを教えてやる。あそこにでっかい赤い剣を持ってる赤髪に赤マントの男がいるだろ? あいつはこの国で最高峰の冒険者ランク53のアカ・イヤーツだ。つまり、あの男と一緒になった時点で俺たちの予選落ちはほぼ確定だ。まぁ、連戦が続いてアカの奴が怪我でもしたら勝ち目があるかもしれないが、そんな低い確率に頼って無茶するよりは、怪我をしそうになったら素直に負けて逃げたほうがいいぞ」
そう言って男は次の獲物を探すために会場の奥に消えていった。
アカ・イヤーツ……最高峰の冒険者か。
まぁ、最初は強い選手と弱い選手の組み合わせってことだし、俺の出番はないだろう。
そう思っていたら――
「254番!」
俺の出番が来たようだ。
正方形の石の舞台に上がる。
そして対戦相手を待った。
対戦相手の番号が呼ばれる。
対戦相手が舞台に無言で上がってきた。
アカ・イヤーツだった。
この会場の運営は俺の力を見抜けなかったのか、もしくは意地でも着ぐるみで悪目立ちしている俺を予選敗退させたいらしい。
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