第303話 六人目は同行を許可したあとで

「俺も一緒に連れて行ってくれ。俺の計画を台無しにしたのがワグナーってやつなら、この手で叩きのめしたい。それに貴様から聞いた話によるといろいろと裏で動いていたようだからな。それも知りたい」


 カイザーが憤りをあらわにして言う。

 彼からいろいろと情報を聞き出したわけだが、しかし彼の言葉をすべて鵜呑みにするわけにはいかない。

 やっぱりカイザーが黒幕で、霜月を爆発させようとしていた可能性もある。

 同行したくないのだが――


「霜月はいまお前の命令で動いているのか?」

「ああ。俺のことを臨時マスターと呼んでいる」


 霜月がカイザーの命令で動いている場合、カイザーと一緒にいれば霜月が爆発することがないのではないか?

 問題は、着ぐるみの状態で行くかどうかだが、俺はそのままで行くことにした。

 ここで俺が着ぐるみ状態になれば、武道大会にいたトーカが偽物だとバレてしまう。

 そうなると、自然とスクルドのことを話さないといけなくなる。

 カイザーが敵か味方かわからない以上、与える情報を制限したい。

 まぁ、そのスクルドも敵か味方かわからない――というより一時的に協力関係になっただけで敵なのだが。


 メンバーにカイザーを加え、俺たちはダンジョンの下層に向かうことに――


【カイザーをレギュラーメンバーに登録しました】


 って、なんでだよっ!

 同行は許可したが、仲間にした覚えはないぞ?

 何気に初めての男性のレギュラーメンバーなわけだが、さすがに皇帝と一緒に行動ってわけにはいかないだろう。

 いや、しかし使えるものは使っておこう。

 これで道具欄が八枠確保されたわけだ。

 手乗り倉庫で道具欄を増やしたり、棚上げの壺で今は使わない貴重品を自宅の棚に転送していても、道具欄には限度があるからな。

 それに、カイザーのステータスが見えるようになったから、能力からこいつの戦い方を推測できるし、称号などから怪しい点がないか見えるはずだ。

 

―――――――――――――――――――――

名前:カイザー・トウロニア

種族:ハイヒューム

職業:皇帝

レベル:35

体力355/355

魔力:39/39


攻撃:396

防御:284

俊敏:219

運:44


装備:皇帝の剣 身代わりの首輪

戦闘能力:帝国剣術 皇帝の威光 

称号:名も無き神の加護(全ST+10%)

―――――――――――――――――――――


 名も無き神の加護――名も無き神ってのがカイザーが己の身に降ろそうとしている神なのか。

 全ステータスが10パーセント上昇ってかなりの称号能力だ。

 種族がハイヒュームになっているのはその称号のせいか。

 ただ、ステータスはそれ以外は特にって……運が40!?

 44って、蒼剣のゲーム内でもまず見ることがない最高値じゃないか!

 基礎値が40で、名も無き神の加護のお陰で10%上昇って感じかな?


「よろしく頼む、カイザー! 今回の事件が終わってもダンジョン探索とか一緒にやろうな!」

「どうしたんだ? この前は俺を置いていったくせに」

「いろいろと事情があるんだよ、いろいろとな」


 ということでカイザーと同行することになったわけだ。

 カイザーは自分で戦いたがったが、時間がかかりそうなので俺が倒した。

 ボス部屋だったので宝箱が出てくる。

 完全踏破ボーナスの金色宝箱と初回ボーナスの銀色宝箱、そしていきなり金色宝箱が出た。

 これはカイザーの運の効果が出ているな。

 って、アムとハスティアがいない状態で喜んでばかりはいられないな。


「……魔導書出た」 


 ミスラは小躍りして喜んでいる。

 デスレイという光線が発射する魔法だ。

 光魔法の中でも上級魔法。

 この程度のボスで出る魔法じゃないんだが、やはり魔王城ってことか。


「なんなんだ? どこから宝箱が出た?」


 カイザーは宝箱は初見だったか。

 茶色宝箱から取り出した金塊を見て戸惑っている。


「勇者の特権だ。あと、勝手に開けるなよ。」

「勇者か……本当に規格外の存在というわけか。神から力を授けられて人ではない何かになれたと思っていたが、思い上がりだったようだな。納得したよ」


 カイザーが自嘲気味にそう言った。

 何に納得したのか。

 その後はさらに奥に進む。

 ダンジョンナビを使わなくてもボス部屋までの道のりがわかるほぼ一直線のダンジョンだ。

 途中、怪我をして動けなくなっている参加者と遭遇。

 ボス部屋の安全地帯で出血して動けなくなっていたが、回復魔法を使って治療したが失った血が戻るわけではなく、直ぐに動ける状況でもない。

 ここから歩いて帰れるほどの精神力もないだろう。

 あまり使いたくない手ではあったが、帰還チケットを渡して、それを使わせた。

 あとはポチがうまいことやってくれるだろう。


「転移魔法か……これも勇者の特権か?」

「まぁな。本当は使いたくなかったんだが」

「転移魔法を見せれば今回のダンジョンへの転移事件の犯人が貴様ではないかと疑われるからか?」

「用心に越したことはないだろ?」

「たしかに」


 カイザーが失笑する。

 何がそんなに楽しいのか。

 

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