第169話 ポチの救出はその他の人質を救出したあとで

 急に霧が出て相手は警戒しないのかと思ったが、このあたりは元々霧が良く出やすい場所らしい。

 霧が出てきたら警戒はするだろうけれど、本来の街道に多くの見張りを置いている分、そこを誰にも気付かれずに突破したとは相手も考えないだろうとのことだ。

 そもそも、村には家屋がいくつも残っている中、真っすぐ人質が閉じ込められているであろう家屋を制圧できるとは相手も思っていないだろう。

 本当に地図ってこういうときはチートだよな。


 霧が周囲に立ち込めてきたので、移動を開始する。

 怖いのは建物の前にいる二人の敵か。

 逃げ出さないように見張っているのだろう。


 霧が出ているので弓兵やミスラに遠距離で攻撃させても当たるとは思えない。

 接近戦が必要。

 騎士たちの装備が重装備であることを考えると、二人を倒すのは俺とアムが適任だ。

 霧が出るまでの話し合いにおいて、そう結論が出て、俺とアムが先に急襲する手筈になっている。

 手加減の能力を使って殺さずに行くか、それとも殺すつもりで戦うか。

 手加減は相手に致死性のダメージを与えても必ず体力が1残る能力であり、気絶させる能力ではない。

 確実に倒すのならば、手加減の能力は封印するべきだろう。


「ご主人様」

「大丈夫だ。覚悟は決めてる」


 俺たちは建物の奥から入り口の方に回り込んで、様子を伺う。

 すると、男二人の話し声が聞こえてきた。


「なぁ、今日はやけに霧が濃くないか?」

「いつもこんなもんだろ。だが、そろそろ晴れて貰わないと困るな」

「そうだな。今夜が儀式の日だからな。ようやく退屈な島の生活ともおさらばできるってもんだ。これで俺たちも一級信徒の仲間入りだな」

「ああ、レザッカバウムの名の許に」


 信徒?

 宗教組織なのだろうか。

 気になるが、あまり時間をかけると計画が失敗したとなって隊長さんが次の手を打ちかねない。

 俺が指でアムに合図を送る。

 そして、黒鉄の剣を取り出し、敵の前に出た。


「――っ!」


 初めて敵の姿を見たが、そこにいたのは二十歳くらいの男だった。

 と同時に俺は振り上げていた剣を力任せに振り下ろしていた。

 思わず目を伏せる。

 躊躇したのがいけなかった。

 剣をしっかり真っすぐ振り下ろせばこうはならなかった。

 胃の中から何かがこみあげてくるが、なんとか堪える。

 俺は視線を逸らし、そして次の瞬間には扉を壊していた。

 木の扉だ。

 簡単に壊れる。

 扉の周囲に人がいないのも地図で確認していた。

 もう一人の男も叫んだりはしない。

 アムが既に殺していたからだ。

 それでも、建物の扉を壊した音はかなり大きく、周囲に聞こえているだろう。


「助けに来たぞ!」


 中に入ると、人質たちは全員縄で縛られ、口には猿轡を噛まされている状態だった。

 うち、三人は結構な怪我をしているようで、汗と血と、それと汚物のせいでむせ返るような臭いだった。

 だが、躊躇している場合ではない。

 アムが武器を短剣に持ち替えて捕まっている人たちの縄を切っている。

 俺も一緒になって――黒鉄の短剣は蒼木の短剣のレベルが足りずに未開放なので、アムから一本短剣を借りて縄を斬っていき、


「俺は置いて言ってくれ。足の腱を斬られてまともに動けない」

「ヒール」


 置いていけという衛兵らしき男を回復魔法で治療し、男にポーションを渡す。


「これで怪我人の回復を――急いで。敵がこっちに来てます」

「わ、わかった!」


 と言ったところで、爆発音がした。

 ミスラが誰もいない建物にファイアボールを放ったのだ。

 さすがミスラの魔法だ。

 俺だったらあんな派手な音が出ないもんな。

 囮としては最優秀賞を与えたい爆音だ。

 それでもこっちに向かって来る敵が一人。

 ってあ、仲間の誰かがその敵に接触して倒してくれた。


 騎士の二人が入ってきた。


「助けに来たぞ!」


 さっきより皆の表情が明るい。

 俺たちより騎士の助けに安心したようだ。


「ここは任せます。俺はポチを助けにいかないといけないので」

「わかった。任せてくれ」


 俺とアムは霧の中、ポチのいる倉庫に向かった。

 場所は地図で確認済み。

 扉を壊した。


「ポチ!」

「あるじ!」


 俺が声を上げると、ポチが俺に駆け寄ってきた。

 よかった、無事だった。

 たった数時間の話なのに、何週間も離れ離れになっていたみたいだ。

 本当に無事でよか――


「――っ!」

「あるじ! ってあれ? なんで抱きしめてくれないのです」 


 俺に飛びつこうとしたポチを思わず躱してしまう。


「それを聞きたいのは俺の方だ。ポチ、お前、何をしようとした」

「なにって、あるじの首をポチの牙で噛みつこうとしたのですよ?」


 と言ってポチは犬歯を見せて笑う。

 ポチを示す白いマークが、突如赤いマークに変わったことに気付かなかったら危なかった。

 いや、危ないのは今も一緒か。


 ポチは、コボルトビルダーは戦闘のしないNPC。

 しかしながら、その裏設定は最強のコボルト。

 地図のマークも俺より格上を示している。


 これまでの戦いで最強最悪の敵だぞ。

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