第66話 過去を語るのは期限が決まったあとで

 村同士の交流という名の祭りが始まったが、俺と副村長、そしてエルマさんの三人は早々に離脱し、今後の話し合いをすることになった。


 俺は改めて、二人に転移門についての取り決めを伝える。

 まず、転移門の仕組みとして、転移門の横にはスイッチがあり、オンオフの切り替えが可能であり両方の転移門がオンになっていないと通行ができないことを説明する。

 オンオフの切り替えは誰でも自由にすることができるが、俺の権限によりオンオフ関係なく使用不可とすることもできる。

 今後は転移門の数を増やし、他の友好的な村とも交流できるようにしたい。

 ただし、転移門を設置するには、その村を俺のサブ拠点とする必要がある。

 サブ拠点を設置できる条件は、俺への信頼度、友好度が一定以上あること。

 それと、拠点ポイントはサブ拠点の登録に10ポイント、転移門の設置に100ポイント必要である。

 まぁ、その拠点ポイントも、エルマの村をサブ拠点として登録したとき、トレントが襲ってきたときの襲撃ポイント分が加算されてむしろ得した。襲撃されたあとでも、拠点登録したら襲撃イベントのポイントが加算されことは蒼剣のシステムでもあったし、この村で実証済みだったからな。


「とりあえず、転移門の使い方について。村人以外の人間が使う場合は使用料を取ること。盗賊や魔物の襲撃などでは双方の村で協力して防衛。本当に危ないときは片方の村に避難して、転移門を閉じること。転移門を壁で覆い、通行時間に制限を掛けること。この三つはいいな?」


 通行時間を設ける理由は、それ以外の時間だと転移門の管理が難しいからだ。

 さすがに小さな村で二十四時間転移門の見張りを置くのは難しい。

 だが、そのままにしておけば、お金を払いたくない旅人が深夜に村に忍び込み、こっそり転移門を利用する可能性も出てくる。それだけならまだいいのだが、深夜に行けばお金を払わなくてもいいという噂が広まれば当然、その時間に旅人たちが押し掛ける。深夜に大勢の人が来るってのは治安の悪化を招くことになるだろう。

 それなら、転移門のスイッチをオフにすればいいんじゃないかとも思ったが、そうなると緊急時の連絡ができなくなる。

 エルマの村で深夜に魔物が現れたとき、転移門を使って助けを求めようにも使えないなんてことになったら困るのだ。

 だから、壁で囲い、通行時間以外は扉を閉じる。

 そういうルールにした。


「なぁ、村長。転移門は凄いんだが、他国にバレたとき狙われないか?」

「その可能性はある。最初に気付くのは一番近いトランクル王国だろうが、今は様子見だな。そもそも転移門は俺の拠点でしか使えないから、村にしろ転移門そのものにしろ、無理やり奪っても使えない。そのことを説明して、それでも納得してもらえないのなら、別の解決方法がある。絶対大丈夫とは言わないが、俺にできることはするつもりだ」


 俺がそう言うと、副村長とエルマは顔を見て頷いた。


「村長に任せる。村長がいなかったら、俺たちの村はゴブリンか、もしくはゴブリンキングに殺されてた。まぁ、なんなら、この村がトランクル王国の領地になっても、畑の所有権を主張できたら十分税金は払えるくらい作物が採れるからな」

「私もです。聖者様がいなければ、私たちの村はトレントによって滅ぼされていました。さらに私たちの行く道を示してくださっているのに感謝することはあっても断ることはありません」

「ありがとう。感謝するよ」


 その後、解散して祭りを楽しもうと思ったのだが、料金や緊急時の連絡報、壁の設置法などについて細かく打ち合わせをしたいと言ったので、一時間くらい話し合いをした。

 副村長は酒が残ってるか心配そうに外を見ていたが、ミケがかなりの量準備してくれていたから大丈夫だろう。


 お披露目会の翌日、俺たちは再び森のダンジョンに来ていた。

 いやぁ、転移門が開通したお陰で、森のダンジョンに直ぐに行けるようになった。

 本当に助かる。

 今回はロケット人参を無視して、ひたすらボス周回だ。

 ミスラが赤宝箱から出るという魔導書のことを気にしていたが、経験値やドロップアイテムを考えればボス周回が一番だからな。


「「スポットライト!」」


 俺とアムがスポットライトを使ってタゲを集中させることで、ミスラが狙われにくくなり、最初から全力の魔法で応戦できる。

 ただ、この日は宝箱運には恵まれていない。

 出てくるのは茶色宝箱ばかりだった。

 いままで全部茶色宝箱ってどういうことだよ。

 確率論どうなってるんだ!

 アムも五周目が三つとも茶色宝箱だったとき、尻尾がしゅんってなっていた。

 今日はもうダメなのかと思ったが、神様は見放さなかった。


「銀色三個! なんたる強運! どうせなら金色まで昇格してほしかったがありがとうございますアイリス様!」


 俺は女神アイリス様に感謝の祈りをささげた。


「やっと来ました! 何が出るんでしょうか」

「……楽しみ。トーカ様、早く開けよう」


 俺が感謝の祈りを捧げている間に、アムとミスラが銀色宝箱に張り付いていた。

 俺もすぐに配置につく。

 今回は三つとも銀色なので一人一個開けられるな。


「せーので開けるぞ!」

「「「せーの!」」」


 御開帳!

 お、レシピだな。

 錬金術のレシピだ。

 錬金工房が出来たら使うことになるだろう。

 今は棚に保存だな。


「ご主人様、壺が出ました」

「おぉ! 棚上げの壺じゃないか! 銀色宝箱の中では大当たりだぞ」


 棚上げの壺とは、入れたものを自宅の棚に送ることができるツボだ。

 使用回数は十回であり、同じものを複数入れても一回としかカウントされない。

 錬金工房があれば使用回数を回復することもできる。

 これがあれば、荷物が多すぎて持ちきれないってときも大助かりだ。


「……トーカ様、白犬が入ってた」


 宝箱の中から出したのは、小さな白い犬だった。

 ポチと違い、正真正銘の犬だ。


「かわいいですね」

「これはペットだな」


 コボルトじゃなくて正真正銘の犬だ。

 ペットは家の大きさに応じて飼える数が決まっている。

 初期の家だと二匹まで飼育が可能。


「白犬は晴れた日に外に出してやると、時々何かに反応して吠えるんだ。そこを掘ると道具が見つかる。たいがいガラクタだが、たまに凄いレアアイテムが手に入ることだってあるんだぞ」

「……レアアイテム」

「せっかくだし、ミスラが名前をつけてやれよ。ついでに世話も頼む」


 蒼剣だと、ペットの犬はお肉をプレゼントするとアイテムを見つける確率が上がるが、別に食事を上げなくても死ぬことはなかった。

 でも、こっちだとやっぱり散歩くらいはするべきだろう。


「……ううん、トーカ様に任せる」

「面倒ごとを俺に押し付けるつもりか?」

「……ペットの世話は最後まで責任を持たないといけない。ミスラはこの子が死ぬまで生きていられるかわからないから」

「だったら死ななければいい。安心しろ、俺がどうにかしてやるから」


 俺はそう言って、彼女の三角帽子を押しつぶすように頭に手を乗せた。


「……トーカ様はわかってない。そう簡単なことじゃない」

「はいはい。でも、内容がわからないからどう難しいかわからないんだよな……ん?」

「……トーカ様、どうしたの?」

「いや、いままで気付かなかったが、お前の首の後ろに刺青なんてあったか?」


 俺の秘密を誰にも話さないという契約魔法を使ったときも首の後ろに手を当てていたが、その時は首の後ろにこんな刺青はなかったはずだ。

 一体何が――

 と思ったら、彼女が持っていた白犬を落としたが、アムが一瞬のうちに子犬をキャッチする。


「ミスラさん、危ないで……顔色が真っ青ですが大丈夫ですか?」


 アムがミスラの顔を覗き込み、心配そうに尋ねる。

 だが、ミスラはその質問に答えずに俺に質問をした。


「……トーカ様、その刺青、数字が書いてある?」

「ん? ああ、十ってなってるな。それがどうしたんだ?」

「……十日後、ミスラの命を狙ってあいつが現れる」

「命を狙うって誰にっ!? それがお前が強くならないと死ぬって言ってた原因なのか!?」

「そう……一年前に悪魔と契約したから」


 彼女は語った。

 これまで語れなかった自分の過去を。

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