第153話 商会名の変更はミスラに許可を貰ったあとで
ダンジョンでいろいろ手に入ったおかげで、手乗り倉庫や道具欄がかなりいっぱいになってしまい、福引回数券や武器強化の巻物、技術書、帰還チケットなどは取り出して鞄に入れて持ち運ぶことになった。
黒真珠とか宝石一個のために道具欄を圧迫するのは困りものだな。これはポットクールさんに売ってしまおう。
ハリセンボンは真っ先に道具欄から出して捨てた。いまごろはダンジョンに吸収されていることだろう。
魔導書はミスラが嬉々として自分の鞄に入れている。
ミスラは本当に魔導書が好きだ。
これまで、金色宝箱からしか魔導書が出なかったが、今回は銀色宝箱から、しかも好きそうな魔導書が出てしまった。
今度から銀色宝箱を開けるときにも夢中になれることだろう。
「アム、宝箱は大きいから道具欄に入れておこうな」
「はい……そうします」
アムは残念そうに宝箱を自分の道具欄にしまった。
アムはミスラと違って物欲は少ない。彼女が興味を示すものは武器を除けば保存食のスナックバーくらいだ。だから、アムは宝箱の中身ではなく、宝箱が好きだ。
何色の宝箱が出るか? 金色や銀色の宝箱が出たら、中身は当たりかハズレか?
ギャンブラーとも少し違う。
スマホゲームがこの世界にもあったとしても、アムはきっと課金をしてガチャをしようとは思わない。
恐らくだが、カジノが出来ても彼女はお金を必要とする遊びには興味を示さず、福引所にいって宝箱の中から手に入った福引券の分だけ福引きをするくらいしか利用しない気がする。
むしろ、お金を払うものであっても、リターンのない
ハンバルの漁村に戻った俺たちは、早速今日の成果(の極一部)を報告。
宝箱のことは黙っているので、主に手に入れた魔物だ。
レッサーサハギン、アクアゴーレム、オイスタータートルなどだ。
今日も宴会をするらしい村人たちに査定してもらう。
「レッサーサハギンか。こいつは焼くと美味いんだよな」
「オイスタータートル。亀の肉も美味しいですが、背中の牡蠣も美味しいんですよね。ポチさんのショーユと合いそうです」
「アクアゴーレムは砕くと中にアクアマリンが入っていて高値で売れるから是非もらいたいです。ぴょん」
「だったら、解体は俺たちがしておいてやるよ」
へぇ、アクアゴーレムはアクアマリンがとれるのか。
ドロップアイテムは石材、ゴーレム石材、蒼い石の三種類だけだったから宝石類は落とさないと思っていた。
念のために死体を持ってきてよかったな。
「って、ウサピー! お前、なんでいるんだ!?」
「社長、気付くのが遅いですよ、商会の販路を拓くためです。ぴょん」
なんでも、昨日の夜、ポチの眷属――犬属になっていたパトラッシュからウサピーに連絡が入り、このハンバルの村で醤油の評判がいいという噂を聞き、今朝、自由都市に移動し、そこから一日かけてこの村に来たらしい。
街道を騎士達が見張っていたが、現在の人型ではなく、本来のセールスラビットの姿で走り抜けたら騎士達にも気付かれなかったようだ。
街道がおかしいことになっているのはポチから聞いていたので、特に迷ったりはしなかったらしい。
「お前にはいろいろと言いたいことがあったんだが。なんだよ、ユサキ商会って」
「本当は株式会社ユサキにしたかったのですが、この世界には馴染みがないので商会にしたのです。ぴょん」
「商会の出資方法について聞いてない。名前の方だよ。なんで俺の名前を使うんだ?」
「商会名に会頭の名前を使うのは普通のことです。ぴょん? ユサキの方が、ウサギっぽくて私は好きなのでユサキにしました。ぴょん」
真剣な話をしているときに、ぴょんのリズムが崩れるのは調子も狂う。
「頼むから変えてくれ」
「だったら、勇者商会にしてもいいですか? ぴょん?」
「それはもっとおかしいだろ?」
「それなら、ミスラ商会にします。ぴょん」
「……なんでミスラの名前?」
焼き牡蠣を食べていたミスラが、突然話を振られて困惑する。
「商会では、将来ミスラさんの作った聖水をミスラ薬として主力商品として販売するつもりです。ぴょん。なので商会も同じ名前にして商品名と一緒に覚えてもらったら商会の知名度向上にもつながっていいのです。ぴょん」
「おいおい、聖水をミスラの名前で売ったりなんてしたら、彼女が教会に目を付けられるんじゃないか?」
「教会の目の届かないところで販売するから大丈夫です。ぴょん」
「……ん、そういうことならいい。ミスラ薬、素晴らしい」
いいのか?
「……ん。魔法薬や新しい魔法に自分の名前が付けられるのは、魔術を志す者にとって最大の栄誉」
そういえば、天体観測をする人は新しい星を見つけて自分の名前を、植物学の専門家には新種の植物を見つけて自分の名前を、と新しいものに名前を付けるのは栄誉って考えは日本でもあったっけ?
ミスラがいいっていうのであれば、俺は異論はない。
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