第247話 謎のパーティとの出会いは戦力分析のあとで

 ダンジョンの七階層を進む。

 魔物の死体がさっきより増えてきた。

 この階層にはいない魔物の死体もいる。

 価値の低い魔物を捨てて、価値のある魔物に持ち替えたのだろう。


「どうやら、三人以上のパーティのようですね」


 アムが魔物の死体を見て言う。


「わかるのか?」

「まず、剣の傷ですが、斬られ方を見ると、上から斬られている傷と下から斬られている傷の二種類あります。だいたい身長150センチくらいの方と180センチくらいの方の二人の剣士がいるようですね。そして、魔法で倒された魔物もいました」

「魔法を使う剣士がいる可能性は?」

「通常、魔法を使う人間が前衛で戦うことはありません。魔法を使うには高い集中力が必要ですから」


 え? そうなの?

 魔法の詠唱を唱えたらいいだけだよね。

 振り返ると、ミスラとリーナが「うんうん」と頷いている。

 えー、そうなの?

 魔法剣士ってそういう戦い方はないの?

 前衛で急接近して、目くらましに光魔法を使って、「うわ、目が! 目がっ!」と相手が怯んでいるうちに倒すとかできないのか?


「トーカ様が特別なのです」

「勇者様のなせる業ですね」


 リーナとハスティアが俺を……褒めてるのか?

 それとも吃驚人間みたいな扱いにしてるんじゃないか?

 いや、俺だけじゃないからな。

 蒼剣の主人公も剣と魔法の両方を使ってたから。

 フィクションと現実を一緒にするなって言われそうだけど。

 話を戻そう。


「強さはどうなんだ?」

「高身長の剣士は強いですね。私よりは強いかと」


 ハスティアが言う。

 まぁ、この階層まで来ているのだから強いんだろうな。


「低身長の方も結構強いですね。私と互角くらいでしょうか? 戦えば負けるつもりはありませんが」


 それでもかなり強いってことか。


「魔法については?」

「……ミスラの方が強い」


 うん、それはわかる。

 焦げているけれど、致命傷には至っていない。

 ミスラだったらこの程度の魔物なら一撃で倒せる。

 敢えて手加減をしているという可能性もあるが。

 とりあえず魔物は回収。

 仲間が増えたことで、道具欄にも結構余裕ができたからな。

 でも、この調子だと前方のパーティに追いつくのも時間の問題だな。


 地図にそのパーティと思える反応があったのは九階層のボス部屋の手前だった。

 反応は白が四つ。

 どうやら四人パーティらしい。

 アム達の予想より一人多いが、回復役だろうか? タンクという可能性もある。


 さて、どうしたものか。

 彼らがボス部屋に入る様子はない。

 かといって引き返す様子もない。

 もしかしたらあそこで夜営をするのかもしれない。

 まだ昼間だけど、ダンジョンの中だと時間の感覚が狂うからな。

 疲れが溜まっていたら昼間から夜営の準備をしてもおかしくない。

 そう考えると、ここで彼らがボス部屋に入るのを待っても時間の無駄になるかも。


 前に進むか、待つか、今日は帰るか。

 多数決を取る事にした。

 結果、全員一致で前に進むことになった。

 まぁ、白マークだからいきなり襲って来ることはないだろう。

 高難度のダンジョンの九階層まで来ているパーティがどんなパーティなのかも気になる。

 友好的な相手だったらいいんだけどな。


 一応警戒しながら、前方のパーティに向かった。

 肉を焼く匂いが聞こえてくる。

 魔物を焼いているのだろう。

 夜営の準備か、昼食かはわからない。

 見えてきた。

 どうやら、前方のパーティも俺たちの存在には気付いたらしい。

 歓迎をしている雰囲気はないな。

 鎧を着たポニーテールの背の低い少女と魔術師風の優男が武器を構えている。

 後ろに隠れている小太りの男は荷物運びだろうか?

 戦いに参加する様子はない。

 ってことは、強い剣士ってのは、あの全身黒鎧を着ている男か。


「何者だ」

「近くの町から来た冒険者だ」


 俺はそう言って冒険者カードを投げる。

 ダンジョンで遭遇した場合、こうして身分を証明し合うのが通例だと聞いた。

 ポニーテールの少女がそれを見る。


「トランクル王国の冒険者か?」

「いや、俺はトランクル王国の人間じゃない。死の大地の東にある町に住んでる。」

「なるほど、無法の住民か」


 ポニーテールの少女が冒険者カードを投げ返し、俺はそれを受け止めた。


「そっちは?」

「私たちはトウロニア帝国の冒険者です」


 彼女がそう言って冒険者カードを投げた。

 カードを受け取った。

 白銀色のカードだ。

 名前はアニータ。

 ランクは――ミスリル級? トランデル王国の者とは違うんだな。

 帝国の冒険者カードを見たことがないので、ハスティアに見てもらう。

 彼女はそれを見て、「こちらの国でいうところのBランク冒険者です」と小声で返す。

 なるほど、強い奴ってことか。

 俺はカードを投げて返した。


「こちらにあんたたちと戦う意志はない。あんたたちがここで夜営をするっていうのなら、先に行かせてもらいたい。ボス部屋に用事がある」

「なんのためにダンジョンに潜るのですか? 遊びで来る場所ではありませんよ。荷物も少ないですし、ましてやCランクでは力不足ではありませんか?」

「アニータ、それ以上言うと恥をさらすだけだ」


 黒騎士の男が言った。


「妖狐族の女はお前より上だ。ハーフエルフの女の魔力も大したものだ。俺の部下よりも上だな。それに、そこのハスティア・ジオ・イリア・クリオネルはBランク冒険者、アイリーナ・ミスリス・フォン・トーラは大精霊と契約したトーラ王国の生きた伝説の王女だ」

「――っ!?」


 なんだこいつ――アムとミスラの強さを見抜いただけでなく、ハスティアとリーナのことを知ってるのか?

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