第124話 二周目に行くのはミスラが還ったあとで
キングキノボウは攻撃力や守備力、敏捷は低いが、体力だけはとても高い魔物だ。
打撃に耐性があり、斬撃に弱い。
さすがに柔らかくてこの大きさのキノコをアイアンハンマーで叩き潰すのは難しいということだろう。
アムも武器を得意な剣に持ち替えた。
属性攻撃の必要はないので、愛用の鋼鉄の剣が久しぶりの出番だ。
アムの道具欄は必要に応じた武器が常に数種類入っている。
最初は剣士というイメージの強かった彼女だが、いまでは魔法以外オールマイティって感じがする。
「……焼く?」
「広いとはいえ密室状態だからな」
後ろの扉が閉じている。
密室での火魔法はできれば避けたい。
「……だったら雷。サンダーボルト」
「「スポットライト」」
ミスラの雷魔法と俺たちのタゲ集めから、いつものボス狩りが始まる。
通常のキノボウは四本の足が生えているが、キングキノボウはさらに二本の手が生えていて、昆虫か、もしくはケンタウロスのような状態だ。
しかも、その手が結構長く太く、そして重い。
そのキングキノボウの攻撃方法は手で叩き潰すか身体全体で押しつぶすか。
だから、戦法はまず手を叩き斬って攻撃方法を限定させる。
殴りかかって来るキングキノボウの攻撃をアムは躱してからカウンターで斬り落としたが、俺にはそんな器用なことができないので、攻撃して来る前にソニックブームで切り裂いた。
そして、本体を斬っていくのだが、ダメージが通っているかどうかがわかりにくいな。
せめて真っ二つにできればいいんだが、そこまでの大きな武器がない。
ドッコイが使っていた大剣でも用意できたらいいのだが。
俺は一度退き、武器を黒鉄の剣から黒鉄の斧に持ち替える。
そして――
「せいのっ!」
まるで木を切るみたいにキングキノボウの腹に切れ目を入れた。
もういっちょっ!
切られるのが嫌なのか、スポットライトでのタゲ誘導がうまいこといっているのか、キングキノボウが俺に向かって体当たりをしてきたが、それを交わしながら反対側に回り、再度切れ込みを入れる。
もはや大木を斬っているかのような感覚だ。
このまま切り倒してやると意気込んでいた俺だったが――その前にキングキノボウが動かなくなった。
マップから赤い表示が消えている。
なんか拍子抜けだ。
いや、体力が馬鹿高いといっても、ジャイアントゴーレムより弱い魔物だから当然か。
完全クリア報酬の金色宝箱、初クリア報酬の銀色宝箱、それと今回は昇格で金色宝箱が出た。
「金色宝箱ですね!」
「……魔導書」
「ああ、久しぶりだな。さて、まずはどれから開ける?」
今回は美味しいものは最後にとっておくことにした。
茶色宝箱からはお金と食用キノコ盛り合わせが出た。今夜はキノコ鍋確定だな。
銀色宝箱からは万能薬が。ちょうど無くなったので補充できてよかった。
そして、金色宝箱一個目。
三人で開ける。
今回、軍配が上がったのはミスラだった。
「……魔導書!」
青い革表紙の本を宝箱から取り出して、ミスラが言った。
「ああ。アイスバレット――氷弾の下級魔法だな」
「……氷魔法は珍重される。嬉しい。ずっと欲しかった」
ミスラが魔導書を天に掲げて小躍りをしている。
ミスラ、今夜は徹夜コースだな。
俺のレベルだと下級魔法を使うくらいなら剣で斬った方が効率がいいのだが、ミスラは魔導書を研究することで下級魔法でも中級魔法並みの威力を発揮することができる。
岩砕きなどの爬虫類型の魔物や、今後現れるかもしれない氷属性が弱点の魔物相手に重宝することだろう。
「さて、次だ……おぉい、ミスラ。開けるぞ」
ミスラが小躍りして還ってこない。しかも、踊りながらきっちり魔導書を読んでいやがる。どれだけ器用なんだよ。
それほどまでに氷属性の魔法が欲しかったのだろう。
なので、あいつのことは放っておいてアムと二人で開ける。
「アムは何が欲しい?」
「欲しい物がいっぱいあり過ぎて困ります。何がでるのかわからないのが楽しみです」
「それが宝箱ガチャの醍醐味だ」
初心に戻ったつもりで、特定の何かを狙うのではなく、何が出るかを楽しみに宝箱を開けた。
するとそこに入っていたのは――
「杖ですか? ミスラが使えそうですね」
「キングキノボウの
「ハズレですか?」
「そんなことはない。キングキノボウ限定のドロップ品はキングキノボウの王冠、キングキノボウの王笏、キングキノボウの宝玉の三つがあってな。その三つが揃うと、キノボウ王の称号が貰えて、転移門を使ってキノコの国に転移できるようになる。キノコの国の限定ダンジョンとかもあるから、コレクターなら一度は集めないといけないアイテムだ」
「王冠――あれは違うのですか?」
アムがキングキノボウの頭にある王冠を指差す。
残念だが、あれを鑑定しても
【キノコの王冠:キングキノボウが頭につけている王冠。黄金に見えるがキノコでできているため価値は低い】
と出るので、キングキノボウの王冠とは別物だということがわかる。
ゲームをしていて、キングキノボウの王冠が足りないとなったとき、主人公に「あの王冠毟り取れよ!」って冗談でも思っていたこともあったが、こっちの世界にきてようやく謎が解けた。
主人公が見落としていたわけじゃなく、ちゃんと理解して手に入れなかったんだと。
ゲームのキャラはユーザーが思っているほど馬鹿じゃないってことか。
「じゃあ、二周目行くぞ。だからミスラ、そろそろ現実に還ってこい」
俺はキングキノボウの王笏とキングキノボウの死体と揺り戻しのねじ巻きを取り出し、いまだに小躍りを続けるミスラに言った。
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