第246話 ミスラの小躍りは魔導書が使えなかったあとで

 俺たちは現在、ダンジョンの五階層まで来ていた。

 そこで見つけたのは、でかい蛇の死体だった。

 何気に、ダンジョンの中で自分たちが倒した以外の魔物の死体を見るのは初めてだな。

 ダンジョンの中で魔物が死ねば、ダンジョンに吸収されてしまう。

 時間にして、だいたい一時間くらいらしい。


「これは剣で斬られたようですね。」

「ってことは人間に殺されたってことか?」

「そうとは限りません。剣を持つ魔物もいますから」


 そういえば、この階層にもリザードマンの上位種がいたな。

 あいつらは何故かどいつもこいつも剣を常に持ち歩いている。

 ダンジョンの魔物は基本同士討ちをしたりはしないって言うが、何事にも例外はつきものか。


 ダンジョンの入り口近くに焚き火の跡があったので、俺たち以外の人がここにいたと思った方がいいだろう。


「……勿体ない。お金になる部位が結構残ってる」

「収納の能力持ちは少ないからな。荷物になると思って捨てていったのだろう」


 とりあえず、魔物の死体は回収させてもらった。

 最初は蛇肉とか食べるの躊躇していた俺だけれど、だいぶ慣れたものだ。

 いまならカエル肉だって食べられる。

 昆虫食はまだ無理だけど。

 そうでなくても、高位の魔物の皮とかは高く売れるらしい。

 ウサピーが喜ぶお土産だ。

 そういえば、いつの間にか商店の後ろに解体専用の小屋が出来ていて、結構な人が働いていた。

 グリーンドラゴンを持っていったら、みんな顔を青くして諸手を上げて喜んでいたな。

 ブラック企業じゃないか心配になったが、この世界の基準で言うとギリギリグレー企業ってところらしい。しかも報酬はこの世界の平均水準を上回っているそうで、就職希望者は後を絶たないようだ。

 

 彼らの仕事のためにも、魔物はしっかり回収しておかないとな。

 とはいえ、まだまだ解体前の魔物が棚の中に残っているので、数年は彼らの仕事がなくなることはないだろう。


 そのまま六階層に向かう。

 ボス部屋に入った。

 六階層のボスはフレイムジャイアントスネイク。

 火を噴く大蛇だ。

 俺たちにとってボス狩りはあくまで宝箱目当ての敵なのだが、フレイムジャイアントスネイクの蛇皮は火に強い耐性のある装備になる。

 今回は前衛三人同時のスリーマンセルで戦う。

 ハスティアの戦い方はツーマンセル、つまりは勇者と伴に戦うことを想定しているので、スリーマンセルになるとその持ち味が僅かに失われている気がするが、それでも連携を意識してレベル差を補う働きぶりを見せてくれた。

 武器も結構いいものを使っているのだろう。

 勇者モデルとか書いてあるから、見た目重視の剣かと思ったらアムが使っていた鋼鉄の剣より性能がいいようだ。

 

 宝箱は金色宝箱が一個出た。


「勇者様、アムとミスラさんは何をしているのでしょうか?」


 ハスティアが尋ねる。

 アムが「金色宝箱」、ミスラが「……魔導書」と言って待機している。


「金色宝箱の前で待機だな。うちでは恒例だぞ」

「なるほど――そうなのですか。では私も――」


 ハスティアが金色宝箱の前に正座した。

 リーナが、「私もした方がいいでしょうか?」という目でこちらで見ているが、そんな義務はうちのパーティにはない。


「今回はアムが開けてみるか」

「はい! 頑張っていいものを出します」

「……魔導書希望」

「頑張ってくれ、アム!」


 ということで宝箱開封。

 出てきたのは――


「剣です。久しぶりですね」


 緑色の柄の剣。

 見覚えがある。

 草薙の剣だ。

 日本の神話に登場する剣だが、蒼剣でも手に入る。


「この剣はアムに――」

「いえ、ハスティアに渡しましょう。私は場合によっては剣だけでなくハンマーや槍を使いますが、彼女は剣一筋ですからきっと私が使うより役立ちます」


 アムがそう言ってハスティアに武器を譲る選択をする。

 ならばハスティアに――


「新しい剣ですか。しかし私にはこの剣が――」

「草薙の剣は俺たちの世界の勇者が使っていた剣なんだが――俺は装備できないからなぁ」

「是非使わせてください!」


 勇者の剣と聞いて意見を変えた。

 俺は遊んだことはないけれど、昔のゲームで同名の武器を勇者が使っていたそうだから嘘ではない。

 草薙の剣は終盤まで使えるからな、拠点に帰ったら武器強化の巻物を使って、草薙の剣+9まで上げよう。


 二周目は武器のお陰でハスティアの攻撃力が大幅に上昇し、さっきより楽に倒すことができた。

 銀色宝箱だったが、中から魔導書が出た。

 銀色宝箱の魔導書は久しぶりだな。

 いや、そもそも魔導書が出るのも久しぶりか。


「……魔導書!」 


 ミスラが興奮している。

 覚えられる魔法は――


「あれ? 覚えられない?」


 いままでは俺に覚えられない魔法はなかったはずだが。

 ユニーク魔法――特定の人間にしか使えない魔法か?

 ミスラも覚えられない。

 リーナは……あ、リーナには使えた。


「リーナ、何の魔法を覚えたんだ?」

「スピリットシールドです。微精霊の力を借りて防御力を強化する精霊術の一種のようです」


 そうか、精霊術か。

 こりゃミスラは残念だったなと思ったら――


「……♪」


 ミスラが魔導書を持って小躍りしている。


「ミスラ、嬉しいのか?」

「……ん! 精霊術の魔導書はほとんど存在しない。未知の知識ばかり。読むのが楽しみ」


 覚えられなくてもいいのか。

 そのうち、リーナより精霊に詳しくなりそうだな。

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