第240話 【閑話】教会とミスラ薬-4
「連絡が途絶えた……だとっ!?」
組織の連中は連絡員を含めて三十人、魔術師のいる町に送り込んだ。
様々な役職の人間に変装し、入り込んだ。
直接行動を起こすのは二十人、十人は情報収集や連絡、見張り、必要物資の調達など様々な仕事を行う。
つまり、行動を起こす二十人が失敗したというのならわかる。
だが、失敗したのなら失敗したで、見張りや連絡役が町から逃走するはずだ。
そいつらとの連絡も取れないなど異常でしかない。
一体、何が起こったんだ?
「事前に調べた情報によりますと、彼らには自由都市のマフィアがついているとのことです。彼らに捕まったのかもしれません」
隣の村で待機していた組織の連絡員が言う。
蛇の道は蛇というが、闇の組織には裏の組織か。
これだから国に属さぬ無法者を相手にするのは困りものだ。
しかし、とすると人員を送り込んで魔術師を殺すなり拉致するなりするのはもう不可能ということか。
「実行部隊が消息を絶ったのです。もう組織を維持することすら不可能でしょう」
「奴らは生きているのか?」
「彼らには発見されたとき自害するための毒を歯の裏に隠して、もしも何かあったら自害することになっています。誤飲したときに備えて直ぐに死ぬ薬ではありませんが、通常の解毒薬では治療もできない毒ですし、彼ら自身も解毒薬を持っていません。何かあったのであれば生きている可能性はゼロです」
つまり、消息を絶った奴らから儂のところに辿り着くことはないと。
しかし、金さえ詰めばなんでもする便利な手駒を失ったのは辛い。
「では、私は失礼します。暫くは田舎で身を隠させて――」
彼のその言葉は続かない。
何故なら、その言葉を吐き出すための喉が真横に裂かれたのだから。
その男の向こうに、仮面の男が立っていた。
儂が呼びつけたのだ。
「キヒヒヒヒ、旦那。いけねぇなぁ、いけねぇよ。こんな奴らに頼ろうなんて。最初からおいらを頼ればよかったんだよ」
「ああ、儂が間違っていたようだ。あわよくばミスラ薬の量産を――と思っていた儂が間違っていた。最初からお前に命じておけばよかった」
こいつの名前は狂戦士キノヒト・ムテ。
元聖都の剣術大会で三連覇した無敗の剣士。
だが、三連覇を成し遂げたあと集まった民衆を無差別に人を殺しまわったあげく、駆けつけた聖兵五十七人を殺した凶悪犯でもある。
捕縛され、彼は死罪となるはずだった。
しかし、表向きは死んだことにして、儂の手駒にすることにした。
危険な男だ。
キノヒトには契約魔法が掛けられている。
通常の契約魔法を何倍にも強力にし、逆らうものなら一瞬にして意識を失うほどの痛みが被術者に襲い掛かる。
だが、彼は命令に逆らいながら、看守から盗んだ鍵で牢を脱走し、優雅に看守用の休憩室で紅茶を飲んでいたらしい。
もっとも、だからこそ使える。
奴は儂にこう提案した。
『月に一度、おいらに人を斬らせろ。強者であれば良い。それが手駒になる条件だ』
奴は最初からそれが目的だったのかもしれない。
五十七人の聖兵を殺したあと、奴はほとんど抵抗することもなくすんなりと捕まった。
奴は選んだのだ。
どうすれば、人を楽しく斬れるのかを。
「行け、キノヒト。術者を殺すのだ」
「ああ、その言葉を待っていた。だが、旦那も知っていると思うが、おいらはこっそり行動するとかは苦手でね」
「わかっている。どうせ法律もない死の大地の町の連中だ。好きに殺して構わない。もしも生きていたら組織の連中も殺して構わん」
「いいね、その言葉。本当にいい。旦那の手駒になってよかったよ」
キノヒトはそう言って部屋を出て行った。
そして儂は部下を呼んで転がっている死体を片付けさせた。
前回、奴に命じたときは村が一つ地図から消えることになった。
さて、今回は何人の人間が死ぬことになるだろうか?
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「まったく、いきなり斬りかかってくるなよ」
この前、捕まえた奴が毒薬を使っていきなり自害しようとしたからな。
俺が解毒魔法を使ったから命は助かったが、今度は間に合わないかもしれない。
そう思って、町に来た赤いマークの奴に俺が直接声を掛けたのだが、いきなり斬りかかってきた。
まぁいきなり毒薬を飲まれるよりはマシか。
いやぁ、本当にビビったよ。
思わず手加減を忘れるところだった。
手加減使ったから死んでないよな?
「おおい、大丈夫か? 生きてるか?」
反応はない。
うーん、とりあえず縄で縛って牢屋に放り込んでおくか。
それにしても、ミスラ薬を狙っていたクリー・ボッタ司教はどうしているんだろうな?
最初にウサピーを呼び出してから何もしてこない。
魔術師を使って、ミスラ薬の開発に取り組んでいるのかな?
だとしたら、俺が思っているよりも真面目な男なのかもしれない。
うーん、ミスラに頼んで、もうちょっと簡単に作る方法を研究してもらおうかな?
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