第304話 アムの居場所を知るのはハスティアと出会ったあとで
現在、魔王城のダンジョン九十七階層。
さすがに道具欄はいっぱいになって、途中、宝箱から出てきたものの大半は捨てることになったが、レアアイテムはなんとか死守できている。
途中、通常宝箱から修復の粉をいくつも手に入ったのは助かった。
修復の粉は非レアアイテムだが店売りされることはなく、上級ダンジョンの通常宝箱の中からしか出てこないアイテムだ。
その効果は、使用回数制限のあるアイテムのその回数を回復させたり、壊れたアイテムを修復したりできるアイテムだ。例えばゴミアイテムの「割れた皿」に修復の粉をかけたら「高そうな皿」という換金アイテムになったり、十回までしか使用できない棚上げの壺の使用回数を回復することができる。
そのお陰で棚上げの壺を使って今は使わない貴重な品を拠点の棚の中に送ることができた。
アイテム問題はそれで少しは解決したのだが、魔物もだんだんと強くなってきた。
もはや上級ダンジョンの下層レベルだ。
ミスラもそれに合わせて魔法の威力を上げているが、その分魔力の消費も激しそうだ。
「ミスラ、少し魔法を控えろ。魔力がもたなくなるぞ」
「……まだダイジョブ」
「大丈夫だと思えるうちに休んでおけ。一匹や二匹の魔物なら俺がなんとかするが、一気に数十匹の魔物が出てきたときはお前の魔法が切り札なんだから」
「……切り札……ん、頑張る」
「頑張らずに休んでくれ」
そして、休んで欲しい人物がもう一人。
カイザーだ。
息も絶え絶えという様子のカイザーに声をかける。
「大丈夫か?」
「ああ、問題ない」
「問題しかないだろ? 問題がないって思ってることが一番の問題だよ。大問題だよ。最終問題で配点三十点だよ」
何回死にかけたよ、お前。
怪我するたびにエクスポーションぶち込んで治療しているが、本当にヤバイぞ?
カイザー一人でも上級ダンジョンの上層部レベルの魔物なら退治できるが、このレベルの魔物だったら不意打ちどころか、正面から俺が戦っている敵の流れ弾で死ぬ可能性も出て来てる。
防御力も元祖紙装甲でおなじみのミスラより低いのに前衛をやりたがるからたちが悪い。
「俺は世界を統べる男、皇帝カイザー・トウロニアだぞ。この程度でへばってたまるか」
「一周回ってギャグキャラに見えてくるから、凄そうな名前を名乗ってのやせ我慢やめろ」
「ギャグキャ……なんだそれは」
「わからないならそれでいいよ」
出てきた黄金色のドラゴンを倒す。
こいつは八十五階層でもボスとして出てきたのだが、ここではボスではなく雑魚敵として出てくるのだから恐ろしい話だ。
一応、僅かに空いている道具欄に保存しておく。
見た目高級そうだし、これを捨てればあとでウサピーに怒られそうだ。
「ゴールデンドラゴン。伝説の魔物だぞ。かつて勇者が手に入れた黄金色の鱗一枚で城が立つと言われている」
「ああ、うん。今後ミスラ商会で販売されるから欲しければそこで買ってくれ。城一つ分の値段払ってくれたら売ってやるから」
しかし、ここに来て誰ともすれ違わなくなった。
現在出会っていない大会参加者は、アム、ハスティア、ワグナー、スクルド、霜月とあと五人。
その五人がどのくらい強いかはわからないが、たぶんこの辺りの魔物が相手では助からないだろう。
各階層は狭いダンジョンだから知らない間にすれ違ったとも考えにくい。
とすると、五人は死んでいる可能性が高い。
そして、この階層レベルだとハスティアもきつい。
だが、ここをアムとハスティアが通ったのは確かだ。
何故なら、ボス部屋に入ってもボスが出てこなかったから。
先にアムかハスティア、もしくはその両方でボス部屋のボスを倒したのは間違いない。何故かそのボスを倒した仲間は地上ではなく地下を目指しているようだ。
どうか無事でいてくれ。
そう思って進んだ先に――彼女がいた。
「ハスティア!」
「勇者様! それにミスラと……皇帝カイザー!? 何故一緒にいるのですか!」
「話はあとだ。お前――」
「……怪我してる」
「怪我ってレベルじゃねぇだろっ!」
両脚が無くなってるぞ!
止血されているみたいだが、一体何があったんだ?
俺は急いでエクスポーションを飲ませた。
脚が再生された。
よかった、エクスポーション会って本当によかった。
「お前、帰還チケット持ってただろ。何でそんな状態になっても使わないんだよ」
「申し訳ありません。途中出会った人に譲ってしまいました」
「そうか……」
「それより、アムがワグナーに連れていかれました。この先です」
「――アムがっ!?」
「はい。私はここから十五階上の階層に転移したあと、地上を目指していたのですが、その途中でアムと合流したのです。そして、何故かアムは地下を目指していました」
「地下を?」
「はい。誰かに呼ばれている気がすると。理由はわかりませんが、切実な様子でしたので、彼女と同行して一緒に地下に進んできたのです。そして、ここで私たちはワグナーに出会いました」
ハスティアは語りだした。
ここで起こった出来事を。
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