第85話 モグラを叩くのは穴から出したあとで
岩砕きの死骸も全部道具に収納し、俺たちはさらにダンジョンの奥に進む。
ストーンゴーレムや岩砕きが現れるも撃退していき、二階層に続くと思われる下り道を見つけた。
階段ではないので普通に歩いているだけだと一階層と二階層の区別はつかないだろうが、しっかり地図は切り替わっている。
ガンテツから聞いた情報が少ないので――実際に岩砕きに関する情報はなかった――階層ごとの魔物の情報なんてものもないが、階層が変わったのだから違う魔物も出てくるだろう。
そう思って歩いたら、広い部屋に穴がいっぱい空いている場所を見つけた。
穴といっても人間が入れるような大きさではない。
間違いなく、ブラックモールの穴だろう。
と思っていたら、一つの穴から真っ黒なモグラのような魔物――ブラックモールが顔を出し、キュウキュウと鳴いて穴に入った。
結構早い。
「穴の中から出てきたところを倒すしかないですね」
「そうだな。穴は複数の出口が繋がっているから、どこから出てくるかわからないぞ」
地図を確認しても、最後に巣穴に入った場所に固定されるんだよな。
だから、次にどの穴から出るかは、出てきてもらわないとわからない。
「……穴の中に水を入れる?」
「水攻めは悪手だな。巣穴を台無しにされると、ブラックモールは怒って攻撃値と俊敏値が二倍になるんだ。しかも、一つの巣に二匹や三匹いるケースもある。そして、巣を壊した相手を狙って攻撃をする。今のミスラが複数のブラックモールに狙われたら危ないよ。」
蒼剣のブラックモールとこの世界のブラックモールが同じ強さとは限らないが、仮に同じだとすると、通常のブラックモールの攻撃を七、八回くらいは耐えることができるだろうが、狂暴化したブラックモールの攻撃なら三回ダメージを食らったらアウトだ。
「使うなら火魔法だ。火魔法だと巣穴を壊すわけじゃないから狂暴化はしない。火属性に微耐性があるからダメージはあまり与えられないが、追い出すには十分だ」
俺はそう言いながら能力を使う。
「スポットライト」
光が俺の身体に差し込む。
そして、鞄の中から野球玉サイズの石を取り出し、巣穴から出てきたブラックモールに投げた。
石は真っすぐブラックモールの頭に吸い込まれるように入る。
「キュウっ」
石がぶつかり、その身体がのけぞったと思ったら、ブラックモールが巣穴から飛び出してきた。
鍵爪のような鋭い爪を俺に向けるが、ブラックモールは穴から出てしまえば岩砕きより弱い。
剣で叩き伏せた。
「とまぁ、こういう倒し方もある。注意事項として、穴を背にしてはいけない。穴の上に立つなんてもってのほかだ。油断大敵だぞ」
穴から出てきたブラックモールを仕留めようとして真っすぐ向かうため巣穴を跨いだとき、その巣穴の中から出てきたブラックモールの攻撃を食らうってのは初心者にありがちなミスだ。
かくいう俺も一度、足下からのブラックモールの攻撃に瀕死の重傷を負ったことがある。
もちろん、蒼剣の中での話だ。
作戦事項も伝え終わり、ブラックモールとの戦いが始まる。
アムもスポットライトを使った。
「……火よ顕現せよ」
ミスラの火の魔法が巣穴に投げ込まれる。
すると、二つの穴から三匹のブラックモールが飛び出した。
気が立っているようだが、狂暴化はしていない。
スポットライトのお陰で、火魔法を使ったミスラではなく俺とアムに対して敵意を向けている。
「アム、あの鍵爪には気を付けろよ」
「毒があるのですか?」
「引っかかれると破傷風になりそうだ」
その言葉が開戦の合図となる。
ブラックモールが駆けてくる。
三匹とも俺の方に。
「一対三は面倒だ――ウォーターガンっ!」
ブラックモール一体をウォーターガンで足止めし、二体を相手にする。
いや――
「あなたの相手は私です」
地を駆けるブラックモールをアムは――蹴っ飛ばした
まるでサッカーボールのように。
無視されたのが腹立ったのかもしれない。
剣を使わない物理攻撃――当然ダメージは少ないが、おかげで俺の今戦う相手は一体になる。
ブラックモールが地を蹴り跳び掛かる。
狙ってるのは俺の首の頸動脈だろうか?
しかし、俺の剣は既に構え終わっている。
剣を振るうだけでブラックモールが――
「ご主人様、右ですっ!?」
右の穴から新たなブラックモールが飛び出した。
そんなところに穴なんてなかった――まさか新しい穴を掘ったのかっ!?
ゲームだとこんな仕様はなかったぞ、クソ、これは躱せない。
一撃を食らう覚悟を決めた次の瞬間、杖がブラックモールに命中した。
「……トーカ様、油断大敵」
ミスラが杖を投擲したポーズのまま俺に言った。
「面目ない。助かった」
俺はそう言って目の前のブラックモールを倒し、そして杖が命中してズレた位置に落ちたブラックモールも倒し、落ちていた四元魔法の杖をミスラに返したあと、最初にウォーターガンをぶつけたブラックモールを見るも、残り二匹のブラックモールは既にアムの剣の錆びになっていた。
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