第86話 ホワイトモール狩りはブラックモール狩りのあとで

 ブラックモール狩りは疲れる。

 常に不意打ちへの警戒をし、魔法で巣穴から追い出せば一度に複数の敵と戦う対応力が必要で、魔法のクールタイム中は敵が出てくるのを待つための忍耐が試される。

 倒した俺たちは、アドモンを倒すため、他の魔物のいる場所を全力で素通りし、別のブラックモールの狩場に向かう。

 そして、倒し続けると、一匹白いモグラが現れた。


「出た、ホワイトモールだっ!」


 ブラックモールのアドモン、ホワイトモール。

 そいつの特徴はただ一つ――穴から出てきた時点で狂暴化していること。

 しかも、ステータスはブラックモールより高いから厄介だ。


「「スポットライト」」


 俺とアムにスポットライトの光が集まり、タゲを集める。

 ホワイトモールが一気に跳躍した。

 アムの頬を鋭い爪が掠める。

 あのアムが躱し切れないとは。

 もっとも、アムもすれ違いざまに一撃を入れ、僅かにダメージを与えていた。

 しかし、こちらも掠っただけで致命傷には至っていない。


「……水よ」


 ミスラがなんか詠唱を省略して魔法を放つ。

 その魔法はホワイトモールではなく、別の場所から不意打ちを狙って現れたブラックモールに命中していた。

 彼女にはホワイトモールではなく、ブラックモールが出てきたときに魔法を使ってもらうことになっていた。

 水を浴びたブラックモールは巣穴の中に逃げ込む。

 ホワイトモールが表に出ているとき、ブラックモールは不意打ち役となるため、巣穴を壊されない限り不意打ち以外で姿を出すことはない。


 ミスラには投擲用の普通の石を渡しているので、魔法のクールタイム中もブラックモールが現れたらそっちに石を投げてもらうつもりだ。

 それだけで、俺とアムはホワイトモール相手に集中して戦える。

 集中しないと勝てない相手だ。


 ホワイトモールが穴に潜った。

 そして、別の穴から出てきて今度は俺目掛けて飛んでくる。

 俺はそのホワイトモールの鋭い爪を、蒼石の斧の側面を盾代わりにして受け止めた。

 そして、


「ウォーターガン」


 はじき返したホワイトモールに水魔法を放つ。

 水魔法を浴びたホワイトモールは身体を回転させながら飛んでいくも、再度地面の中に潜った。


 次、この穴から出てきたら斧を叩きこんでやる。

 ホワイトモールが出てくる穴に山を張り、そう意気込む。


 そして――出てきた。


「そこだっ!」


 俺の斧の一撃がモグラたたきみたいにそいつに叩き込まれた。

 命中した。

 だが、それはホワイトモールではなく、ブラックモールだった。


「ご主人様、後ろっ!」

「なっ⁉」


 穴がなかったはずの場所からホワイトモールが穴を掘って表れ、そしてその鍵爪が俺の背中に当たる。

 盗賊のナイフでは傷つかなかったはずの身体にその爪が食い込む感覚が激痛とともに伝わってきた。

 だが――


「捕まえたっ!」


 俺は背中に手を伸ばしてホワイトモールを捕まえると、無理やり引っ張りぬく。

 その時、俺の背中の肉が削りだされるような激痛が走った。

 その痛みの恨みをホワイトモールにぶつける。

 俺はそいつを地面にたたきつけ、斧を振り下ろした。

 敵の反応が消え、赤い宝箱が現れた。


「いってぇぇぇぇえっ!」


 ようやく俺は痛みで騒ぐ。


「ヒールヒール、いや、ポーション!」


 ヒールが魔法のクールタイム中で使えなかったため、道具欄からポーションを、あと変な細菌とか入ってたら嫌なので解毒ポーションを使う。

 なんとか痛みが引いたが、疲れた。


「ご主人様、大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ――大げさに騒いだが、体力は二割も減っていなかった」


 つまり、あの攻撃を五回受けても死なないってことなのだが、その前にショック死するんじゃないだろうか?

 そのくらい痛かった。


「……トーカ様、宝箱」

「よし、急いで宝箱を開けて、離脱するぞ」


 まだこの近くにブラックモールがいて、不意打ちを狙っている。

 俺は宝箱を開けると、中身を取り出し、それに対して考察する前に通路に逃げた。

 ここは魔物がいないので、改めて手に入れた物を確認する。


「……本。でも魔導書じゃない」

「ああ、技術書だな。覚えられるのは穴掘りだ」


 ホワイトモールの宝箱は技術書(穴掘り)を未取得の状態に限り50%の確率で穴掘りの技術書が手に入る。

 なので、本が出てきた時点で鑑定するまでもなく、穴掘りの技術書だろうと目星を付けていた。


「穴掘り?」

「ああ。商店が出来たら売りに出される穴掘りスコップがなくても穴を掘ることができる能力だ。さっき採掘して石とか鉱石とか手に入れてただろ? それと同じように穴掘りポイントってのがあって、そこを掘るとやっぱりいろんなものが出てくる。穴掘りポイントは地図には表示されないから、怪しい場所に来たら穴掘りって感じで使う……お、今回は俺とアムだけじゃなくてミスラも覚えられたな」


 技術書を「つかう」してみたところ、三人とも効果があった。

 何気にミスラは能力、初取得じゃないか?

 試しに穴掘り能力をその場で使ってみるが、何も起きない。

 宝がない場所だと効果がなかった――となるのも蒼剣と同じだな。


「一応、商店で売ってる埋蔵センサーがあれば埋まってる宝の場所がわかるんだがな……あ、そうそう。穴掘りは採掘や伐採、釣りと同じで技能レベルが存在して、レベル5上がるごとに運が一つ上がる」

「つまり、宝箱の昇格率が上がるんですね!」

「そういうことだ。アムが技能を覚えられるかわからないし、覚えられたとしてもすぐにレベルが上がったりしないとおもうが、とりあえず積極的に使って行こう」

「はい!」

「穴掘りでしか手に入らない魔導書もあるからな」

「……魔導書っ!?」


 ミスラも魔導書という言葉に反応を示す。

 正確には発掘されるのは魔導書じゃなくて、別のアイテムなのだがそれについてはそのアイテムが出たときに説明すればいいだろう。

 うんうん、穴掘りは楽しいからな。

 蒼剣だと攻略サイトがあれば、入るたびに形が変わるダンジョンを除き全ての穴掘りポイントがわかるのだが、この世界だとどこが穴掘りポイントか、自分で調べるまでわからないのだが、それが楽しみだ。

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