第122話 トリフ掘りはキノコオオトカゲを倒したあとで

「さて、婆さん。なんでこんなことをしたんだ?」


 俺が尋ねると、メリサは懐の中に左手を入れようとしたが、すかさずミスラが雷魔法を放つ。

 意識を失うような力はなく、びりっと痺れる程度の威力に抑えている。

 彼女の手から薬が零れ落ちる。

 鑑定してみると劇毒薬というヤバめの薬だった。

 まぁ、完全毒耐性のある俺には効果がないが、殺意だけはしっかり伝わる。

 地図のマークだけで敵か味方か判断するのは危険だな。

 最初は無害な白でも、こっちの出方によっては敵に変わってしまうこともあるってことか。


「さて、とりあえずキノコオオトカゲを倒すか」


 これだけ騒いでいるのに食事を続けるキノコオオトカゲに剣を向ける。


「待つさね! キノコオオトカゲはあの方に捧げるために私が十年かけて育てた魔物。そもそも、キノコオオトカゲの毒の解毒薬を作るにはあのキノコオオトカゲから血清を作る必要があるさね」

「血清とかいって毒を作られたらたまらないからな。食事中悪いが、ソニックブーム!」

「……土よ顕現せよ」


 剣戟が飛んでいき、キノコオオトカゲの鱗を飛ばしながら切り裂き、ミスラの魔法によって地面から現れた土のトゲがキノコオオトカゲを鱗の少ない腹から貫いた。


「そんな……私の十年が……」


 婆さんがその場に頽れた。


「トカゲ退治終了。さて、冒険者たちを治療するか――アム、婆さんから目を離さないでくれよ」

「はい、かしこまりました」


 メリサのことはアムに任せ、俺たちは冒険者のところに行く。


「とりあえず、彼らを助けるか」

「無駄さね。さっき言ったのは嘘じゃないさ。その石化は高位の術士にしか――」


 俺はメリサを無視して、万能薬を取り出して、剣を持ってる男にぶっかけた。

 すると、石と同じだった皮膚がすぐに解除された。


「バカな、石化を治す薬なんて――」

「あるよ、ここに」


 万能薬最強だな。

 石化から解放された男は一瞬呆けた表情をしていたが、すぐに意識を取り戻す。


「――っ!? なにが……あんたは?」

「大丈夫ですか? 何があったかわかりますか?」

「なにって……」


 男は周囲を見て、仲間が石になっていることに気付き、思い出したように言った。


「あのの婆さんだ! 婆さんが俺たちに変な薬をかけたら身体が石に変わったんだ」


 やっぱりそうか。

 有力な証人GET。

 ついでにメリサの連行も彼らに任せよう。


「じゃあ、これ、薬。三人にかけてあげてください。石化から元に戻ります」

「本当かっ!? いや、これで俺も戻ったんだよな。ありがとう、感謝する」


 彼はそう言って万能薬を受け取り、三人に掛けた。

 結果、三人も無事、石化から解除された。

 事情を聞くと、彼らがトリフ狩りに来たのは事実のようで、トリフ狩りに邪魔なキノコオオトカゲを倒そうとしたそうだ。


「殺されたくなくて石化剤を。でも、婆さんがテイムしている魔物だったら、そう言えば――」

「……トーカ様。キノコオオトカゲは第一級危険生物。無許可での育成は禁止」

「確かに危ないか――痰に触れるだけで状態異常だし、あんな危ない薬も作れるんだもんな。そんな危険なもの、いったい誰に献上しようとしてたんだ? あの方って誰だ?」


 俺が尋ねたその時だった。

 メリサが急に倒れた。

 これは――


「毒っ⁉」


 奥歯の中に仕込んでいたとかそういう、いや、違う。

 キノコオオトカゲの毒は経皮毒。わざわざ飲まなくても、身体に触れるだけで効果が出る。

 キノコオオトカゲを倒し、メリサが頽れたその手の先に劇毒薬があった。最初から死ぬつもりで――


 直ぐに解毒ポーションを使おうとするが――開きっぱなしにしていた地図からメリサの反応が消えた。

 蒼剣では体力がゼロになっても死亡ではなく戦闘不能という状態になるだけで、死んでいない。そして、イベントで死んだキャラは生き返らない。


「なんかしこりが残る結果になったな」

「そんなことないさ。あんたたちがいなかったら俺たち四人は死んでいた。本当に感謝する。なんて礼を言ったらいいか」

「礼なんて……あぁ、トリフが食べたいです」


 こんなことがあっても、うまいものは食べたい。

 俺のそんな要望に、冒険者のみんなは「じゃあ、一緒に探しましょう」と提案してくれた。

 

 ミスラとそして弓使いの女性はメリサの死体を奥の安全地帯に運び、検分してもらう。婆さんで死体とはいえ、男が触ったり服を脱がせるのはよくないからな。

 毒は水で洗い流したので大丈夫だと思うが、一応解毒ポーションも持たせておく。

 そして、残った男たちはトリフ探しだ。

 トリフは地面の下に埋まっているので掘り出すことになる。

 彼らは全員スコップを持って闇雲に穴を掘っているって感じだ。


「情報によるとこの辺りに埋まってるはずなんだが――」


 ダンジョンのキノコも、キノボウのような魔物と一緒で定期的に現れるらしい。

 彼らが得た情報では、この部屋にトリフが埋まっているらしい。もちろん、メリサの情報ではなく、冒険者ギルドの情報としてだ。


「もしかしたら、キノコオオトカゲが全部食べたのかも」


 盾使いの男が不吉なことを言う。

 それは困る――何か見つける方法はないか?

 そうだ、トリュフは豚を使って探すと言われている。トリフがトリュフを元に創られたアイテムだとしたら、豚の魔物であるオークを使ってトリフを探すことができるのではないだろうか?


「って、アムっ!? なにしてるの?」

「オークの解体です。オークの肉は大変美味ですからきっと村で喜ばれます」

「アムは仕事が速いなぁ」

「恐縮です」


 服着てる豚の肉かぁ。

 まぁ、主人である婆さんを死なせてしまった以上、あのオークが目を覚ましたとしても、トリフ狩りに協力してくれるとは思わない。

 戦闘になっていただろう。

 そもそも、トリュフを探すための豚は子供のころから訓練した豚であり、誰でもできるというものではない。

 こうなったら地道に穴を掘っていくしか――ん? 穴を掘る?

 

 埋蔵センサーには反応はないが、もしかしたら――

 穴を掘る、穴を掘る、穴を掘る。

 歩きながら能力を使い続けたら、突然目の前の地面に穴が開いた。

 そして、そこにはコロコロとした真っ黒いキノコがいくつもあった。

 鑑定して確認し、俺はそれを拾って大声で叫んだ。


「トリフ、ゲット!」


 トリフ狩りに穴掘りは最強の能力のようだ。

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