第237話 【閑話】教会とミスラ薬-1

年末年始休憩をいただきたく、ストーリーに関係のない閑話でお茶を濁させていただきます。

――――――――――――――――


 ヨハルナ様が護衛を伴って帰ることとなった。

 お土産にエクスポーションと万能薬の詰め合わせを渡したらとても喜ばれた。

 二つともダンジョンでは結構取れるようになったが、錬金術で量産できる状態ではないし、仮に量産できるようになってもミスラ商会で販売する予定はない。万能薬が出回りすぎたら、この世界の薬学の発展を阻害する可能性がある。

 俺が死んだあと、ゲームシステムによる万能薬作成を続けられるとは限らない。

 

「お世話になりました、勇者様。それと、この村で販売されているミスラ薬のことですが――」


 ミスラ薬はミスラが魔法で作っている薬のことだ。

 光属性を付与しているため、軽い呪いを消したり不死生物にダメージを与えたりできる。

 その効果は安物の聖水よりも聖水っぽいので、教会に目を付けられないようにミスラ商会の交易船に載せて、別大陸でのみ販売している。

 いつか教会の耳に届いたときもしかしたら問題になるかもしれないと思っていたが、前教皇から直接指摘がくるとは。

 俺が身構えていると――


「実は各地の教会から秘密裏にミスラ薬を仕入れられないかと相談を受けているのですよ」


 なんでそんなことに?

 疑問に思ったところ、各地で不死生物が出た場合、討伐依頼の大半は冒険者ギルドではなく教会に来る。

 不浄なものを退治するのは教会だと皆が思っているからだ。

 だが、各地の教会にいる神官が全員不死生物を退治できるわけではない。

 メンフィスのように魔法を使える神官の方が少ないそうなのだ。

 そのため、不死生物退治をするときに使うのは聖水だそうだ。

 でも、教会の聖水は値段の安いものはほとんど効果がなく、効果が高いものは値段が高い。

 そこそこの値段で確実に効果があるミスラ薬の噂が教会の耳に入ってきた。

 ミスラ薬は販売はしていないけれど、自警団には無料で配っている。

 周囲の村々で出た不死生物退治には重宝しているらしい。

 特に口止めはしていないので、そこから伝わったのだろう。

 だが、教会の神官たちがミスラ薬を売ってくれないかと直接交渉することはできない。

 そんなこと言ったら、教会の聖水が使えないと喧伝するのと同じだ。

 しかし、ミスラ薬を買いたい。

 結果、ミスラ薬の話は教会内に渦巻き、徐々に上に上にと上がっていき、とうとう上層部の耳にまで届いたそうだ。


「でも、いいんですか? 聖水と同じ効果があるものを教会以外の場所が製造、販売しても?」

「それが問題でして。それで、相談なのですが――ミスラ薬を不死生物専用劇薬として販売してもらえないでしょうか?」


 なるほど……そう来たか。

 ミスラ薬が光属性を持つ薬だと言って国内で販売すれば聖水と被って比べられてしまう。

 しかし、不死生物に効果がある毒物として販売すれば、毒物と聖水が直接結びつくことはない。

 教会としても一応最低限の面目を保つことができる――のか?

 正式な会談の場ではなく、ここで話すのは記録として残さないためだろう。


「ミスラ、ウサピー可能か?」


 前教皇の頼みなので普通なら断れないところだが――


「……ん、構わない」

「劇物というとミスラ薬の評判が下がることになるので、その分値段に上乗せしていただきたいです。ぴょん」


 ウサピー、ここでも値段の交渉か。

 ただ、ヨハルナ様はそれで構わないようだ。

 こうして、ミスラ薬の教会での正式販売が決まったのだが――


 それに異を唱える人間が現れた。

 名前はクリー・ボッタ

 ほとんど効果のない聖水を安い値段で――聖水としては安くてもただの水としては暴利で販売していた司教である。

 

 彼は手紙でウサピーを呼び出し、文句を言ったのだ。

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