第157話 ポチを追うのは接岸したあとで

 ポチがロック鳥に攫われた。

 ロック鳥が山賊の仲間なのか、それとも野生の魔物なのかはわからないが、あの時ロック鳥は荷物を鷲掴みにすると、岬の方に引き返して言った。

 ということは、野生の魔物だとしても岬に巣があるはずだ。

 今すぐ引き返したいと思ったが、あの霧の中、闇雲に捜して見つかるものではない。


「船長、船をあの海岸に接岸させてください!」


 俺がもたもたしていると、アムがラッキー船長に言って、船を岬近くの岸壁に停泊するように言った。

 ラッキー船長はそれを受け、ハッピーに指示を出し、船を操り岸壁沿いにつけた。

 岸壁はかなりの急斜面だが、場所を選べば登れないことはなさそうだ。

 ここから地図を頼りに岬の方に行くことは可能だ。


「ポットクールさん、一時間で戻ります。戻らなかったら先に行ってもらっていいでしょうか?」

「わかりました。ポチさんがいなければ私としても困りますから」

「感謝します。それとミスラ、お前も残ってくれ」

「……ん。護衛も必要。それに、ミスラの体力だと崖を登るのに時間がかかる」


 そういうことだ。最後に――


「アム、ついてきてくれるな?」

「私は常にご主人様とともに在るだけです」

「だと思った。行くぞ」


 俺はそう言って船から飛び降りると、上りやすい場所を見つけて崖を登っていく。

 崖登りは俺よりアムの方が早く、ついてきてくれって頼んだのに、むしろアムについていく形になったのは少しカッコ悪い。

 そして、俺たちは岬の方に向かって走った。


「ところで、アム。さっきロック鳥を見て驚いていたが――」

「はい。ロック鳥は本来このあたりにはいない魔物です。もしかしたら母を殺した百獣の牙の手下の魔物のうちの一体の可能性があります」

「本当か!? ロック鳥の特徴は?」

「とても巨大な鳥であり、グリフォンの祖となる種族であるとも言われています。その力は強く、百獣の牙が活動していたころの記録では、ロック鳥が馬車ごと奪い去っていったという話もあります」


 馬車ごと持ち上げるって、それで飛べるのか?

 魔法の力でも働いているのだろうか?

 ミスラが風の力が働いているって言っていたが、もしかしてロック鳥の力だろうか?

 だとしたら、波は?

 考えても答えは出ないのはわかっているが、しかしごちゃごちゃになる。


 ん? あれは?


「ご主人様、人のにおいがします」

「この前の騎士たちだろう。霧の濃い場所を囲むように部隊を展開している」


 地図を見て俺も気付いた。

 人数は以前より多いな。

 アムの鼻を頼りに、以前話を聞いた隊長さんの場所を見つけ、そちらに向かった。

 兵士の一人が俺に気付き、それが隊長にも伝わる。


「止まれ!」


 そう言われて、俺たちは両手を上げてその場に止まった。

 すると隊長さんが近付いてくる。


「お前達は先日会った冒険者だな。ここで何をしている!」

「実は――」


 と俺は隊長さんに先ほど起こったことを伝えた。

 さらに、波と風を魔法で変えて、霧の中真っすぐ進んでいるはずが、いつの間にか岬の岩山に誘導されていたことも伝える。


「なるほど……霧の中突如現れる山の正体はそういう理屈だったのか。情報感謝する。それが事実であるのなら、敵の中に魔術師がいる可能性、そしてロック鳥がいる可能性も考慮しなくてはならなくなった」

「こちらはどういう状況なのですか?」

「本国に求めていた救援が集まったので、これからこの地域を囲い込む作戦だ。五人に一人は獣人の騎士を配置し、匂いで敵の位置を把握する」


 霧の中、敵を見逃さないように騎士達が十メートル間隔で距離を置きながら霧の周囲に部隊を展開。

 そこから徐々に岬に近付いていき、そこにいるであろう敵を追い詰める。

 そういう作戦のようだ。

 山狩りをするときに似ている。

 唯一欠点があるとすれば、ここは岬だから海に逃げられる可能性あがるということだろうが、霧の中、断崖絶壁を下って降りるのはその土地に慣れた人間でも難しいだろう。


「もしよろしければ俺たちもその作戦に同行させてもらえませんか? 仲間を救助するためです」

「気持ちはわかるが、一般人を戦いに参加させるわけには――」

「匂いにより敵の位置を把握するっておっしゃいましたが、相手は風の魔法を得意とするので、その風を操って、自分の位置を風下にすることで匂いを悟られないようにする可能性もあります。でも、俺には霧の中でもどこから敵が来るかわかる能力があります。絶対に役に立ちます」

「ならない。君達を完全に信用したわけではないんだ。従魔のコボルトのことは覚えている。見つけ次第保護すると約束しよう。ここで待っているんだ。従わないなら捕縛する」

「くっ」


 騎士隊長さんからしてみれば、俺たちも山賊の仲間かもしれないと警戒するのは当然のことか。

 だが、ここで指をくわえて見ているっていうのは。


「……何か来る」


 地図を見ると赤い何かがこちらに向かって来る。

 その数――


「数は十以上――敵です!」

「何っ!? 警戒っ!」


 騎士達が警戒態勢を取る。

 動きがいい。

 訓練された動きだ。

 

 これなら撃破できるだろうか?


 そう思ったのだが、おかしい。

 地図だともう見えてもおかしくない位置に来ているはずだ。

 なのに、何故いない?

 空……じゃない。

 ということは――


「地下ですっ!」


 俺がそう言った直後、地面が大きく揺れた。

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