第87話 アイアンゴーレム退治は穴掘りのあとで

 穴掘り能力が発動しやすい場所は、たとえば袋小路の行き止まりや、森の中なんかだと、フェアリーサークルの中央に多い。

 試しに何カ所か穴掘りを使ってみたが、発動する様子がない。

 この世界だと違うのかと最後の穴掘りを試したところ、突然目の前に深さ三十センチくらいの穴が現れた。

 そして、その中にあったのは――


「剣ですか?」

「いや、刀だ」


 俺はそう言って刀を抜く。

 綺麗な細見の刀だ。

 やっぱり日本人だ――日本刀は憧れがある。


「綺麗な刀身ですね」

「ああ、この刀は俺の世界では有名な刀でな。あまりに綺麗なため敵と戦うときに使うのを躊躇って逃げ出してしまったという逸話が残っているほどだ」

「……それは、武器としては少し困りますね。ですが……」


 アムは怪訝な顔をして尋ねる。

 どうやら、アムはこの刀が持つ違和感に気付いたようだ。


「ご主人様、これは……玩具ですか?」

「さすがアム、よくわかったな。これはの菊一文字則宗のレプリカだ。戦いには使えないよ。コレクションアイテムだな」


 コレクションアイテムは、単体だと効果はあまりないが、複数集めると効果を発揮する。

 菊一文字は日本刀シリーズのコレクションアイテムで、他に正宗、ムラマサ、三日月宗近、長曾禰ながそね虎徹、童子切安綱どうじぎりやすつなが存在する。

 三種類集めたらレギュラーメンバーの攻撃値1%上昇

 四種類集めたら襲撃イベント時の仲間NPCの攻撃力5%上昇

 五種類集めたら刀の鍛冶レシピ獲得

 六種類コンプで従魔「芝丸」獲得


 って感じだったはずだ。


「集めれば効果があるのですか」

「そういうこと。まぁ、気長に集めるしかないな」


 菊一文字のレプリカを道具欄に収納する。

 コレクターアイテムの性能を無視しても、刀を部屋に飾るのは少し憧れる。

 床の間が欲しいくらいだ。

 確か、日本に似た国柄の土地にサブ拠点を作り、そこに別荘を建てたら日本家屋ができるはずだ。

 刀を飾るとしたら、そこだろうが、でも、この世界に日本に似た文化を持つ国が存在するかは未知数だ。


「さて、穴掘りはまた今度ってことで、そろそろ三階層に行くぞ」


 これまでで一番広いダンジョンだ。

 最低三周するとなると、そろそろ奥に行かないといけないな。


 三階層に続く道も階段ではなく下り坂だ。

 マップ切り替えのロード画面がないが、また地図で確認する。

 画面が切り替わった。

 ここからが三階層だ。

 ここまで出てこない敵、アイアンゴーレムがいるのは間違いないな。


「アイアンゴーレムですか……」


 アムが嫌そうな顔をする。

 彼女がそう思うのも無理はない。

 アイアンゴーレムは厄介だ。

 弱点属性は雷属性だけ。

 物理攻撃はゴーレムつるはしと槌以外ダメージを与えられない。

 それでも倒したいのは、ドロップアイテムの一つ、魔鉄が欲しいからだ。

 幸い、ゴーレムツルハシはホワイトモールとの戦いの途中で修復済み。

 三階層のアイアンゴーレム戦に備えて採掘にも使わずにいた。


「じゃあ、行くぞ」


 マップで敵の反応のある方に進む。

 部屋の奥、通路の前にそいつはいた。

 身長二メートルはある鉄の塊、アイアンゴーレムだ。

 あれが全部鉄なら、重さは一トンを超えるように見える。

 アイアンゴーレムは攻撃を受けるか一定距離に近付くまで、ああして通路や部屋の入り口などで門番のように立っていることが多い。そのため、守護者ガーディアンとも呼ばれる。


「……サンダーボルト」


 ミスラの雷魔法がアイアンゴーレムに命中した。

 見た目ではそのダメージはわからないが、アイアンゴーレムが動き出す。


「アムはミスラを守ってくれ! 俺が行く!」


 俺はアイアンゴーレムに接近し、ツルハシを思いっきり振るった。

 これでダメージを――って折れたっ!?

 アイアンゴーレム一撃でツルハシがいきなり折れた。

 一パーセントの悪夢っ!?

 と驚いている間に、アイアンゴーレムの拳が俺の身体を捉えた。


 重さ一トンのアイアンゴーレムに殴り飛ばされるのって、軽自動車に衝突するくらいの衝撃があるんじゃないか?

 これがラノベの世界なら異世界転生してしまうところだ。

 なんとか腕で身体への直接攻撃は防いだが、盾代わりにつかった腕がボロボロだ。

 自己診断では骨は折れていないがヒビくらい入ってるだろう。


「ヒール」


 回復魔法を使って治療する。

 そして、聖剣を蒼石の斧に持ち替えた。

 物理攻撃に耐性があるっていってもダメージが全く通らないわけではない。

 ボール退治と一緒だ。

 殴り続ければ倒せるし、クリティカルが出れば大ダメージを与えられる。

 蒼石の斧で叩きつける。

 硬い――反動で腕にダメージを受けているのではないかと思うくらい硬い。

 アイアンゴーレムが殴ってくるがもう殴られたくない。

 距離を取る。

 俺と一緒だ。

 攻撃の威力は高いが、攻撃頻度は低い。

 アニメとかでよくある『あの巨体でなんて速さだ!』ってのはない。

 大きい分、動きは遅い。

 距離を取って戦う。

 時間を稼げば――


「サンダーボルト!」


 クールタイムを終えたミスラの魔法が援護してくれる。

 だが、アイアンゴーレムはまだ倒れない。

 やっぱり強い。

 でも、負けてられない。

 この先にジャイアントゴーレムが待ってるんだ。

 つまり、こいつは雑魚だ。


「お前みたいな雑魚にこれ以上時間をかけてられねぇんだよっ!」


 俺の斧が出た。

 クリティカルではない。

 通常ダメージだ。

 それでも、ダメージは確かに通った。

 アイアンゴーレムは一歩動き、そして倒れた。

 地図を確認する。

 敵の反応は消えていた。


「倒したな」


 ドロップアイテムを確認する。

 素材アイテムとして鉄塊と黒鉄くろがねが追加されていた。 

 鉄塊はダンジョンの宝箱からもたまに出ている素材アイテム。

 そして、黒鉄は、聖剣――黒鉄シリーズの解放アイテムだ。


 一気に、黒鉄の剣と黒鉄の斧が解放される。

 黒鉄の槍と黒鉄の短剣は……蒼木の槍と蒼木の短剣のレベルが低い上に、まだ紅石の槍と蒼石の短剣も未開放状態なのでお預けだな。


「……トーカ様、グッジョブ」

「ああ、ミスラこそグッジョブだ」

「ご主人様、すみません、役に立たなくて」

「そのことなんだが、見て欲しいものがある――って重っ!?」


 道具欄から、素材アイテムに加えてドロップしたアイテムを取り出すと、あまりの重さに腕が悲鳴を上げる。

 それは、鉄の巨大ハンマーだ。

 10トン……は流石にないが、50キロくらいあると思う


「アイアンハンマー……アイアンゴーレムのレアドロップだな。いきなり出るとは思わなかった。アム、これ使えるか?」

「……重いですが使いこなせるようになると思います。これでアイアンゴーレム相手にもダメージを与えられるのですね?」

「あ、あぁ、無理するなよ。アムの持ち味はあくまで俊敏だから、ゴーレム系の敵以外では使わなくてもいいからな」


 聖女の姿で鉄の巨大ハンマーを振り回す白髪の妖狐――属性付き過ぎな気がする。

 うーん、やっぱりいまからでもアムには待機してもらおうか?


 と思ったが、アイアンハンマーを見てやる気を出しているアムを見て、そんな考えはなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る