第3話 採取作業はスライム退治のあとで

 異世界に来て一週間が経過した。

 岩を殴り続け、ある程度したら移動、今度は荒野に生えていた一本の木を殴り続けた。

 木を殴ると得られるのは伐採の技能で、これは成長すると攻撃と防御が1ずつ増える。

 結果、俺のステータスは僅かに変化した。


―――――――――――――――――――――

名前:トーカ

種族:ヒューム

職業:無し

レベル:1

体力10/10

魔力:71/71


攻撃:51+2

防御:6+1

俊敏:1

運:10


装備:無し

特殊能力:聖剣召喚 共通言語

戦闘技能:剣術(レベル10)

生産技能:採掘(レベル5)伐採(レベル5)

一般技能:瞑想(レベル7)

称号:無し

―――――――――――――――――――――


 とりあえず攻撃の値はゲームの主人公を上回ったが、防御、体力はまだまだだな。

 そんな中、一番成長していたのは魔力だ。


 これは異世界に来て二日目、つまり筋肉痛で動けなかった日のことだ。

 戦わずに魔力を上げる方法――それは瞑想である。

 ゲーム内で瞑想を行うことで消費した魔力を回復することができるのだが、魔力が最大の時に瞑想を行っていると、約一時間に一度の割合でコマンドボタンが表示され、それの入力に成功することで瞑想の技能経験値を取得することができる。

 コントローラーがないのでどうなるのかと思っていたが、胡坐をかいて瞑想らしいことを続けていると、一時間でこの瞑想技能を取得することができた。

 瞑想技能は瞑想における魔力回復、体力回復が高まる他、レベル1ごとに最大体力が1、最大魔力が10上がる。

 ゲーム内では時間を無駄に消費するうえ、コマンド入力が必要なので完全放置もできない。魔力を上げる、回復することができる技能は他にもいろいろとあるので、ほとんどのプレイヤーが取得するのを諦める、もしくは取得してもせいぜいレベル1にとどめる死に技能だったが、まさか異世界でこんなに役立つとは。


 そして異世界メリシアに来て七日目の今日、俺は全力で走った。

 魔物に見つかったわけでもなければ、人恋しくなったわけでもない。

 ただ、全力で走ることでステータスが消費される。

 そして、そのスタミナゲージがゼロになると、今度は体力――つまり命の力が失われていく。ゲームだと体力が1になった時点で走ることができなくなる。

 しかし、同時に【疾走】の技能経験値を取得することができる。

 これは走っている時のスタミナ消費を減らすだけでなく、俊敏の値を上げることができる。

 ただ、これが本当にきつい。

 みんな想像してほしい。

 マラソン大会でペース配分など考えず、短距離走のようにスタミナ限界まで使い切って、さらにそこから命を削って走るのがどれだけ過酷かを。

 しかも、ここは魔物が出るかもしれない荒野――道が舗装されているわけではないし、マップで周辺の安全を確認しないといけない。

 結局、疾走技能がレベル1になった時点で、俺は走ることによる成長を諦めた。

 二日目の筋肉痛といい、今回といい、ゲーム感覚でもできることとできないことがある。

 ペットボトルの水を頭にかけて俺は思った。

 飲料水の消費が結構危ない。

 十分な量があるからと、飲むだけでなく、頭を洗ったり、着ている服を洗ったり排便の後に使ったりした結果、一週間で20日分――つまり予定の三倍近く使ってしまったのだ。

 そんな中、走っている途中にマップで見つけたのが、水場だった。

 水場――綺麗な水だったら、飲み水は難しいが空になったペットボトルに入れて持ち運びたい。

 しかし、ここで一つ問題が。

 水場に赤いマークがあったのだ。

 このマークには種類がある。

 青色は仲間、白色は敵意の無いNPC、薄い赤は自分よりレベルが5以上低い敵、赤は自分と同レベルの敵、濃い赤は自分よりレベルが5以上高い敵である。

 水場の色は赤――つまりレベル1から5の魔物がいるということになる。

 さらに、水場に釣りポイント、その周囲には採取ポイントもある。

 釣り具がないので釣り技能経験値を貯めるのは難しいが、採取の技能経験値を取得するチャンスだ。

 本当はもっと強くなってから魔物と挑みたかったが、しかし、逆にここでチャンスを逃したら、次、もっと強い魔物に追われる可能性もある。

 

 なら、様子を見るだけでも水場に行くべきだろう。


 俺はそう思い、丘を登っていった。

 大きな池があった。

 そこにいたのは流線形、半透明の物体。

 スライムだ。

 見たところ泉の外には五匹くらいしかいないが、池の中には五十匹以上いるらしい。

 蒼木の剣を体内から出し、強く握る。


 大丈夫だ、俺の剣術技能のレベルは既に10。

 攻撃力だって蒼剣の主人公より高い。

 あのスライムがゲームと同レベルの強さなら一撃、たった一撃入れたら倒すことができる。

 狙うは一匹離れているスライム。

 地図は広げたまま、俺は走った。

 スライムは俺に気付いたのか、水の中に入ろうとするが、動きは遅い。


「逃がすかぁぁぁぁっ! ひとおぉぉぉつっ!」


 蒼木の剣がスライムの頭にぶつかった。

 広げたままにしていた地図から、目の前のスライムのマークが消える。

 倒した。

 一撃で倒せる、やっぱりこの世界のスライムも弱い。見た目も同じだし本当に蒼剣の世界に来たみたいだ。

 次だ。

 俺の登場に、他のスライムたちが池の中に逃げようとしているが、ここで五匹、確実に倒しておきたい。


「二つ!」


 二匹目のスライムも倒す。

 思ったより余裕だ。

 三匹目――


「三つっ…………!?」


 躱されたっ!?

 スライムが突然、これまでにはない素早い動きで俺の攻撃を躱すと、同じ速度で体当たりをしてきた。


「ぐっ」


 なんだこれ――ノーガードのところでドッヂボールの玉が飛んできて鳩尾に激突したダメージを何倍にもしたような痛みだ。

 防御の値を増やしててもこれか……防御1だったらどうなっていたことか。

 俺は痛みに耐えながら、


「三つっ!」


 三匹目のスライムを倒したところで、時間切れだった。

 残りの二匹のスライムは池に入っていなくなっていた。

 池に入って追いかけることはしない。

 水の中だと剣の威力は半減するからな。

 俺は地図を広げたまま仰向けに倒れた。


「あぁ、ゲームのようにはいかないな……くそっ、腹いてぇぇぇっ」


 異世界に来て最初の戦いは勝利とも敗北ともいえない微妙な結果に終わった。

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