第293話 誘拐犯を退治するのは幻影をおいかけたあとで
地下四階層に来たから改めて地図を確認する。
白いマークがいくつかあった。いくつもの部屋に分かれている。
しかし、肝心の青いマークがない。
敵を示す赤いマークもあるが、薄い赤ばかりで、強敵はいない。
アムはここにいないのか?
一つの白いマークが赤いマークに囲まれている。
魔物に襲われているのか、それとも別の何かに襲われているのかはわからないが、急ごう。
俺はその部屋に向かった。
(なんだ、こいつら?)
そこにいたのは黒いローブを纏ったいかにも怪しげな集団。
その連中に何か既視感のようなものを感じる。
その中心には戦士風の男が倒れている。
あの特徴、アリからもらった攫われた人物の情報に一致する。
どうやら、何かの儀式をしているようだ。
儀式には集中する必要はないのだろうか?
雑談しながら作業をしている。
「まったく、なんで崇高な我々が下水道でこのようなことをしないといけないのだ」
「それもこれも全てトーラ支部の奴らの失態のせいだろ?」
「グチグチ言うな。全てはレザッカバウム様がこの世界に顕現なさるまでの我慢だ。」
クナイド教のレザッカバウム派っ!?
あいつらこんなところにいたのか。
ワグナーと手を組んで対戦相手を誘拐していたのだろうかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「一石二鳥だよな。市民たちを攫うついでに、あいつの対戦相手も狙って攫えば、今回の拉致事件は全てあいつの仕業になる。我らレザッカバウム派との同盟を一方的に破棄したやつには痛い目あってもらわんと気が済まん」
「ああ。帝国の無能共が我らに辿り着くことはないだろう」
「ただ、次の対戦相手のアミって着ぐるみ女は何故か召喚できなかったよな」
「悪魔が言うには妨害が入ったらしい。一体どういうことだって話だよ」
世間話をしながら全てをぶちまけるのってよくある展開だが、ここまで情報が明らかになるとはな。
ワグナーが黒幕と思っていたが、今回に関しては冤罪だったらしい。
俺もまんまと嵌められた。
それと、アムはここに攫われていないこともわかった。
妨害が入ったという。
妨害ってどういうことだ?
さらに耳を澄ませてみても、アムの話はこれ以上出なかった。
「しかし、あの悪魔もいったいどういうつもりなんだろうな? 我らに協力してくれるとは。悪魔にも信仰心があるものなのか?」
「ふん、悪魔の考えなんて知ったことではない。レザッカバウム様さえ顕現すればいいのだから。それにこの場所は素晴らしい。生気が次々に吸い取れる。今日、これでもう十本目だ」
「よし、そいつはまた牢に入れておけ。殺すんじゃないぞ。生気を多く集めるコツは生かさず殺さずだからな」
男の口の中から何か白い湯気のようなものが瓶の中に吸い込まれていく。
あれが生気か。
意識を失った男は部屋から運び出されて別の場所に向かった。
しかし、クナイド教ってのも本当に一枚岩じゃないんだよな。
カイザーもクナイド教を利用して行動しているらしいが、あいつらの様子を見ると皇帝がその身に卸す神はレザッカバウムではないだろう。確か名前のない神らしいし。
現在、邪神の関係者は四組、この帝都にいる。
名も無き邪神をその身に卸そうとしているカイザー。
未来を司る邪神スクルド。
こいつらレザッカバウム派の信者。
そして、ワグナー。
ワグナーが信仰している神がカイザーがその身に卸そうとしている神と同一人物――じゃなくて同一神仏って可能性もある。
しかし、これは勘だがワグナーとカイザーが協力関係にあるとはあまり思えない。
とりあえず、レザッカバウム派の奴らを一網打尽にしたい。
逃げられたり人質を取られたりしたら面倒だから、一人一人捕まえていくか、それとも一つの場所に全員が集まったところで――
ん?
いま、通路の先で女性がこちらを見ていた気がした。
地図には何の反応もないのだが、綺麗な女性が見えたのだ。
あれは一体――
俺は追いかけた。
彼女は普通に歩いているはずなのだが、非常に足が速く、追いつけない。
後ろ姿しか見えないが、しかしその臀部には尻尾があった。
アムと同じ狐の尻尾のように見える。
ただし、色は白い。
そして、彼女は壁の中に消えていった。
まるで幽霊のように。
壁を触ってみる。
硬い。
すり抜けられるような壁ではない。
「いったいなんなんだ? 幻影魔法か何かか?」
と思っていたらくぼみに手が入る。
そこにボタンのようなものがあり、それを押すと壁が扉のおゆに開いた。
隠し扉か。
あの幻影はこの場所を教えてくれたのだろうか?
隠しマップが表示される。
白い幻影はまだそこにいた。
俺に後ろ姿だけを見せて、隠し通路を進んでいく。
俺は覚悟を決め、その幻影を追いかけた。
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