第239話 【閑話】教会とミスラ薬-3
「何故だ! 何故ミスラ薬の量産ができん!? あの女が用意したメモが偽物だったというのかっ!?」
「いいえ、そうではありません。事実とみて間違いない。いえ、むしろあのメモだけでも学会に発表すれば魔法学の歴史が百年は未来へと進む技術が記されていました」
儂――クリー・ボッタが雇っているの優秀なはずの魔術師が渡したメモの写しを見て言った。
そこには確かにミスラ薬の製法が記されていると。
だったら、何故ミスラ薬を作れないのか、儂には理解できない。
「何故作れない? 理由を言え」
「クリー司教はご存知かと思いますが、魔法を発動させるには、魔法の能力を持つ者が仕組みを完全に理解し、その流れを術式として頭の中で組み立てて発動する必要があります。そのため、人が使う魔法のことは魔術と呼ばれ、魔法を使う人を魔術師と呼びます」
「そんなのは言われんでもわかっておる」
すっかり忘れていたが、大昔にそんなことを学んだ気がする。
もっとも、儂には魔法を使うための能力が存在しないから聞いただけだ。
「それで?」
「一文一文を理解することはできます。ですが、あまりにも複雑で、それを一つの術式として理解することも、ましてや頭の中で術式として組み立てることもできないのです」
「なんだとっ!? だが、このミスラ薬を使っている魔術師はできているではないか!」
「はい。どこの誰かはわかりませんが、その魔術師は天才としか言いようがありません。私がこれをすべて完全に術式として行使するまで理解しようと思えば三十年はかかります」
ええい、言い訳ばかりしおって。
つまり、自分の頭が悪いからミスラ薬を作れないと言っているのではないか。
優秀な男だと思って雇っていたが、とんだ役立たずではないか。
「お前は――」
「クビと言うのであれば受け入れますが、私以外では五十年かけても理解できません。そして、仮に理解できる天才がこの国にいたとしても、やはりミスラ薬は作れません」
「は? どういうことだ?」
「最初に申したはずです。魔法を発動させるには、魔法の能力が必要だと。ミスラ薬の精製には三つの能力が必要です。水魔法を使える能力。四元素魔法や水魔法のみでも構いません。次に聖属性の魔法。回復魔法では無理ですね。破邪魔法が必要です。そして、最後に、魔法融合――水と聖、二種類の魔法を融合させる能力です。このメモを頂いて文献を漁ったところ確かにその能力は存在しました。それら三つの能力全てを持っている人間でないとミスラ薬は作れません」
待て、魔法は一つの能力を持っているだけでも珍しい。二種類の魔法持ちは稀だ。しかも水と聖、二種類の魔法持ちだと?
さらに魔法融合? そんなの聞いたことがない。
そして、たまたまその三つの能力を持つ人間がいたとしても、こいつが三十年は理解できないと言った難解な術式を理解しなければならない?
そんなの無理だ。
「もういい、下がれ」
術師を帰す。
そして、儂は笑っていた。
もう回りくどいことはやめだ。
あの
儂は別の者を呼び出す。
ある意味僥倖だ。
ミスラ薬はその魔術師しか作れないという。
だったら――
「お呼びですか」
声が聞こえた。
どこにいるかは儂にもわからない。
「来たか。とある町から一人の魔術師を攫って来てほしい。それが無理なら殺しても構わぬ。報酬は攫って来たら500、殺すだけなら100だ。詳しくはここに書いてある」
「たやすい頼みです」
そう言うと、声は消えた。
奴はとある闇組織のリーダーだ。
彼らは変装の天才で、いろいろな姿に化け、色々な場所に潜入。
そして任務を達成する。
仮に失敗したら、その時は自害するための毒も常に隠し持っている。
彼らが去ったあとには証拠も何も残らない。
いろいろと便利な男たちだ。
ミスラ薬の魔術師が手には入れば僥倖。
まぁ、最悪死んでもらえばこれまで通り聖水を販売することができる。
何しろ、ミスラ薬はその魔術師しか作れないのだからな。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「今日はやけに犯罪者が多いな」
マップを見ると、赤いマークがあちこちに点在している。
最近は犯罪者も減ってきたと思ったんだがな。
全員チェックしておこう。
「ご主人様どうします?」
「……全員捕える?」
「何もしていないのに逮捕はな。事情聴取するか。とりあえず、全員ここに来てもらおうか」
俺は自警団の連中に、赤いマークの奴らを連行させるように言う。
すると、何故か全員服毒自殺したらしい。
いやぁ、さすがに俺もビビったよ。
でも、即死するような毒ではないらしく、アンチポイズンで簡単に治療できた。
「組織が作った毒――専用の解毒剤でしか治療できないはずなのに」
と茫然自失って感じで呟いている奴がいたが、とりあえず危ない薬っぽいので毒物不法所持の罪で緊急逮捕となった。
面倒なのでこいつらの処理はトンプソンに任せよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます