第65話 お披露目会はポチが帰ったあとで

 村に帰って酒場に行く。

 村での酒場の利用時間は決まっているので、昼間から飲んでいる客はいない。

 客はいないが、ミケが昼間から酒を飲んでいた。

 新しく作ったウイスキーの試飲をしているらしいが、横に空になった小樽が転がっていることから、試飲という量じゃないくらい飲んでいることが想像できる。


 それより、机の上に置かれたトウモロコシの山に目が行く。


「ラム酒用に収穫したゴールデンコーンのあまりにゃ。塩茹でするから食べるにゃ?」

「ああ、貰うよ」


 昼食に焼き魚を食べてから帰ってきたのだが、美味しそうなトウモロコシをそのままにしておくことができなかった。

 ミケが塩茹でしてくれている間に、酒場のコップを借りて、ドリンクバーから薬を抽出する。

 ちょうど三杯分の薬ができていた。

 緑色の液体。

 青汁より色は薄い。

 鼻を近づけると、甘い匂いがした。

 飲みやすそうだ。


「じゃあ、俺から――少し甘いな」


 見た目からして、炭酸の抜けたメロンソーダみたいだ。

 魔力の最大値がしっかり5ポイント上がっている。

 俺が飲み終えてから、アムとミスラも飲んだ。


「本当に甘いですね。魔核に甘味があるのでしょうか?」

「……おいしい。樽で飲みたい」


 ミスラはお気に召したみたいだ。


「ウイスキーで割って飲んでも美味しいにゃよ」

「……それは是非」


 やめとけ、ミスラがやったら絶対に酔いつぶれるぞ。

 ステータスを確認する。

 うん、ミスラもしっかり魔力が増えてるな。

 そして、アムもこれで魔力1卒業……ってあれ?

 アムの魔力1/1のままだ。


「ご主人様。何故か私の体力が5増えてるのですが」

「やっぱり、アムは魔法適性が無いっぽいな。魔法適性がない人が魔力薬を飲むと他のステータスが増えるんだ」

「そうなのですか……残念です」

「いやいや、体力が増えたら死ににくくなるし、自然回復の体力回復速度も上がる。いいことじゃないか。いまのところアムが覚えた能力は魔力を使うものがないんだし」


 アムは魔導書を使っても全然魔法を取得できないでいた。

 逆にスポットライトは俺とアムは取得できたが、ミスラは取得できなかった。

 主人公は技術書を従魔用以外全て使えるが、パーティメンバーは適性に応じた能力しか取得できないからな。


「アムは回避タンクの適性があるんじゃないかにゃ?」

「回避タンクですか?」


 ミケが回避タンクの説明をする。

 通常、タンクと呼ばれるのは防御力と体力を集中的に上げて、敵のタゲを自分に集めて仲間を守る役割のことだ。

 主に重装備――防御は上がるが俊敏の下がる全身鎧や大盾を基本装備とする。

 回避タンクはタゲを集めて仲間を守るという基本は同じなのだが、通常のタンクは攻撃を受けても防御力のおかげでほとんどダメージを通らないのに対し、回避タンクは攻撃を避けることに徹する。そのため、重装備はNGなので防御力はタンクより遥かに低くなる。だから、一回のミスが命取りになる可能性のある危険な役割だ。

 回避不可能な広範囲攻撃に弱いのも難点だ。

 でも、アムは防御もそこまで低くないから、通常の回避タンクよりは危険度は低いし、彼女は攻撃の手数も多いので敵のヘイトを集めやすく、能力を使わなくてもタゲを取りやすい。

 確かにぴったりな役割だ。


「なるほど……私にピッタリの戦い方ですね」

「アムが余裕のある相手だけにしてくれ。高レベルの魔物相手に回避タンクはギャンブルでしかないから俺が許可しない敵に使ったらダメだぞ」

「善処します」


 それって、いざとなったら回避タンクの役割を使ってでも俺を守るって言うんじゃないだろうな?

 やめろよ、マジで。


「茹で終わったにゃ。熱いから気を付けるにゃ」


 ミケが皿に載った茹でトウモロコシを俺たちの前に置いた。

 ミケは一緒に食べないのかと思ったが、猫舌だからあとで食べるらしい。

 猫舌でなくても、茹でたてのトウモロコシは熱くて持てなかったので、少し冷ましてから食べる。


 しゃっくりふっくらとした歯ごたえの後、甘味が爆発した。

 うわぁ、自然の甘味最高だ。

 これ、バター醤油で焼いても美味しくなるんだろうな。縁日の味だ。

 アムもミスラも美味しそうに食べている。

 俺は被りついて食べて、芯の部分に結構残っているのだが、アムが食べると綺麗に削れている。

 ミスラは指でむしって食べている。

 トウモロコシの食べ方も個人差が出るな。

 ミケは次々にゴールデンコーンを茹でている。

 

「って、茹ですぎじゃないか?」


 山のようにあったゴールデンコーンを全部茹でてるぞ?


「ポチから、今夜は祭りだから頼まれてたのにゃ。酒の提供も」

「祭り? なんだ、もうできるのか」

「できるって何がですか?」

「時間短縮の味方だよ」


 アムの問いに俺は答えた。



 その日の夜。

 村人たちが集められた。

 転移門があった場所にはいつの間にか白い現場シートが掛けられていて、中が見えないようになっている。


「今日は何の祭りだ?」

「お披露目会だってさ」

「転移門だろ? 村長がどこからでも一瞬で帰って来られるって」

「マジか!? 凄いな。俺たちも使えるのか?」

「帰還チケットってのがあったら使えるらしいぞ。そういえば、ポチさんがお披露目会できなかったって言ってたからそれのやり直しか」

「そういうことか。なんにしても酒が飲めるなら俺は万々歳だ」

「酒があるのは嬉しいが、メシはゴールデンコーンだけか?」

「バカ、食えるだけありがたいと思え。村長が来るまでは明日食うメシどころか今日食うメシの心配をしないといけなかったんだぞ」

「そうだった、悪い悪い」


 と村人たちが話しているが、肝心のポチの姿が――


「あるじ、お待たせしたのです!」


 と思ったらポチが帰ってきた。


「ポチ、おかえり。早かったな」

「ドッグフードのお陰でスピードアップしたにゃ!」


 おぉ、ドッグフードの効果凄いな。

 あと二日はかかると思ってたのに。


「みんな集まってくれてありがとうなのです! これからお披露目会を始めるのです」


 ポチが言った。

 村人たちは拍手を送る。

 気をよくしたポチは、現場シートから延びたロープを持ってきたので、俺を含む村人数人がポチの合図でそのロープを引っ張った。

 すると、以前と何ら変わりのない石造りの門が現れる。

 そこに驚きはなにもないのだが、空気を読める村人数人がすかさず拍手をし、それに倣うように他の人たちも拍手を始めた。

 だが、本当のお披露目会はここからだ。


 何もしていないのに、転移門が急に輝き始めた。

 そして、その門の向こうに見たことのある景色が広がった。


 その景色の中にいた見知った女性――エルマさんが扉を抜けてこちらの会場にやってきた。


「お招きありがとうございます。エルマの村の村長、エルマです」

「「「「「えぇぇぇぇぇえっ!?」」」」」

「お義姉さんっ!?」「お姉ちゃんっ!?」


 驚きの声の中に、副村長と、恐らく副村長の嫁さんの声が混ざった。


「これで転移門がこの村とエルマの村の間に繋がったのです! 今夜は一日繋げておくので、みんな好きに移動して交流を深めて欲しいのです!」


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