第154話 ウサピーの優しさは厳しさのあとで
ハンバルの漁村で宴会をしながら、ダンジョンで見かけた二人組が来ないかと周囲に視線を配っていたが現れることはなかった。
なので、隣にいた人に聞いてみる。
「今日、ダンジョンに行くとボス部屋に男女二人組がいたのをみたのです。年齢は俺より少しと下くらいの冒険者風の姿をしていたのですが、心当たりはありませんか?」
「ん? 海辺のダンジョンに冒険者? いや、聞いたことがないな。少なくとも村の奴じゃないと思うぞ。アクアゴーレムを狩りに行った奴なんて、ここ数十年いないからな。昔はうちのような小さな村でも冒険者が来て、アクアゴーレムを狩っていったものだが――」
「あの、それってもしかして女性の妖狐族じゃありませんか?」
「ん? いや、違うぞ。人間族のパーティだ。引退して漁師になって、いまでは後進の育成に専念してる。ほら、あそこで酒盛りをしてる爺様方だ」
ゴツイ漁師がいると思っていたが、彼らが冒険者だったのか。
ということは、あの二人はこの村の冒険者じゃないのか。
妖力について知ることができると思ったのだが、残念だ。
「ウサピー、ついでだし、いらないものを家に持って帰ってもらってもいいか?」
「商品の持ち運びはできないです。ぴょん。売却ならお受けします。ぴょん」
ゲームシステムのNPCとして、荷物の自宅への輸送はできないが売却はできる。
そういうことなら仕方がない。
「ちなみに、これはいくらで売れる?」
俺は鞄の中から無造作に黒真珠を取り出す。
ウサピーはそれを手に取り、
「15万イリスです。ぴょん」
「蒼剣だと500ドラゴだったはずだが?」
「物価が全然違うです。ぴょん。大サービスで大特価です。ぴょん」
「お待ちください、聖者様! その真珠はとても大きく希少品。当商会では40万イリスで買い取りさせていただきます」
俺とウサピーの話を聞いていたのか、ポットクールさんが割って入った。
って、急に値段倍以上?
ウサピーが査定を誤ったとは思えないが。
「どういうことだ? ウサピー」
「社長。当然、当商会は村営の商会。儲けは村の発展に繋がります。その意味がわかりますよね。ぴょん?」
「ぐっ、お前、それは卑怯だろ?」
拠点の商会、酒場、賭場には儲けの一部がプレイヤーの収入として還元されるが、それと同時に、村の利益としても金額が貯まる。
村の発展には、拠点の施設の合計レベルと村民の数も必要だが、この金額というのも発展条件の一つに数えられる。
これがなかなか時間がかかる。
「ミケは商売っけはないですし、ポチはお金を稼ぐ気はないです。ぴょん。なので、私がお金を稼ぐのは必須。泣く泣く悪役を演じる必要があるのです。ぴょん」
「お前、自分で悪役だってわかってるのか……」
「はいです。ぴょん。あ、でもこれは社長たちに対してだけです。ぴょん。他の商売相手には誠実をモットーにやっています。ぴょん」
そうなのか? とポットクールさんを見ると、彼は苦笑して頷いた。
かなり手ひどくやられている気がするが。
つまり、商売相手には誠実に、そして身内には少し厳しめに商売しているってことか。
俺が持ってる金の亡者の称号、ウサピーにこそふさわしいんじゃないだろうか?
そういうことならウサピーに売るか。
お金も1000万イリス以上あるから、急いで現金を増やす必要はない。
「すみません、ポットクールさん」
「いえ、聖者様は村長の立場ですからね。村営の商会を優先するのは仕方ありません」
村を優先するのではなく、ほとんど私情ですが。
拠点村の成長は蒼剣ユーザーにとっては重要課題ですから。
ということで、その他要らないものは全部ウサピーに売却する。
さすがにボスと何度も戦えることをハンバルの漁村の人に教えるつもりはないのでここでは取り出さないが、さっき解体を頼んだ分以外のアクアゴーレムもこっそり売ってしまおう。
コレクターアイテムはガラクタ、ゴミアイテムでも一点ものなので売りたくないのはゲーマーの性と思ってほしい。
荷物がだいぶすっきりしたところで、
「じゃあ、魚介セットを食べるか!」
俺は茶色宝箱から一個だけ出た魚介類セットを取り出す。
大きな桐の箱に入っていたのは五種類の魚介類。
ある意味宝箱みたいなその中身は既に確認済みだ。
鯛、サザエ、イカ、イクラ(瓶入り)、ウニの五種類だ。
何故かイクラだけ瓶に入っているが、食べやすいので文句は言わない。
「美味しそうなのです。主、この鯛の身を少し使って鯛茶漬けを作るのです」
「できるのかっ⁉ じゃあ頼んだ!」
「はいなのです」
鯛茶漬け、いいじゃないか。
さて、俺たちはその間に焼きウニだな。
ウニは三つしかない。
「ポチの分も焼いておくぞ」
俺も食べたいが、ポチには世話になっているから、ウニはポチに譲ろう。
そう思ったら――
「ポチはウニよりドッグフードが欲しいのです」
「俺が手に入れたことに気付いてたのか?」
「はいなのです」
遠慮――ってわけじゃなさそうだ。
俺が海栗を食べたいのを見越して、ドッグフードの要求。
ポチ、できるな。
俺はその取引に応じることにした。
焼きウニ、楽しみだな。
と思っていたら、ミスラが金色の缶――高級ペットフードを手に持ってウサピーと何か交渉をしている。
「……ウサピー、高級ペットフードを売る事できる?」
「はいなのです。一個775イリスで買い取りします。ぴょん」
高っ!?
さすが高級の名がつくだけのことはあるな。
「……それを買い戻そうと思ったら?」
「800イリスです。ぴょん」
「……買った商品を家まで運ぶことはできる?」
「手数料10イリスで届けます。ぴょん」
「……だったら、この高級ペットフードを売ってこの場で買うから、パトラッシュの前に蓋を開けた状態で届けることって頼める」
そのミスラの問いに、ウサピーは――
「そんなことしなくても、パトラッシュちゃんに高級ペットフードを食べさせてあげることくらいしますよ。ぴょん。あ、その代わりパトラッシュちゃんが食べなかった分は少し安めに買い取らせてもらいます。ぴょん。」
とやさしさを見せた。
なんだ、ゲームシステムだから家に届けるのが無理とか思っていたけれど、効率ではなく優しさを見せたら案外ウサピーも融通が利くんだな。
そうだよな。
NPC――ノンプレイヤーキャラなんて呼んではいるが、ポチもミケもウサピーも、ちゃんと現実にこうして存在して、それぞれ考えて行動している。ゲームのキャラとは違うんだ。
効率とかそういうことではなく、ちゃんと一対一で面と向かって話せば――
ってあれ?
「ウサピー、蒼剣の設定で思い出したんだが、普通、お前の店って、商品の買い取り価格って、売値の25%オフじゃなかったっけ?」
「えっと、はいです。ぴょん」
「なのに、なんで800イリスのペットフードの買い取り価格が775イリスなんだ? って気になって思い出したことが二つある。高級ペットフードの設定、特に意味のない説明だからすっかり忘れてたが、金の缶なんだよな? さすがに純金じゃないと思うが、いったいどのくらいの金が含まれてるんだろうな? それとポットクールさんから聞いたんだが、この国って、金貨の値段を安定させるために、金の買い取り価格は決まっているんだよな? 勝手に高値で売ったり買ったりできないようになってるって。安値で買う分には問題なさそうだが――」
「……うっ」
「もしかして、ペットフードそのものの値段は大したことがないけど、金を含んだ空き缶の値段が高いんじゃないか? だから、食べ残した――もとい絶対に食べない空き缶を安く買おうとしてる……とかないよな?」
俺がそう言うと、ウサピーはウインクして言った。
「……バレました? ぴょん?」
「バレるわ!」
まぁ、今の流れからして、タダで缶を貰おうと思えばもらえたわけなのに、それを安く買い取らせてほしいって言うあたり、ウサピーの優しい面もあるのかもしれないが、さすがにこのだまし討ちは俺も傷つくぞ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます