第89話 山のダンジョンの報酬は鉄巨人を倒したあとで-2

 ジャイアントゴーレムが起き上がる。

 頭に集中攻撃を与えてもなお倒れない。

 俺の斧には耐性があるし、弱点であるハンマーを使っているアムや雷魔法を使っているミスラはそもそもの火力が足りないのだ。


 このような苦戦は初めてだ。

 完全クリアはとっくに諦めている。


「さっきと同じように行くぞ!」

「はい!」


 俺とアムはジャイアントゴーレムの脚を狙う。

 その時、ジャイアントゴーレムが大きく跳んだ。

 まずい――


「跳べっ!」


 俺はそう叫び、ジャイアントゴーレムの着地と同時に大きく上に跳んだ。

 着地の瞬間、地面に接していたらその衝撃でスタン状態になってしまうジャイアントゴーレムの技だ。

 俺とアムがなんとか回避するとジャイアントゴーレムの身体が開き、中から小さなアイアンゴーレムが三体現れた。


「ミスラ、いまだ魔法を!」


 飛んでこない。

 おかしい、クールタイムは過ぎているはず――と肩越しに後ろを見ると、ミスラが動けなくなっていた。

 ジャイアントゴーレムの衝撃波をもろにくらいやがったな。

 ミニアイアンゴーレム三体のうち二体が俺の方に来る。

 ジャイアントゴーレムの相手もしないといけないのに、ここで三体同時に相手をするのは骨が折れるぞ。

 アムの方にもミニアイアンゴーレム一体が向かっているのでこちらに助けには来られないだろう。


 と考えていたら、ジャイアントゴーレムが俺を殴ろうと振りかぶってきた。


「ちっ」


 まだ道具のクールタイムが終わっていない。

 ポーションで治療できない。


「サンダーボルト!」


 ジャイアントゴーレムに雷魔法を放つ。

 その衝撃で一瞬だけジャイアントゴーレムの動きが止まる。

 その隙に俺はジャイアントゴーレムから距離を取り、ミニアイアンゴーレムの相手に集中することにした。


「一度離脱する!」

「はい!」


 ミニとはいえ、物理耐性があることには変わりない。

 黒鉄の斧で攻撃してもダメージが通っている気がしない。

 早く倒してアムのところに戻らないといけないのに。

 そう思っていたら、雷が飛んできて、一体のミニアイアンゴーレムを倒した。

 ミスラがスタンから復帰したのだ。


「……遅くなった」

「ああ、遅い。でも助かった!」


 残り一体を黒鉄の斧で倒した俺はジャイアントゴーレムのところに戻る。

 ジャイアントゴーレムはアムを殴り続けていた。 

 既にミニアイアンゴーレムはアムによって倒されたらしいが、そのアムはアイアンハンマーを持っていない。

 どうやら武器を棄てて攻撃を避けることに集中しているようだ。

 見事な避けタンクっぷりに俺は思わず舌を巻く。


「アム、待たせた! せいやっ!」


 俺はそう言ってアクセルターンでジャイアントゴーレムの脚にダメージを与えた。

 ここで爽快感。

 クリティカルが出たらしい。

 ジャイアントゴーレムが膝をついた後うつ伏せに倒れると、アムはすかさず落ちていたアイアンハンマーを拾い上げ、


「ヤァァァァァっ!」


 ジャイアントゴーレムの後頭部に振り下ろした。

 その瞬間、ジャイアントゴーレムの頭の赤いセンサーのような部分がパリンっと音を立てて割れた。あれが核なのだろう。

 どうやら倒したようだ。


「お疲れ様――久しぶりの苦戦だったな」

「ご主人様、お疲れ様です」

「……避けられなかった。ごめんなさい」

「いいや、最初から攻撃を避けられないときも想定して作戦を立てていたからな。無事でよかったよ」


 とりあえず、ジャイアントゴーレムは収納し、宝箱を確認する。

 宝箱は四つ――当然、制限時間内に倒す必要のある完全クリアは無理。

 初クリアの銀色宝箱の他、さらにもう一つ銀色宝箱が。それと茶色宝箱二つか。


「……ミスラは遠慮する。二人で開けて」


 どうやら反省しているらしいミスラが宝箱を開ける権利を俺たちに譲る。

 銀色宝箱から魔導書が出ないのを知っているから譲っただけかもしれないが、彼女の反省を受け入れる意味を込めて俺とアムがそれぞれ銀色宝箱を開けた。

 俺の方に入っていたのは武器強化の巻物だった。

 アムの宝箱に入っていたのは――


「巻物ですね」

「おぉ、ダブったな。武器強化の巻物だ」


 んー、ここで武器強化の巻物が二つでるとは。

 普段は高性能の武器が出るまで使わないでおこうと思ったのだが。


「アム、これでミスラの武器を強化しようと思うんだが、どうだろうか?」

「賛成です。アイアンゴーレムやジャイアントゴーレムには、やはりミスラの魔力が重要ですからね」

「……ミスラの杖でいいの?」

「ああ。お前、その武器しか使ってないしな。とりあえず二つ使ってみるか」


 ミスラの杖に武器強化の巻物を二つ使う。

 彼女の武器を鑑定すると、名前が【四元魔法の杖+2】となった。


「……変わった?」

「一応、魔力が2増えて、隠し性能が出てるな」


 武器強化の巻物を施した武器は、基本性能が上がるだけでなく、隠し性能が出ることがある。


【四元魔法の杖+2:攻撃+5 魔力+12

 火、水、風、土の四元種の魔石を触媒とし、四元魔法を使うための杖。

 隠し性能:四元魔法を使った場合の与ダメージ3割増】


 という感じだ。

 三割は結構大きいぞ。

 アイアンゴーレムやジャイアントゴーレムと戦うときにはそれほど変化はないがブラックモールやホワイトモールと戦うときには役立つんじゃないだろうか?


「さて、疲れてるだろうがあと二周頑張るぞ!」


 ジャイアントゴーレムの核を10個壊す拠点クエスト?

 はは、あんなの最初から達成できるだなんて思っていないさ。


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