第88話 山のダンジョンの報酬は鉄巨人を倒したあとで-1
「たぁぁぁぁっ!」
気合いを入れた一撃がアイアンゴーレムに入る。
アムのアイアンハンマーは絶好調だ。
大きな声を出すのは、そうしないとうまくハンマーを振るえないかららしい。
俺とミスラのサンダーボルト、そしてアムのアイアンハンマーにより三階層でのアイアンゴーレム狩りは一応順調にこなせるようになっていた。
もっとも、アムの持ち味である超接近戦で躱しながら戦う回避タンクスタイルは取れなくなったので、今まで通りというわけにはいかないが。
「アムって二刀流って時点で器用なのはかわかってたけど、剣がメイン武器だったのに最近は短剣も取り入れて、今度はハンマーだもんな」
「母から一通り武器の扱いについては教わりましたので。槍や弓矢も扱えますよ」
「本当に万能なのか」
ていうか、それを教えることができるアムの母親が凄いのか。
一体何者なんだ?
アムにも、他に彼女を知る人に聞いても、凄い人だったという伝説は残っているが、具体的に何者なのかはわからないんだよな。
わからないっていえば、アムの父親についてもわかっていないが。
「使えないのは魔法だけか……ん? アムって妖狐族だよな?」
「はい。そうです」
「だったら、魔法の代わりに妖術とか使えたりしないのか?」
「妖術……とはなんでしょうか?」
知らないのか?
妖術について大雑把に説明をするも、そのようなものは使えないどころか知らないらしい。
ミスラを見るも彼女も首を横に振って知らないと言った。
どうやら妖術はこの世界にはない、もしくは知られていないらしい。
もしかしたら、魔法が使えない代わりに狐火とか、変化の術といった妖術が使えるのではないかと思ったのだが違ったようだ。
じゃあ、妖狐族の「妖」ってなんだ?
妖精?
アムって妖精のようにかわいいから、そう言われると納得しそうになるが、でも雄の妖狐族もいるんだもんな。
おっさんや爺さんの妖狐族を捕まえて、妖精みたいとは言わないだろう。
アイアンゴーレムを倒し続け、鉄塊がいっぱい集まってきたところで、ボス部屋に到着。
少し休憩を入れる。
「さて、ここのジャイアントゴーレムだ。戦い方の基本はアイアンゴーレムと同じだが、一撃のパワーはアイアンゴーレム以上。アムのこれまでの戦い方だと少し危ない気がする」
アイアンゴーレムとの戦いでも、彼女は三度ほど攻撃をくらっていた。
そのたびにポーションを使って治療していたので命の危険はなかったが、ジャイアントゴーレムだとそうも言っていられない。
「いえ、ご主人様。これまで通り戦わせてください。ハンマーの扱いにもだいぶ慣れてきました」
彼女の言う通り、確かにハンマーの扱いもスムーズになってきた。
その証拠に、ステータスを見ると、槌術(レベル1)の技能が生えていた。
それでも俺は反対したいのだが――
「ジャイアントゴーレムの攻撃を一撃食らったらポーション使用と同時に離脱。道具使用が再度使用できるようになるまで接近しないこと。それを守ってくれ。ジャイアントゴーレムが連打する姿勢を見せれば、アイアンハンマーを棄ててでも逃げるんだ。それとスポットライトは使うな」
「わかりました。それで戦います」
「ミスラは遠くからサンダーボルトだけ頼む。絶対に近付くな。ジャイアントゴーレムから一番遠い部屋の隅に移動することを心掛けるんだ。それと、ジャイアントゴーレムはHPが半分になると体内からミニゴーレムを三体召喚するから、そいつを優先的に攻撃してくれ。今のミスラの魔法なら一撃で倒せるはずだ」
「……わかった」
作戦を伝え終わり、アムに「パワーレイズ」の魔法を掛けた俺は、二人と共に部屋に入った。
ボス部屋に入るなり、最初にミスラに伝えた作戦が使えないことに気付く。
何故なら、そのボス部屋は四角い部屋ではなく、ドーム状の部屋だったから。
つまり、部屋の隅がないのだ。
もっとも、壁際に逃げ続けるという命令は変わらない。
そして、部屋の中央にそいつはいた。
まるでこの部屋を守っているかのような身長五メートルはある鉄の巨体――ジャイアントゴーレムだ。
目が赤く光っているが、いまのところ動く気配はない。
アイアンゴーレムと同じで、近付くか攻撃するかしないと攻撃を仕掛けてこないのだろう。
「「サンダーボルト!」」
俺とミスラが同時に魔法を放つ。
まるでそれによりエネルギーが与えられたかのように、ジャイアントゴーレムが動き出した。もちろん、ダメージはしっかり通っているはずだ。
「スポットライト」
俺はスポットライトでジャイアントゴーレムのタゲを集めながら黒鉄の斧を持ち、アムはアイアンハンマーを持ってジャイアントゴーレムに向かう。
ジャイアントゴーレムはその巨体のため、拳が届く範囲も広い。
拳が届かない範囲といえばその足下なのだが、近付き過ぎると踏みつけてきたり、倒れこんだりしてくるのでさらに危険度が増す。
「足を狙え!」
弱点は頭なのだが、飛び道具も無しに高さ三メートルはある頭を狙うのは現実的ではない。
「アックセルターンっ!」
近付いた俺は、斧術レベル10で覚えた回転しながら斧で攻撃を加える技を使い、ジャイアントゴーレムの右脚を狙う。
しかし、やはり硬い。
「やぁぁぁぁあっ!」
アムのアイアンハンマーが左脚に当たるも、ダメージはどれだけ入っているか不明だ。
ジャイアントゴーレムが拳を振り上げた。
俺とアムは攻撃を止めてその攻撃を躱すのに集中する。
拳は俺の方に来た。
スポットライトの効果が効いている。
俺は覚悟を決め、道具欄を開く。
そして、俺は腕で拳を受け止めた。
下手に避けるより、しっかり腕で受け止めた方が致命傷にならない。
もちろん、ダメージを受けた後にすかさずポーションを使用し、減った体力を補う。
いったぁぁぁくはない。
大丈夫、これまでのアイアンゴーレムとの戦いで、ダメ―ジを負って直ぐに回復すれば、痛みは一瞬で済むことを学んだ。
結構ヤバイ考えだが、これで戦える。
防御をしっかりするようになり、防御技能も生えてきた。
スライムに殴られてからは、攻撃を受けまい受けまいと必死になり、防御で攻撃を敢えて受けることをしてこなかったが、アイアンゴーレムの攻撃を何度か受けて吹っ切れた。
お陰で、防御値が増えているし、防御によるダメージの減少割合も増えている。
「せいやぁぁぁぁっ!」
アムの気合いの一撃がジャイアントゴーレムの左脚を捉えた。
ジャイアントゴーレムの左脚から力が抜け、片膝をついて倒れる。
「いまだ、頭を狙え!」
ジャイアントゴーレムとの戦いは始まったばかりだ。
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