第84話 ワニ退治は軽食のあとで

 ダンジョンの中で軽食を食べる。

 スナックバーだ。

 だいぶ少なくなってきたが、商店ができたら安く入手できる。

 それに、無くなったらその時は別の食べ物を食べればいいだけだ。

 スナックバーが大好物のアムは悲しむだろうからそれまでに商店を開業しないといけないな。

 もっとも、その前に悪魔退治という最初の試練が待ち受けているが。


「とても美味しいですね」

「……スナックバー、美味しいけど口の中がパサパサする。ここで敵に襲われたら魔法が使いにくい……水」

「地図で確認してるから大丈夫だ。魔物が近付いてきても水を飲む時間くらいはある」


 俺はそう言ってミスラにペットボトル入りの水を蓋を開けて渡す。

 彼女はそれをゆっくり飲んで、俺に還したので俺も水を飲む。


「……間接キス」


 ミスラが小さく呟く。

 ミスラの奴、ハーフエルフじゃなくて、マジでハーフエロフなんじゃないか?

 童貞じゃないんだしその程度で思うところはない。


 ダンジョンの奥に進む。

 途中、何カ所か採掘ポイントを見つけたが、ゴーレムツルハシはまだ三十分以上クールタイムが残っているので泣く泣く通過。

 釣りポイントもあった。どうやら地下水が湧き出しているらしい。

 釣り竿を持ってきていないのでここも素通りする。

 すると、今度は黒いワニの大群が現れた。

 さっきの水辺に生息しているのだろうか?


「岩砕きですね」

「ああ、岩砕きか。こっちではこんな姿なのか」


 蒼剣の岩砕きもワニの姿をしていたが、リザードマンの亜種、二足歩行で歩くワニだったが、こっちは正真正銘のワニだ。

 その名の通り、その強靭な歯は岩をも砕き、岩を主食にしていると言われている。

 特に鉱石が好物で、別名鉱脈破壊者マテリアルデストロイヤーと言われている――という謎設定を持つ。

 もちろん、こいつがいるからといって採掘ポイントがなくなるわけではない。

 爬虫類型水属性の魔物なので、冷気か雷の魔法が弱点。水属性と火属性には耐性がある。


「アム、装備をアイスソードと……ライトソードに切り替えてくれ」

「わかりました」

「ミスラ、氷の魔法は使えるか?」

「……使えない」

「だったらサンダーボルトで離れた場所から攻撃」


 火属性には耐性があるので、紅石の剣は使えないので、俺は蒼木の槍と魔法で戦う。

 作戦を伝えている間、岩砕きと睨み合いが続いたが、作戦を伝え終わったと同時に岩砕きが襲い掛かってきた。

 空気の読める敵だな。


「「サンダーボルト」」


 俺とミスラの魔法が中央にいる二匹の岩砕きに命中した。

 一撃では倒れない。


「ミスラ、下がれ! アム、行くぞ!」

「はい!」


 槍を突く――が岩砕きの強靭な鱗に槍が弾かれる。

 硬い。

 やっぱり弱点属性を付与していない物理攻撃には強いな。

 ワニが噛みついてこようとするが、距離を取っていたので、その歯は届かない。

 が、アレに噛みつかれたら厄介では済まない。

 アムは大丈夫だろうかと横目でみると、岩砕きの口が凍り付いていた。

 アイスソードの効果が出ているようだ。

 この効果を見たら、アイスソードを持っていない人間は殺してでも奪い取ろうとするに違いない。


 弱点属性を攻めることができるアムは大丈夫そうだな。

 だったら、やっぱり問題は俺だ。


 どこか鱗の無い場所はあるか?

 口の中? そんなところ怖くて攻撃できない。

 だったら――


「ここだ!」


 俺は岩砕きの目を狙って槍を突く。

 が当たらない。

 槍に慣れていない俺は動く敵の狙った一点を突くことはできなかった。

 しかし、ズレた場所の岩砕きの鱗がはじけ飛んだ。

 つまり、弱点が増えたわけだ。


 岩砕きが大きな口を開けて怒りをあらわに――ってマズイ!

 別の岩砕きが俺に噛みつこうと横から襲ってきたのだ。

 最初に俺がサンダーボルトで攻撃した相手だ。

 マズイ――と思ったら、


「サンダーボルト!」


 クールタイム開けのミスラが魔法を使って岩砕きにトドメをさした。

 ナイスだ。

 俺は今度こそと、目の前の岩砕きの鱗が剥がれた場所に槍を突こうとしたが、そのタイミングで岩砕きが再度口を開けた。

 不幸な事故だった。

 俺の槍が岩砕きの上あごを貫いたのだ。外から突くより内側から突く方が見た目が怖い。

 そこで体力が尽きたのか、岩砕きが力尽きた。

 安心したのも束の間、別の岩砕きが襲い掛かって来る。


「サンダーボルト!」


 俺を食べる気満々の岩砕きは感電死した。

 俺とミスラで三匹倒している間に、アムは二匹の岩砕きを倒していた。

 氷属性の武器を使っていることもそうだが、彼女の俊敏値のお陰だろう。

 岩砕きの鱗はジャイアントスネークの鱗よりも丈夫で、高値で買い取られるとのこと。

 トランクル王国では防具素材の需要が高まっていることだし、ポットクールさんが来たら高値で買い取ってもらおう。

 また、その肉も大変美味しいらしい。

 ワニの肉、食べたことがないな。

 まぁ、ヘビ肉を食べてきた俺にとって、ワニ肉はむしろ歓迎するべき食肉だ。

 

「お、ドロップアイテムは岩鱗の守りか」


 ゴブリンが落とした銅の首飾りやジャイアントスネークの鱗の守りより防御力が高い。

 ただ、付与能力が現状の装備より劣っているので装備の変更は無しだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る