第2話 訓練はステータス確認のあとで

 荒野のど真ん中。

 足下には何やら人工的に造られた石畳の床があるが、それだけ。

 勇者として召喚されたはずなのに、召喚した人がいない。

 どういうことだ?

 とりあえず、現状を確認する。

 服は、こっちに来る前に着ていたジャージではなく、見慣れない服になっている。

 恐らく、この世界の服なのだろう。

 ジャージと素足で異世界をうろつくわけにはいかないもんな。

 鏡がないのでわからないが、手足を見る感じだと身体に大きな変化はなさそうだ。

 次にアイリス様から与えられた能力――これが俺にとって生命線であることは間違いないのだが――


「ん?」


 目の前に青色の木の剣が落ちていた。

 この剣、見覚えがある。

 『聖剣の蒼い空』『聖剣の蒼い大地』に共通して出てくる初期装備、蒼木の剣じゃないか。

 主人公はこの剣を成長させることにより強くなっていく。

 確か、初期値は「攻撃+2」「防御+1」の弱い装備だったが。

 それを手にすると、剣は俺を主と認めたのか、身体の中に入っていく。

 そういえば、主人公はこの時とても慌ててたよな?

 ゲームで見たことのある光景なので俺は慌てたりしない。

 出てこいって念じると、剣は即座に手の中に現れた。


 はは、本当に蒼剣と同じだ。

 ってことは、メニューも確認できるのだろうか?

 と思ったら、目の前に半透明のメニューが現れた。

 ほとんどの項目はロックされていて、確認できるのは【ステータス】【剣育成】【道具】【マップ】の四項目のみ。

 まずはステータスを確認する。


―――――――――――――――――――――

名前:トーカ

種族:ヒューム

職業:無し

レベル:1

体力5/5

魔力1/1


攻撃:1+2

防御:1+1

俊敏:1

運:10


装備:無し

特殊能力:聖剣召喚 共通言語

称号:無し

―――――――――――――――――――――


 弱っ!

 なにこれ……弱すぎる。

 蒼剣の主人公はレベル1でも平均値20はあったぞ?

 オール1って、体育の成績は悪くないんだが……そうか、過酷な世界で育った人間と、平和な日本で育った人間の差か。

 ていうか、名前がトーカになってる。

 これ、俺の名前じゃなくて、俺がゲームで使ってるキャラの名前だ。

 装備については、魔力の籠っていないものは表示されないそうなので、制服だったり運動靴だったりは表示されない。このあたりはゲームと同じだ。

 ゲームで装備を全部剥ぎ取ってもグラフィックが裸にならないのも、このあたりが考慮されているらしい。


 次に剣育成の項目を見る。

―――――――――――――――――――――

聖剣総合レベル:1


蒼木の剣:1(攻撃+2 防御+1)

―――――――――――――――――――――

 こっちも予想通り

 剣の育成には、聖剣の総合レベルを上げると他の剣の解放条件がわかり、それを達成することで新たな聖剣が装備可能となる。

 最後に道具だ。

―――――――――――――――――――――

お金:5000イリス

保存食(30日分)

保存食(30日分)

飲料水(30日分)

飲料水(30日分)

着替え一式

―――――――――――――――――――――

 となっている。

 道具袋拡張の技能がないので8個までしか道具を持てないのはゲームと同じか。

 お金は道具には含まれない。

 蒼剣の世界だったらお金の単位は【ドラゴ】だったが、この世界のお金の単位なのだろう。

 試しに1イリス袋から出してみると、鉄のお金が手の中に現れた。緻密な細工の入っている貨幣だ。

 そして、道具を見るとお金が4999イリスになっている。

 再び収納すると5000イリスに戻った。

 保存食と水袋があるのは正直助かる。

 最後にマップを確認。

 近くにある村の場所がこれでわから……なかった。

 地図を見ても周辺は荒野だけで人のいる場所がわからない。

 ただ、俺はそれを好機とみる。

 蒼剣の世界では、魔物と戦う以外にも様々な方法で強くなる方法がある。

 このままでは俺はどこに行っても死んでしまう。

 少なくとも最低限の力、そして社会で生きていくための力を得ないといけない。

 保存食を30日分取り出す。

 大きな箱の中に小さな箱が何個か入っていて、その小さな箱の中に、栄養補助食品のようなスナックバーが五本。プレーン、フルーツ、チョコ、チーズ、ミルク味がそれぞれ入っている。

 フルーツ味を食べてみる。

 予想通りの味で、水がないと口の中の水分が全部奪われる。

 飲料水を取り出す。こっちは2リットルの水が30本入っていた。

 一日2リットルの計算か。

―――――――――――――――――――――

お金:5000イリス

保存食(29日分)

保存食(30日分)

飲料水(29日分)

飲料水(30日分)

着替え一式

保存食(使用中)

飲料水(使用中)

―――――――――――――――――――――

 食べかけのものは別枠になるらしい。

 とにかく、これで二カ月の食糧と水は十分に確保できている。

 できることなら、最初の一カ月はここで強くなりたい。


 俺は木の剣を持ったまま近くの大きな岩に向かった。

 そして、俺は蒼木の剣を岩に向かって思いっきり振るった。

 腕にものすごい衝撃が来る。

 一瞬躊躇するも、俺は再度剣を振るった。

 蒼木の剣は頑丈さは一級品で折れる気配は全くないが、その前に俺の腕が折れてしまうのではないだろうか?

 だが、暫くして成果が出る。

 通常技能のところに【剣術レベル1】が出たのだ。

 蒼剣の中で、対象物を剣で百回たたくと手に入る基本技能。

 同時に、攻撃も4増えている。

 本来、魔物を剣で倒す方が遥かに効率がよく、こうした破壊不可な物を殴り続けるのは効率が悪い。しかし、それはゲームを効率よくクリアするのが目的の場合だ。

 絶対に死なない、安全な成長という点においてはかなり有能な方法である。

 それに、こうして岩を殴ることで手に入る技能がもう一つある。

 岩を剣で切る――いや、殴り続けることさらに四百回。

 剣術レベルが3になったときに覚えた。


【採掘レベル1】

 

 出た、採掘技能。

 これもまた採掘ポイント以外では得にくい技能だが、岩でも微量ながら技能経験値が手に入る。

 採掘レベルはレベル1ごとに攻撃が+1、体力が+1となる。

 一日で採掘レベルは2まで上がった。

 気付けばあたりはすっかり太陽が沈んでいる。

 地図で周囲を確認する。

 魔物の存在を示す赤い印はついていない。


「こんなに疲れるのも、眠くなるのも召喚されてから初めてだな」


 保存食と飲料水で腹を満たして俺は呟いた。

 とりあえず、保存食を入れている大きなダンボール箱を取り出し、それを布団代わりに使う。

 空を見上げると、日本では見たこともない星空が広がっている。

 とても綺麗だった。

 ただ、このまま明かりがない野宿は現代人には辛いので、メニュー画面を出し、それを周囲に展開。

 せめてもの光源として使わせてもらった。


 こんな生活、いつまでも続けられるわけではない。

 明日はもっと強くならないとな。

 そう思い、俺は目を閉じた。


 翌日――筋肉痛で全く動くことができなかった。

 それと、保存食とか飲み水とかだけど、整理したいと念じてみたら、【保存食59日分】【飲料水59日分】と纏めることができた。

 ゲーム機能、マジ便利。

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