第155話 出港は船頭と会ったあとで
ハンバルの漁村に来て三日目。
ウサピーは俺たちが起きる前には自由都市に向かって出発したらしい。
そして、入った連絡によると、今日は船を出せるそうだ。
馬車は村に残し、人と物資だけを乗せてポーツ村に向かうことになる。
商会の人間が二人、馬車の見張りのためにハンバルの漁村に残るらしい。
馬車には多少なりとも荷を残しているし、馬も貴重だ。
村の人を信用していないというわけではないが、誰も残さずに無防備に馬車を預ければ、魔が差す者が現れないとも限らないということらしい。
「これが渡し船か――」
帆船を期待していたわけではないが、思っている以上に小さい船だ。
漁船とそう変わらない気がする。
小さな船を二つ横に並べて、甲板が二つ繋がっている。
小さい船だけど、繋げていることで、多くの荷物を載せることができるようになっているし、安定しやすいのだろう。
「小さいけど便利な船だな」
「便利ばかりではありません。
「はは……数カ月漂流するのは勘弁ですね」
「安心してください。ここ
何年も――って、逆に考えれば十数年前には転覆していそうなセリフだな。
転覆しそうになったら帰還チケットを使おう。
間違って落としてしまわないように、道具欄に収納しておく。
それにしても、やっぱり帆を使っての移動なんだな。
異世界ファンタジーだから、海獣を使っての移動とか考えたけれど、そういうのはないのか。
荷物を運ぶのを手伝っていると、船頭さんがやってきた。
「昨日はご馳走様、聖者様」
七十歳くらいのお爺さんだった。
どうやら昨日の宴会に参加していたらしいが、大勢の参加者がいたので、さすがに覚えていない。
平均寿命五十歳を切っているらしいこの世界においては、七十歳といえば超高齢なのだろうが、とても元気そうだ。
「ラッキーさん、今日はよろしくお願いします」
「おう、ポットクールさん。船に乗っているときは儂のことは船長と呼べ」
まだ船に乗っていない船頭さんがそう言った。
ていうか、ラッキーさんって名前なんだ。
縁起が良さそうだが、運の値はどのくらいだろうか?
「そういえば、船長さんは例の山賊に遭遇したんですよね?」
「おう、あれは大変だったな。霧の中、突然、山が現れたと思ったらそこから山賊共が現れてな。荷物を大半奪われてしまったが、儂の漁師道具は勘弁してもらえてな。いやぁ、話せばわかる山賊だったわ」
と船長は新鮮な魚の骨のように真っ白な歯を見せて笑った。
話せばわかる山賊だったら、荷物を奪ったりはしないだろう。
「山っていうのはどのくらいの山なんですか?」
「ん? あぁ、大きな真っ黒い山だな」
それがどのくらいの大きさの山なのかって聞いているんだが。
でも、真っ黒い山か。
実は山だと思ったらクジラのような魔物の背中だったとか――って、それはないって騎士たちと話したんだよな。
「でも、霧の中進めるんですね」
「そりゃ当然だ。長年船長をしているんだ。目をつぶっても感覚だけでたどり着けるわ」
と目を粒って片足立ちをした。
頼もしいが無茶しないでくれ。
という感じで船は出港した。
「船に乗るのは生まれて初めてです。この揺れに慣れておかないと戦いのときに困りそうですね。少し体を動かしたいのですが」
「船長が座ってろって言ってたから大人しくな」
アムはもう戦いの準備か。
まぁ、船の上の戦いに慣れてないと不便かもしれないが、仮に相手が山賊だとしたら、こっちが山に攻め込めば陸地で戦えるだろう。
いまから戦いのことを考えているアムはまだいいとして、
「……船で本を読むのは……気持ち悪い」
ミスラがへばっていた。
馬車の中だと本を読めたミスラだったが、揺れる船には勝てなかったようだ。
「ミスラさん、無理したらダメなのです」
ポチがミスラを嗜めるが、そのポチの姿が――
「なぁ、ポチ、その服なんだけど」
「…………」
「似合ってるぞ」
「……はいなのです」
今日のポチの服は、フリフリのドレスだった。
昨日、ポチが一晩お世話になった家のおばちゃんが昔娘さんが着ていた服をポチのために仕立て直したらしい。
本当は断りたかったそうだが、その娘さんはもう何年も前に他の村に嫁いで会っていないらしく、「まるで娘が帰ってきたみたい」と嬉しそうにしているおばちゃんの姿に断れなかったそうだ。
まぁ、ポチも女の子だからな。
たまにはこういう服を着るのもいいと思うぞ。
さて、目的地まで時間があるし、俺たちはのんびり釣りでもしようかな。
フィッシュソナーの魔法を使えば、魔物を釣ってしまうこともないだろう。
釣り技能のレベルを上げて、運の値を上げたいな。
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