第242話 五人でダンジョン探索は模擬戦のあとで

 ハスティアとメンフィスは俺たちの家ではなく、ハスティアはポチが建てた家に、メンフィスは新たに町にできた教会に住むことになった。

 町民から教会のお披露目会はしないのかって尋ねられたけれど、あれは蒼剣の設備じゃないのでそういうものはない。


「しかし、皇帝に神を宿すねぇ……壮大というかなんというか」


 自分の身に神を宿すことで、本物の神になろうとしている。

 地球だと、王権神授説(王様の権利は神様から授かった神聖不可侵なものであり、反抗は許されないという政治概念)はあったが、それでも神を自分の身に卸そうなんて考えはなかったはずだ。

 

 そんなことを考えながら、俺は炭火で焼いている盆栽キングのキノコに醤油を垂らしつつ、目の前の試合を見ていた。


 アムとハスティアの剣術の試合だ。

 お互い木の剣をつけての勝負。

 戦いは互角、いや、ハスティアの方が僅かに優勢という感じだった。

 細かいフェイントや動きの洗練さはハスティアの方が上回っている。

 もちろん、アムが弱いというわけではない。

 ただ、ハスティアの方が剣術の経験が上なのだ。


 もちろん、これは通常の試合ではない。

 お互い、剣を振ったり足運びだったり、剣に込める力だったりを諸々制限している。

 相手に剣を当てない寸止めにとどめる。

 空手の寸止め空手に近いかもしれない。


 アムの戦い方は俊敏特化。

 速度で相手を乱し、隙をつき相手を倒す。

 それは彼女の長所であるが、しかしそのせいで技能がおざなりになっているところがある。

 そこで、アムがハスティアにこの試合を頼んだ。


「参りました」


 アムが降参を宣言。

 しかし、その表情はとても満足そうだ。


「いやいや、アムルタートさんも見事でした。以前よりも遥かに強くなっていますね。剣術は誰に?」

「亡き母に訓練法を教わりました」

「そうですか。それはきっと間違いではありません。是非続けてください」

「ハスティア様に負けましたが」

「私はこの剣一本で修練を積んできました。アムルタートさんはそうではないのでしょう?」


 ハスティアが言う。

 アムの戦い方は剣術にこだわらない。

 彼女は母親から様々な武器の戦い方を教わった。

 言わばオールマイティーの戦い方だ。

 剣一本で戦ってきたハスティアからしたら、負けられないのだろう。


「では、最後に制限抜きで戦いましょうか」

「はい、よろしくお願いします」


 再試合となった。

 先ほどまでと違い、速度の制限はない。

 勝負はアムの圧勝かと思ったが、意外といい勝負になっていた。

 ハスティアの防戦一方という感じだが、アムが攻めあぐねているという感じがした。しかし、結局アムが押し切る形で試合が終わった。


「久しぶりに剣術で負けました。さすがは勇者様の一番の従者です」

「いえ、私のこの強さはご主人様のお陰で身に付いたものです。純粋な実力ではハスティア様の方がお強いはずですよ」

「それも込みであなたの強さですよ」


 ポーションを飲んで体力を回復させながら、アムとハスティアはお互いを称え合う。

 ハスティア様は勇者オタクがなかったらやっぱり真面目な騎士様って感じなんだよな。


 そう思いながら、焼けたキノコを食べる。

 うん、美味しい。

 これで攻撃力が上がるからな。


「……ん、お酒が欲しい」


 隣でミスラがキノコを食べる。

 こっちは魔力が上がるキノコを食べている。

 魔力が上がるキノコは現在、ミスラとリーナが交代で食べていて、今日はミスラの日だった。


「勇者様!」


 ハスティアが声を掛ける。

 またオタクみたいなことを言って来るんじゃないだろうな?

 俺は身構えたが、ポチに怒られて反省しているのか、変な子とは言わなかった。


「今度、私もダンジョンに連れて行ってはくれないでしょうか?」


 ハスティアとメンフィスをダンジョンに?

 んー、パーティのバランスとしては前衛三人、後衛二人というのもバランスはいい。

 

【ハスティアをレギュラーメンバーに登録しました】


 ハスティアがレギュラーメンバー入りした。

 これは宝箱の昇格率が上がるだろうな。


 その前に、技術書を使って覚えられる能力を覚えてもらおう。

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