第156話 霧を抜けるのは秘密を見抜いたあとで

「よし、また釣れた!」


 釣れたのはサンマだった。

 ネタ装備ではなく、普通に焼いて食べるサンマの方だ。

 蒼剣ゲームシステムにより、三十秒から四十秒に一度ヒットするのは確定しているからな。

 フィッシュソナーの魔法により、魔物を避けて釣ることができるので、

 川と違って海だから、釣れる魚の種類も多い。

 伊勢海老が釣れたのは驚いた。

 鑑定でも伊勢海老ってハッキリ出ている。

 伊勢がないのに伊勢海老って、どういうことだ?

 と思ったら、その謎は解けた。


「聖者様、もしかして元漁師だったりしませんか? 私でもそんなに釣れませんよ」


 そう言うのは、ラッキーさんの曾孫で副船頭をしているハッピーさんだ。これまた縁起の良さそうな名前である。

 

「でも、変わった魚も多いですね。長い間村にいますが、たとえばこんな海老、見たことありませんよ」


 とのことなので、伊勢海老が釣れたのはゲームシステムの恩恵のようだ。

 いや、わかってたよ。

 生きた化石と呼ばれるシーラカンスが釣れた時点でこれはおかしいと。

 さすがにシーラカンスを食べる勇気はなかった。

 鑑定してみると、水を十分に吸ったブラシのような味ということらしいので、美味しくないのだろう。

 一応、調理の仕方によっては食べることもできるそうだが、食べ過ぎると下痢になるとまで書いてある。

 食べれないからといって、キャッチアンドリリースしたら生態系にどんな影響が出るかもわからないので、道具欄に保存している。

 

「それに、見たことのない鍋や靴も――」


 ポットクールさんがヤカンと長靴を見て言う。

 うん、これもゲームシステムの影響だな。

 それと、これは実験的に行ったのだが、俺が釣りをして魚がヒットしたところで、アムが魚を釣り上げてもアムの釣り技能経験値になることが判明。

 その方法を利用して、アムの釣り技能のレベルを上げてみた。

 結果、以前はほとんど成長しなかったアムの釣り技能がレベル5になり、運が1上がった。

 現在、銀色宝箱への昇格率は22.8%になっている。

 最初に比べればだいぶマシになったが、もう少し上げたいな。

 そんな中、へばっていたのがポチだった。

 なんと、ポチが船酔いになったのだ。


「うぅ、辛いのです」

「大丈夫か? 少し寝てろ」

「ごめんなさいなのです」


 最初はミスラを気遣う余裕を見せたポチだったが、徐々に顔色が悪くなり、ついにはダウンしてしまった。

 馬車の揺れは平気なのに、船の揺れはダメだったらしい。

 ポチが荷物の上でぐでっとなって横になる。


「聖者様、そろそろ釣りは辞めて警戒したほうがいいぞ」


 ラッキー船長が言った。

 何事かと思ってみたら、遠くに霧が立ち込めているのが見える。

 例の山賊が襲ってくるという霧か。


「霧の中進んでも大丈夫でしょうか? あのあたり、結構岩礁地帯が多いですけど」


 霧の中なので良く見えないが、地図を見ると岩礁地帯があるようだ。

 大型船ではないので浅い場所を進むことはできるだろうが、ぶつかりでもしたら大変だろう。

 

「大丈夫だ。このまま真っすぐ進めば岩礁地帯に当たることはない。長年船長をやってきた俺を信じろ」


 ラッキー船長が意気揚々と進む。


「波も穏やかですし、風の方向も一定ですから、真っすぐ進むくらいはできますよ」


 ハッピーさんもそう言うが、心配になった俺は念のために地図を出しておく。

 船が霧の中に入った。

 真っ白で数メートル先も見えない。

 ただ、ラッキー船長の言うとおり、船は真っすぐ進んでいるだけに感じる。

 これなら迷うことは――ってあれ?


「ラッキー船長、船、真っすぐ進んでるんですよね?」

「ああ、そうだ」

「船、徐々に進路が変わってます。さっきまで西北西に進んでたのに、いまは西に――いや、西南西に進んでますよ」

「はぁ、何を言ってるんだ? 真っすぐ進んでるに決まってるだろ。風の向きに波の向きは確かだ――」


 確かだって言われても、実際地図で見ると船は向きを変えている。


「……魔力を感じる。魔力で風の向きと波の向きが変えられている」

「なんですってっ!? ミスラさん、それは本当ですか?」

「……間違いない」

「ラッキー船長! 右方向に向けてください」

「だが――」


 ラッキー船長は自分の勘が外れたことを信じられないようだ。

 だったらこれで信じられるだろう。


 俺は道具欄からお祝い用打ち上げ花火を取り出す。

 そして、それを斜め方向に打ち出した。


「聖者様、何を――」

「いいから見てください!」


 霧の中、花火が光り輝き、霧を照らす。

 その霧が映し出していたのは、小さくでた岩――岩礁地帯だ。


「ラッキー船長、長年船に乗ってきたならわかるでしょ! 本来、あんな場所に岩礁がないことが」

「わかった! 面舵いっぱい! ハッピー、帆の向きを変えろ!」

「わかった、曽爺ちゃん!」

「船の上では船長と呼べっ!」


 ラッキー船長が船の向きを変えたことで、航路は本来の向きへと変わった。

 これで大丈夫だ。

 そう思ったら――


「何か来るぞ!」


 地図を確認すると、赤いマークがこちらに向かって来る。

 敵だ。

 霧の中、近付く何かを警戒して海面を凝視する。

 もしかしたら海の中かもしれない。

 警戒していると、突然それは霧の中から現れた。

 大きな鳥だった。

 海の方ばかり見ていた俺は、空からの奇襲に反応が遅れてしまう。


「ロック鳥っ!?」


 アムが立ち上がろうとしたが、彼女が立ち上がった直後、船が大きく揺れ、バランスを崩してしまった。

 その間に巨大鳥は船の中央部においてあった荷物を鷲掴みにすると飛び去っていった。

 くそっ、やられた!

 俺は立ち上がり魔法を放とうとするが、既にロック鳥は霧の中に消えて見えなくなった。


「聖者様、落ち着いてください。荷物は一部奪われましたが、他は無事です。それより、急いで霧を抜けましょう」

「え……えぇ」


 そして、暫く進むと船は霧を抜けたのだった。


「すまんかった。まさか波と風を魔法で変えられているとは――ということは、突然現れた山っていうのは――」

「ええ、たぶん、あのまま真っすぐ進んでいたら岩礁地帯にある岩山のどれかに誘導されるようになっていたのでしょう。山賊たちはその岩山で待ち受けているんだと思います」


 このパターン、ハンバルの漁村の西の街道と同じだ。

 街道の話では、真っすぐ街道を進んでいると思ったらその街道が作り変えられていて気付けば知らない場所に行かされていた。

 今回も、真っすぐ進んでいると思ったら、波と風を変えられ、あらぬ方向に誘導されていた。


「どちらも山賊の仕業か?」

「しかし、ただの山賊にそのようなことができるでしょうか?」


 謎は深まるばかりだが、しかし、無事に岬の山賊が出る場所を越えることができた。

 ポーツ村に行くことができる。


「そうだ、奪われた荷物は――」

「食糧の一部ですね。被害としては最小限に収まりました」

「すみません、護衛の俺たちがいながら――」

「いえいえ、聖者様が山賊の罠に気付かなければ船が襲われていました。無事に霧を抜けられたのも聖者様とミスラさんのお陰です」


 ポットクールさんがそう言った――その時だ。

 アムが何かに気付いたように言う。


「ご主人様――ポチさんがいません」

「え?」


 ポチがいない?

 そういえば、ポチって船酔いで眠っていたよな?

 そして、眠っていたのって――巨大鳥に盗まれた荷物の傍だったような。


「まさかっ!?」


 ポチが巨大鳥に攫われたっ!?



―――――――――

5分遅刻ごめんなさい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る