第125話 日本人の味覚を思い出すのはトリフを食べたあとで
二周目は銀宝箱が一個出た。
中に入っていたのはフライパンだった。
「宮廷料理人のフライパン――調理時に焼き料理の料理が5%上がる拠点アイテムだ。調理系の道具はいろいろとあるが、これは七段階中下から三番目のフライパンだな」
「宮廷料理人なのに三番目なのですか?」
「ああ。下から、見習い料理人のフライパン、一流料理人のフライパン、宮廷料理人のフライパン、宮廷料理長のフライパン、伝説料理人のフライパン、天使のフライパン、神々のフライパンだからな」
銀色宝箱から出るのは、一流料理人のフライパン、宮廷料理人のフライパン、宮廷料理長のフライパンの三種類なので真ん中を引き当てたって感じだ。
見習い料理人のフライパンは商店の掘り出し物でたまに見つかる。
神々のフライパンは虹色宝箱から、天使のフライパン伝説のフライパンは金色宝箱からしか出ない。
「……他の調理器具もあるの?」
「ああ。鍋、包丁、ミキサー、オーブン、蒸し器、まな板がある。まぁ、他は商店の掘り出し物で見つかる見習い料理人の調理器具から揃えていくつもりだ」
調理器具を全部揃えようと思えば、キッチンダンジョンと呼ばれるダンジョンがあって、そこなら宝箱からの排出率が高いのだが、この世界にそのキッチンダンジョンがあるかどうかはわからないからな。
あぁ、でも、これまでのパターンからしてありそうな気がする。
その時は周回して手に入れよう。
「じゃあダンジョンから脱出して、二周目行くか!」
宝箱を全部開け終え、システムによりダンジョンから脱出。
ちょうど錆色の絆のメンバーがメリサが入っている麻袋を縄に括りつけているところだった。
ここで気付かれると、「え? もう追いついたの? じゃあ途中まで一緒に帰りましょう」って流れになりかねない。
普通、ダンジョンから出てきて、もう一度入ったりしない。
なので、「まだダンジョンに潜りますんで――」とか正直に言って断ったら、俺が彼らと一緒に旅をするのが嫌で適当な嘘をついている嫌な奴になりかねないので、慌ててダンジョンの中に引き返した。
大丈夫、気付かれていなかったと思う。
ということで二周目。
刀虫夏草も二匹目撃破して魔核と50%の宝箱を今回もGET。
中身は蒼剣と同じで錬金術のレシピ。
薬用キノコを使った万能薬の調理方法が記載されている。
続いてボス戦。
一周目、茶色宝箱三つ。
二周目、茶色宝箱二つと銀色宝箱。中に入っていたのは子豚だった。
ここで豚が出てくるのは豚を使ってトリフを探せ……って意味だろうか?
ただし、豚は二頭入っていた。
「……あぁ、うん。まぁそうだよな」
「二頭入ってるって珍しいですね。鶏や子ヤギ、子牛は一頭ずつでしたのに」
「ああ……まぁ、ヤギや牛はミルク、鶏は卵を産むだろ? だったら豚は……ってことだ」
「……この二頭の豚が産んだ豚を食べるってこと?」
「そういうこと」
この二頭の豚は、なんと大人になると週に一度子豚を産む。
その子豚は一週間後には大人の豚になる。
ちなみに、その豚は普通の豚。
ゲームでは子どもを産んだりはせず、食肉に加工するしか使い道がなかった。
とりあえず、豚の処遇は牧場が出来てからだな。
そして三周目。
刀虫夏草からは宝箱は出現せず。
ボスからの宝箱は、一周目、銀色宝箱一つと茶色宝箱。銀色宝箱からは技術書(採取数+0.1)が入っていた。
採取数+0.1は、素材を採取したとき、十回に一回の確率で素材が1つ多めに手に入る。
ちなみに、この技術書は最大で二十回取得できて、最終的には採取数+2まで能力が成長し、採取効率が3倍にまで上がる。
そこまで能力を成長させられる猛者は滅多にいないだろうが。
「……採取数が増えるって、どういう仕組み? 素材が分裂するの?」
「十回採取したら勝手に道具欄の中に素材が入ってるんだろうな」
できればトリフを掘る前に覚えたかった――いや、あれは穴掘りで手に入れた素材だから採取とは違うか。
そして、三周目後半戦は茶色宝箱。
最後の最後に不発は正直萎える展開だが、明日はポットクールさんが来るので帰還チケットを使って家に帰った。
村に帰ったあと、アムとミスラにはオーク肉を村のみんなにお裾分けにいってもらった。
この時間ならまだ村のみんなも夕食を作り始める前か、もしくは作っている途中だろう。
二人に面倒な仕事を押し付けてしまったが、俺は道具の整理をしないといけないからな。
家に入ったが、ポチの出迎えがない。地図で確認するとお風呂にいるようだ。
お風呂に入っているのではなく、風呂掃除をしているのかも。
台所に行くと、作りかけの料理がいろいろとあったので後者のようだ。
とりあえず、食材以外の道具の中身を全部棚に移動させる。
今回はただのダンジョン探索の予定だったんだけどな。
アムの仇の魔物使いの配下の魔物と同じ刺青をしたメリサ。
彼女の言っていたあの方というのが、アムの仇の魔物使いなのだろうか?
「あるじ、お帰りなさいなのです。お風呂も料理ももう少し待って欲しいのです」
「ああ、別に急いでないから大丈夫……あぁ、そういえば、こんなの手に入れたんだが、今日の料理に使えそうか」
俺は冷蔵庫に入れる予定で取り出したトリフを出す。
「大丈夫なのです。今夜はパスタの予定なので、ちょうど使うのですよ」
「おお、ありがと。楽しみにしてるよ」
他の料理は明日からのお弁当用に作っていたらしい。
初トリフだ。
キノボウについては、明日から長期の外出のためいったん保存し、天日干しにするのは護衛の依頼を終えて村に帰ってからとなった。
明日からの護衛の仕事にはポチにも一緒に着いてきてもらう。
転移門を作ることができるとなったとき、ポチがいなかったらもう一度ポチを派遣しないといけないからな。
「ああ、そうだ。椎の丸太と宮廷料理人のフライパンが手に入ったぞ」
「いいフライパンなのですね。これでもっと美味しい料理が作れるのです」
「ああ。俺もたまには使わせてもらうが、基本はポチ任せになるからな」
「椎の丸太は床下に置いて置くのです。シイタケは乾燥させて出汁を取るのにいいのですよ」
ポチは椎の丸太の使い方も知っているらしい。
まぁ、考えてみれば家ができたときから、この家の水道やドライヤー、その他諸々の仕組みを全部知っていたので、今更驚くことはない。
「明日から留守になるんだけど放っておいて大丈夫か?」
「大丈夫なのですよ。それに、家の管理はミケに任せたのです」
「ミケか……大丈夫か?」
「ミケはやる時はやる猫なのですよ」
つまり、普段はやらない時ってことか。
まぁ、一人で……一匹で大勢の村人がやってくる酒場を切り盛りしていたわけだから、その才能は確かということか。
我が家用のオーク肉は冷蔵庫に保存っと。
そして、お風呂に入った。
しっかり身体を洗っているとアムとミスラも入ってきて、三人で仲良く入浴。
もう一緒にお風呂に入るくらい堂々としていられるようになった。
俺も成長したものだ。
そして、風呂上がり、
念願のトリフパスタがそこにあった。
シンプルなクリームパスタの上に、これでもかというほどトリフのスライスが載っている。
そういえば、俺、トリュフも食べたことがないんだよな。
さてさて、お味は――ん? この香り――
「これはとても美味しいですね。香り豊かで癖になってしまいそうです」
「……ん、美味。トリフを食べるのは久しぶり」
「二人とも、美味しいか?」
「はい」「……ん」
「そうか」
二人は美味しそうに食べている。
そして、俺は――
「……うん、まぁ……」
食べられないことはない。
たぶん、ポチのパスタが美味しいからだろう。
だが、これはトリフがない方が美味しい味だ。
そういえば、聞いたことがある。
とある調査によると、日本人の六割はトリュフが嫌いだって言っていた。
トリュフなんて自分には縁がない食材だから忘れていた。
「とても美味しいです。ご主人様がトリフ採りに執着なさった理由がわかります」
「……ん。毎日でも食べられる」
……うん、パスタは美味しいな
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