第238話 【閑話】教会とミスラ薬-2

「ふふふ、もうすぐミスラ薬の量産ができるわけか」


 そう言って儂、クリー・ボッタは笑った。

 ミスラ薬と呼ばれる薬が教会内に入って来るようになったのはつい最近のことだ。

 なんでも魔法によって生み出された薬らしく、不死生物に対して非常に効果のあるものだという。

 それにより、一つ困ったことが起きた。

 儂の派閥で販売している聖水がほとんど売れなくなったのだ。

 ミスラ薬の方が確実に効果があり、そして安価だという理由で。

 確かに儂の派閥で販売している聖水は、教会の祈祷院で作られている聖水の横流し品を三十倍くらいに薄めて瓶に詰めたものであるし、聖水が横流しされないときはただの水を詰めて販売しているときもあるのだが、教会で売られている正規の聖水である。

 それがほぼ無名に等しかった薬に劣るとなれば教会の沽券にかかわる。

 いますぐ教会の名に許、販売の差し止めを要求しなければならないのだが、忌々しいことにその販売許可を出したのは前教皇のヨハルナだった。その役職を退いても影響力の強いあの前教皇ババアに逆らって販売を禁止すれば、それこそ要らぬ反発を生みかねぬ。

 そこで、儂は考えた。

 ミスラ薬の販売を止められないのであれば、儂がミスラ薬を作ればいいのだと。

 あれは魔法で作った水なのだから、原価は今の聖水よりも安い。

 それを不死生物用劇物としてではなく、教会のありがたい聖水として売れば、ミスラ薬よりも高値で売れる。

 各地の教会の神官も、不死生物用の劇薬などより聖水を使いたがるに違いない。


 儂はそう思い、ミスラ商会の者を呼び出した。

 現れたのは兎獣人ワーラビットだった。

 名はウサピーというらしい。

 中々にかわいい雌兎だ。

 いつものように神の祝福と言ってその身体をまさぐりまわしたいが、いまは大事な取引が先だな。


 まずは彼女に軽く脅しをかける。

 ミスラ薬の効果は教会が販売する聖水に酷似している。

 前教皇が何を言ったかは知らないが、そのまま販売を続けるのは教会に唾を吐く行為に等しい。

 そう言うと、彼女は酷く怯えた表情になる。

 だが、そこで儂が助け船を出す。

 儂の名でミスラ薬の販売を認めれば、教会の連中も何も言わないだろう。

 ただし、許可を出すにはその製法について知らなければならない。

 その製法を提供するようにと。

 ウサピーは二つ返事で製法を儂に提供した。

 バカな女だ。

 その結果がどうなるかも知らずに。

 その製法を受け取ると、儂は彼女を帰した。

 儂の配下にはブルグ聖国の中でもとても優秀な魔術師が揃っている。

 あとは奴らにこの製法を読ませて真似させれば済む話だ。

 どこの国にも属さない魔術師の技術、真似できないわけがない。


   ▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 クリー司教に呼び出されたウサピーが帰ってきた。


「で、クリー司教はなんて? ミスラ薬を販売するなって?」

「それは流石に言わなかったです。ぴょん」


 ミスラ薬の販売は前教皇のヨハルナ様及び各地の教会からの要望によるものだ。

 それをクリー司教の一存で取りやめるとなったらヨハルナ様の顔に泥を塗るだけでなく、各地の教会からの反発も招く。

 なので、ウサピーも販売の禁止はないと言っていた。


「ミスラ薬の製法を教えろと言われました。ぴょん」

「予想通りだな。で、伝えたわけだ」


 ミスラ薬は魔法によって生み出されている。

 サンダーボルトが雷属性と聖属性を合わせた魔法なので、魔導書を熱心に読み込み、水属性と聖属性を合わせる魔法を編み出した。

 これがミスラ薬の正体だ。

 正直、製法を教えたところで簡単に真似できるものではない。

 というのも、この魔法を使うには、水属性、聖属性の魔法を両方使えるうえに、サンダーボルトを修得しないといけない。

 しかし、そのサンダーボルトを修得するには俺の仲間になって、魔導書を使うしかないのだ。

 一緒に行動していることもあるマクールに魔導書や技術書を使おうとしたことがあるけれど、結局あいつはゲストメンバー扱いのため修得できなかった。

 さらに、その理解度も重要で、サンダーボルトや水属性、聖属性の魔法を使えるリーナもミスラから作り方を教わったが、いまだに成功できていない。

 わかっていたことだが、魔法についてはミスラが天才過ぎるのだ。


――――――――――――

今年一年ありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。

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