第294話 アムを見つけるのは幻影を追ったあとで
下水道として使われている遺跡の暗い隠し通路を、謎の幻影を追いかけて走っている俺。
まるで『となりのトトロ』の中で小トトロを追いかけているメイになった気分だけど、わくわくだとか好奇心とかより恐怖の方が強い。それでも謎の幻影を追いかけているのは、その幻影から悪い気配がしないってところと、その尻尾がアムと同じ狐の尻尾だったからだろう。もちろんアムの幽霊ではない。
アムよりも背が高いし、身体付きは細い。
さらに走ると、地図に青いマークが表示された。
アムだ。
まさか隠し通路の先にいるとは。
と思った途端、白い幻影が消えた。
とにかく地図に示された場所に行くとアムが横たわっていた。
「アム、大丈夫かっ!」
俺は彼女を抱え上げる。
「……ん」
よかった、眠っているだけみたいだ。
ステータスを見ると、失っていた魔力も回復している。
でも、何故彼女がここに?
と部屋を見回すと、大きな石が置いてあった。
三階層もあった召喚石だ。
どうやら、この召喚石を使ってアムはここに召喚されたらしい。
でも、一体誰に?
クナイド教の仕業じゃないのは確かだ。
アムの召喚を妨害されたって言っていた。
誰が妨害したのだろう?
「……おか……あさん」
お母さんの夢を見ているのか。
このまま寝かせておいてやりたいが、ここから戻ったらクナイド教の奴らを殲滅し、人質を救出する仕事が残っている。
彼女の頬を指でつついた。
ぷにっ。
柔らかい。
カワイイ。
アムは俺より先に寝ることも後に起きることも少ないから、こうして彼女の寝顔を見るのは少ない。
「アム、起きろ」
「……んん」
「朝ご飯だぞ」
食いしん坊キャラなら確実に起きるキラーワードであるのだが、そういうキャラではないアムはやはり起きない。
魔法を使えないアムにとって魔力切れは初めての経験だろうから、慣れていない疲労感に身体が追い付かないのかもしれない。
道具欄から保存食のスナックバーを取り出して、封を切る。
アムの鼻がぴくっと動いた気がした。
彼女の顔の前に持っていくと、それを食べようと口が開く。そのまま食べさせてあげたいが寝ている状態で食事をして誤嚥でもしたら大変だ。なにより、アムを起こすという目的が達成しない。
彼女の鼻に近付け、アムが食べようとすると遠ざける。
そして――彼女が少し目を開けた。
「……あれ? お母さん?」
まだ寝ぼけているのだろうか?
「おはよう、アム。悪い、お母さんじゃない」
「………………? ……っ!? ご主人様! 失礼しました」
アムが起き上がり、姿勢を正す。
うん、いつものアムだ。
「それで、ここはどこでしょうか? あの、失礼ですがご主人様の服から凄い臭いがしますが」
「ああ、悪い。ここは下水道の地下なんだ。」
俺は消臭剤をかけた布をマスク代わりにしているので臭いがわからなかったが、服は相当臭うはずだ。
同じように布に消臭剤をかけて、アムにこれで口と鼻を覆うように言う。
帰る途中、下水道で意識を失っても困るからな。
「あの、どうして下水道の地下にいるのでしょうか? ミスラとティアはどこでしょう?」
「アム、何も覚えていないのか?」
「…………?」
アムは何故自分がここにいるかどころか、自分が家からいなくなったことすらわかっていないらしい。
ここにアムを召喚した奴の目的はわからずじまいか。
アムは召喚の妨害で別の場所に召喚された。
そういえば、俺も本当は勇者としてブルグ聖国に召喚されるはずだったのに、何故か死の大地に召喚されたんだよな。
まぁ、今回の件とは関係ないだろうけれど。
わからないといえば、あの幻影の正体もわからずじまいか。
案外、アムの母さんが娘を守るために俺をここまで案内してくれていたりしてな。
と少しオカルトチックなことを考えてみる。
「急いで帰ってミスラとハスティアを安心させてやりたいが、その前にやることがある」
俺はアムに地下四階層で見たことを伝える。
それを聞いて、彼女はクナイド教徒の全員の捕縛と人質解放に力を入れた。
「変装はしなくてもいいでしょうか?」
「大丈夫だろう。俺がこの帝都にいることは武道大会のせいでカイザーにも知られてるだろうしな。武道大会参加者の何人かを起こしたら、彼らに他の人質の救出を願おう」
体力や魔力が足りないのなら、薬を飲ませてやらないといけないな。
それよりノワールは大丈夫だろうか?
まぁ、あいつも勝てると思って俺に先にいくように伝えたわけだし、あの悪魔の感じはジルクよりも弱そうだから大丈夫だろう。
そう思って隠し通路を出る。
そこで俺は妙なことに気付いた。
地図にあった赤いマークがほとんど消えていた。
代わりに別の赤いマークが先ほどの部屋にいた。
俺たちは警戒し、その部屋に向かった。
そこでは、先ほどのクナイド教の信者たちが水たまりとなった血の池の中に倒れている。
その中心に佇む男が一人。
「あの時の神獣の主人か」
そう言ってこちらを振り向いたのは、アムの母の仇であるワグナーだった。
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