第275話 アカ・イヤーツとの戦いは一撃の打ち込み合いのあとで

 アカ・イヤーツは赤い大きな盾と剣を持つ赤い髪の男で、もうこいつが勇者でいいんじゃないって出で立ちをしていた。

 アカは俺を見るなり、大きくため息をついて忠告してくる。


「これの相手? 私が? 冗談はやめにしないか? はっきり言う、気に入らんな。これでは道化だよ。」

「冗談じゃないさ。この服は性能がいいんだぞ? 東国の最先端の鎧装備だ(嘘)」

「なるほど? ならば見せてもらおうか、東国最先端の鎧の性能とやらを」


 試合開始の合図が出た。


「貴様から一撃を打ち込んでこい」


 アカ・イヤーツがそう言って大盾を構える。

 油断しているのではない。

 構えを見ればわかる。

 最初に俺に攻撃をさせて、力量を探ろうとしているのだろう。

 初めて見る得体のしれない相手と戦うのなら、防御に専念して攻撃を見定めるのも悪くない手だ。

 俺も見せてもらうぞ。最高峰冒険者とやらの能力を。

 俺は黒鉄の大剣を構えて、石の舞台を蹴り、突きを放った。

 俺の剣がアカ・イヤーツの大盾に直撃する。

 アカ・イヤーツがその衝撃で後方に大きく吹き飛ばされ、舞台の上を転がっていく。

 大盾は吹き飛び、会場の壁にまで飛んでいった。


「冗談ではないっ!? 大盾が無ければ即死だった」


 手加減したから即死にはならないと思うけれど、あれで場外に押し出す予定だった俺としては予定が狂ったな。

 わざと盾を手放して転がってダメージを殺したか。


「じゃあ、公平に行くか。次はそっちが打ち込んできていいぞ」


 俺は剣を鞘に納め、それを両手で横に持って言った。

 これで受け止める。


「いいだろう。見せてやる!」


 アカ・イヤーツがそう言って力を入れた。

 すると、赤いオーラが噴き出す。

 まるで、戦闘アニメの強オーラだ。

 一体どんな能力なんだ?

 未知の力に戦々恐々としていると――

 それを見て観客たちが騒ぎだす。


「出た!? アカの赤いオーラだ!?」

「赤いオーラ――アカの代名詞とも言える能力だな。あれを使うと三倍の速度で動けるらしいぞ」


 観客たちの声が耳に届く。

 なるほど、凄い能力だな。

 

「卑怯だと思うな。チャンスは最大限に生かす、それが私の主義だ」


 アカ・イヤーツはそう言って赤い大剣を構えた。

 俺も剣を構える。

 アカ・イヤーツが動いた。

 俊敏値750ってところか。

 なんという運動性だ。

 それでも

 十分受け止められる。

 と思ったら、その剣が赤く燃えて炎が俺に襲い掛かった。

 魔法剣ってやつか。

 恐ろしいことをしやがる。

 結構、熱かったぞ。

 だが、威力が低く、ダメージは少ない。

 当然、アバターの着ぐるみを燃やすほどではない。


「ば、馬鹿な、直撃のはずだ」


 アカ・イヤーツが焦りうろたえるが、まぁ冒険者最高峰の力は十分わかった。

 俺は剣を抜かず、鞘のままアカ・イヤーツの胴を叩く。

 鎧が割れて、アカ・イヤーツの身体はそのまま前に倒れた。


「……私もよくよく運のない男だ。大会の一回戦で、あんな化け物に出会うなどとは」


 アカ・イヤーツはそのまま倒れる。

 まぁ、そこそこ強かったかな?


「しょ、勝負あり! 勝者、トール! 救護係は担架を早く持ってこい!」


 これで一回戦は終わりだ。

 舞台から降りる。

 すると真っ先に駆け寄ってきたのは、さっきの情報屋の男だった。


「に、兄ちゃん! 試合見てたぜ! まさか一回戦からアカの奴に勝つだなんてな。兄ちゃん、何者だ?」

「……あぁ……」

「ああ、勿論情報量は払うぜ!」


 そう言って男は金貨を取り出す。

 それだけ俺の情報が高く売れると思ったのだろう。


「悪い。俺は結構照れ症で目立つのが苦手なんだ。というかこの着ぐるみを着てないとまともに話もできなくてな。あまり知られたくないんだ」

「そうか……まぁ、変な訛りはないから帝都の人間なんだろ? それとも、その鎧が作られたっていう東国の出身か?」


 訛りがないって、この世界の言葉って地方ごとに方言みたいな違いがあるのだろうか?

 俺はこの世界の言葉を理解できるようになってるからそういう訛りは出ない。


「それも内緒だ」

「剣の構えは素人丸出しだったのはわざとか?」

「内緒」

「その服、どうやって手に入れたんだ?」

「……すまない、話せない」

「彼女はいるのか?」

「いる。結婚予定」

「そこは即答なんだな」


 情報屋の男がため息をつく。

 俺の情報を他の奴らに高く売るつもりだったんだろうが、話せないものは話せない。

 ただ、ここまで積極的に情報を集めようとする姿勢はやっぱりいいな。

 だが、俺の情報を嗅ぎまわれるのは困る。


「なぁ、この大会期間中、俺専用の情報屋になってくれないか? あんたの力を買いたい」

「情報はまったく売ってくれないってのに情報を買いたいっていうのか? 兄ちゃん、それはない――」

「これで――」


 そう言って俺が取り出したのは、大きな宝石がいくつも入った袋だった。


「それっぽっちか? 中は銀貨か? 安く見られたものだな。情報を制するものは戦いを制する。俺の情報を求める参加者は兄ちゃん一人じゃない。なのに専属って――――ってこれは!?」


 情報屋は袋の中を見て固まった。


「足りないか?」


 小島のダンジョンで暇なときに周回して手に入れたものだ。

 これがどれほどの価値があるかはよく知っている。


「俺は情報屋のアリだ。よろしく頼む。最高の情報を提供するぜ! あんたの情報も誰にも売らねぇ」

「助かるよ。ああ、俺の仲間も着ぐるみを着ているから、そいつらにも情報を渡してくれ。あとで紹介するよ」

「猫のラミスと狐のアミ、ネズミのキルティアだろ? わかってるよ」


 ネズミじゃなくてコアラなのだが、三人の名前も知ってるのか。

 思っている以上に腕のいい情報屋と知り合ったものだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アカ・イヤーツはただ赤い男ってだけの予定だったんですが、

昨日のコメントがあまりにアレだったので、

アレさせてもらいました。

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