第177話 閑話 トランデル国王と使節団

 儂――トランデル王国の国王、トランデル十四世は現在、重要な会議を行っていた。

 議題の内容は、死の大地で発展を続けるとある村についてだ。

 死の大地は強大な魔物が封印された結界がある禁忌の土地であり、教会を始め多くの国が不干渉地帯と定め、結果どこの国にも属しておらず、そして作物もほとんど不毛な大地である。

 そんな場所にとある変化が起きた。


 その兆候と見られる話しが最初に儂の耳に届いたのは、王都のオークションだった。

 国宝級とまではいかないものの、それに準ずる立派な宝石が同時に数点オークションに並ぶというのだ。宝石には興味はなかったが、それを持ち込んだのが、死の大地の小さな村の人間だという話になり、死の大地に宝石が眠る鉱脈があるのではないか? と噂になった。

 もっとも、ルビー、サファイア、エメラルドと種類の違う宝石であったため、何種類もの宝石が埋まっている鉱脈などあるはずがないということで一笑に付した。

 それよりも、蛮族との小競り合いが想定より長引き、国内の鉄が不足していることの方が問題だった。

 どうせなら、鉄の鉱脈でも見つかればいいのにと。

 そんな折、一つの朗報が舞い込んできた。

 西の国境付近の冒険者ギルドに、大量のアイアンゴーレムとジャイアントゴーレムが運び込まれたという。

 アイアンゴーレムとジャイアントゴーレムの鉄はとても良質であり、普通の鉄よりも高値で取引される。

 だが、その量が尋常ではない。

 アイアンゴーレムやジャイアントゴーレムを倒せる人間が限られているし、仮にダンジョンで狩っても一度に運べる量も限られている。

 だが、運び込まれたゴーレムの量は尋常ならざる量であった。

 しかも、そのゴーレムを持ち込んだ冒険者を調べさせたところ、宝石を売りに来た例の人間と一致したのだ。


 それだけならば、優秀な冒険者が死の大地にいるだけで済んだのだろう。

 しかし、さらにその報告は妙な物へと変わっていく。


・荒れ地を実り豊かな畑へと作り替えた。

・自由都市を一日で制圧し、マフィアともども傘下に収めた。

・ヴェルドン諸島に港を造り、別大陸との交易も行っている。

・ミスラ薬という聖水に変わる不死生物に対して特効能力のある薬を開発している。

・転移門という古代の遺物を再現させ、死の大地の魔力を利用して周辺の村々を瞬間移動できる装置で繋いでいる。


 報告を聞いた儂は、これほど諜報員の報告を疑ったことはなかった。

 特に、転移門とはなんだ?

 一瞬で遥か離れた村に移動できる?

 転移魔法など古代に失われた伝説の魔法ではないか?

 

「捨ておくには常軌を逸している。先日来たミスラ商会の使者が持ってきたものの解析はどうなっている?」

「解析を進めていますが、五十年研究しても同じ酒を造ることはできないと申しておりました」


 宮廷魔術師兼宰相のザヴァンが言う。

 先日届いたブランデーという名の酒百本。

 原材料はワインと同じ葡萄であり、独自の方法で発酵させたとのことらしいが、その味はワインと同じものとは思えないほどに酒精が強く、芳醇でまろやかであった。

 儂も今では愛飲している。


「それで、代表の名はトーカと言ったか? 奴は何者なんだ?」

「わかりません。旧ガモンの村に現れたという情報は得ましたが、それ以前の足取りはわからないのです。突如現れたとしか」

「帝国の人間ではないのか?」

「帝国が転移門成技術を持ってこれまで動きがないのは不自然です」


 だな。帝国の馬鹿が転移門という技術を持っていたのなら、とっくに戦争に利用しているだろうし、戦争に利用するより前に大衆の目に移る場所に設置するわけがない。

 

「新たに分かった情報によりますと、クリオネル侯爵家令嬢のハスティア嬢のサインが記された書状を持っていたそうです」

「クリオネル侯爵家――あの勇者マニアか」


 ハスティア・ジオ・イリア・クリオネル。

 クリオネル家の次女であり、その剣の腕は近衛騎士にも匹敵する。

 そしてなにより、勇者に仕えることを夢見ている。

 ついたあだ名が勇者マニア。

 勇者が召喚されたという噂を聞き、その真偽を確かめるためにブルグ聖国に向かったはずだが、何故彼女か?


「まさか、トーカという男は勇者なのか?」

「彼が勇者であるのならば、ハスティアが彼の傍にいないのは不自然です」


 確かに。

 トーカが勇者であるのなら、あの勇者マニアが放っておくわけがない。

 しかし、勇者が召喚されたときに彼が突然現れたのも事実である。

 幸い、トーカはクリオネル侯爵家の書状を使った。

 つまりはクリオネル侯爵家と繋がりを持つ意志があるということだ。


「クリオネル侯爵を呼べ! 死の大地への使節団を編成する!」


 これ以上、放っておくには危険だ。

 抱き込めるのならばそれでよし。

 もしもそれが叶わぬのであれば、最悪――

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