第123話 ボス退治は冒険者と別れたあとで

「食べ物埋まっている場所に穴を掘る能力か。能力には未知数の者が多いが、便利な能力だな」


 大盾を持っている男がそう言ったので、そういうことにした。

 自然薯とか芋とか掘るのに使えそうだな。

 もしかしたら、貴重な鉱石とかが埋まっている時にも使えるかもしれない。

 

 大量に集まったトリフ。ダンジョンの中だから数週間から数カ月でまた生えてくるそうなので、結構深い場所にあったものまで根こそぎ回収した。

 冒険者の彼らの依頼分は当然お裾分けという形にしたんだが――


「いやいや、命まで助けてもらって、その上トリフを受け取るなんて――」

「でも、これがなかったら依頼失敗になりますよね? それで冒険者としての信用が下がったら、薬の代金の支払いにも影響が出ます」


 薬の代金については、向こうは800万イリス支払うと言ってきた。

 思わぬ大金に喜びそうになったが、念のために聞くと、最近武器や防具を買い替えて貯金はほとんどなく、拠点としてパーティで購入した住居を売って借金したらなんとか払える額らしい。

 それを聞いて、喜んで受け取るほど俺は下種ではない。

 結果、俺から彼らに提示した額は、


【一年間、冒険者としてこれまで通り活動し報酬として得られた額から経費を差し引いた額の二割】


 というものにした。

 支払いは一年後のまとめて一括払い。

 それでも40万イリスにはなるらしい。

 俺は働いた経験がないが、給料が二割減るというのはかなりの痛手だと思うが、彼らは「それだけでいいのか?」と申し訳なさそうにしていた。

 ただし、弓使いの女性にまだ話していないので、彼女の了承を貰ってからという条件を付けくわえた。

 メリサの検分を終えた彼女に尋ねたところ、


「え? それだけでいいの?」


 と逆に驚かれた。

 彼女も薬の効能を聞いて、家を売る覚悟をしていたらしい。

 というか、石化の治療を行える高位の治癒士に石化の治療を頼んだ場合、全財産を治癒士が所属する教会に寄付するのは当たり前のことなのだとか。

 それだけ石化を治療できる治癒士が少ないのだろう。


「それで、婆さんを調べて何かわかったか?」

「……たくさんの薬を隠し持ってた。鞄の中に本が入っていて、キノコオオトカゲの毒の抽出法について記載していた。それと――」


 とミスラはメリサの腕を捲る。

 俺とアムはそれを見て思わず息を呑んだ。

 その腕に掘られた刺青は、かつてゴブリンキングやメンフィスの首にあった刺青に酷似していたからだ。

 婆さんもゴブリンキングみたいに操られていたのかと尋ねたが、ミスラは首を横に振る。

 この刺青に魔力的な力は一切ないらしい。

 メリサの死体は、金になる魔物を運ぶために持ってきていた麻袋に入れて運んでくれるそうだ。

 証拠品としてメリサの持っていた本も持っていくらしい。


 谷からロープを使って曳き上げると言っていた。

 あれを命綱として使う勇気は彼らにもなかったそうだが、荷物や死体を引き上げるには十分な強度だろう。

 そもそもメリサが定期的にこのダンジョンを訪れるためにあの縄を使っていたのだとしたら、オークでも耐えられる重さってことになるから強度的に問題はないのかもしれないが。


 ここで四人とは別れることになったが、改めて。

 四人の冒険者パーティは『錆色の絆』。盾使いの男は二十二歳でそれ以外は二十歳のパーティらしい。

 俺と交渉していた剣士の男はトルネラさん。二十歳。錆色の絆のリーダーで纏め役。

 大柄の盾使いの男はフォンドさん。錆色の絆のタンク。最年長でお兄さん的存在。

 あまり会話のなかった斧使いの男はコクソウさん。錆色の絆一の怪力で、ここぞという時に役に立つらしい。

 錆色の絆の紅一点、ポニーテールでちょっと小柄な弓使いの女性はキューティさん。パーティ内恋愛はいざこざの元だから禁止と彼女が決めたことで今はフリー。財布の紐を握る裏のリーダーでもある。キューティーではなくキューティだと念を押されたので、こだわりがあるのだろう。

 キューティだけ説明が長いのは御愛嬌だ。


 四人と握手を交わし、近いうちに一度村に訪れるので、その時の再会を約束して別れた。


 改めて、鱗とか革が貴重品らしいのでキノコオオトカゲは収納しておくか。

 それと、オークの肉も入れる。

 なんかいろいろあって忘れていたが、もうボス部屋の前なんだよな。


「じゃあ、ボス部屋に行くか」


 俺は気の抜けた声で言う。

 このダンジョンの難易度からして、今回瞬殺できたキノコオオトカゲよりも強いボスが出てくることはないので、なんか気合いが入らないな。

 ここのボスについても、トルネラから教わったからだろう。


「トルネラさんたちはボスには用がなかったのでしょうか?」

「ああ、トルネラが倒しても宝箱は出ないから旨味はないよ。出てくる魔物もアレだしな」


 ボス部屋の奥の扉が開き、そこに現れたのは五メートルはあろうかという巨大なキノボウだった。

 キングキノボウ。

 そりゃ、倒す意味ないよな。

 キノボウはそのままだと毒だから天日干しにしないと食べられない。

 そもそも、ここから持って出るには小分けにしないといけないのだが、小分けにして持っていくのなら、入り口付近にいるキノボウを倒して持って出ればいいだけだ。


「じゃ、さくっと倒すか――」


 キングキノボウを見ていると、キノコの形をしたチョコレート菓子が食べたくなってきた。

 一部の人を敵に回すかもしれないが、俺はタケノコよりキノコの方が好きなのだ。

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