第178話 福引きは関係者専用口に入ったあとで

「旦那様、ミツキと結婚してください!」


 可愛い女の子からのプロポーズ。

 前世の俺なら戸惑い三割喜び七割と言ったところだ。

 だが、この告白――恋愛とかそういうものじゃないんだよな。

 俺たちの村はワーラビットを受け入れた。

 ワーラビットは感謝した。

 ワーラビットたちは元々はトウロニア帝国の近くの草原に住んでいる種族だった。しかし帝国に侵略され、その土地を追われた。帝国は獣人は迫害対象であり、彼らが生きていくには辛い国だった。

 その後、各地を転々とし、それでも生きていく場所が見つからず、最後にやってきたのが死の大地だったそうだ。

 彼らにとって、この土地は、作物が実り食べるのに困らないこの土地は楽園にも等しい。

 だが、同時に不安もあった。

 ワーラビットを受け入れたのは、俺たちの一方的な慈悲によるもの。だから、俺たちの気分が変われば自分たちは再び放浪の身になってしまう。

 そうならないためにはどうしたらいいか?

 彼らが出した結論は一つ。

 つまり、族長の娘であるミツキを俺の嫁にしようとしたのだ。

 所謂貢物である。

 日本でも戦国時代あたりだとよくある話だったけれど、俺は平成生まれの現代っ子。そんなの望んだりはしない。

 こんなこともあろうかと、道具欄からミサイル人参を取り出すと、ミツキはそれにかぶりついた。

 魔物であるミサイル人参だが、食用にもなる。

 ロケット人参は数が限られているが、ミサイル人参はロケット人参を出すために大量に狩ったのでまだまだ在庫がある。

 ミツキが人参を食べている間に、俺は関係者専用の札が掲げられた扉の中に入る。

 アムとミスラもそれに気付いてついてくる。


「ミツキさんはあのままでよかったんですか?」

「ああ、あれで真面目だからな。立ち入り禁止のところには入ってこないよ」

「……結婚しないの?」

「しない。ここでミツキと結婚すれば、今後俺の村に助けを求めてくる一族の関係者全員と結婚しないといけなくなるからな」


 と言って俺は廊下を歩いて、とある部屋の前に立ち、中に入る。


「ご主人様、これが福引き所ですか。思っていたのと少し違いますね」

「……うん、全然違う。どうやって福引きするの?」


 まぁ、二人にはわからないよな。


「ここでするんだよ」


 と俺は目の前の機械の中央のボタンを押す。


『ようこそいらっしゃいました、トーカ様』

「うん。アム、ミスラ、紹介するよ。喋る自動販売機ロボットのジハンくんだ」



 人工知能が入っているため、会話もできる優秀ロボットである。

 部屋の左右にはそれぞれ白いロッカーが十二個、金色のロッカーが十二個設置されている。


「さて、今日の通常福引きの当選一覧を確認させてくれ」

『かしこまりました』


 ジハン君のお腹の部分に液晶画面で表示される。


―――――――――――――――――

特等:ゴールド福引券……1%

1等:白色ロッカーキー……3%

2等:型紙の欠片……6%

3等:ポーション……15%

4等:福引券……25%

末等:ポケットティッシュ……40%

デイリー賞:ドッグフード……10%

―――――――――――――――――


 福引所の景品のうち、デイリー賞だけは日替わり。

 だいたい銀色宝箱相当の消費アイテムが入っている。

 見ればわかる通り、末等と3等、2/3はハズレと言ってもいい。

 

「福引券をこのジハンくんに入れてレバーを引く。すると、自動的に抽選が始まって、景品が出る。試しに福引回数券を入れてレバーを引くと」


 ジハン君の中央部の液晶画面でドラムが回転。

 そして――


『4等、デイリー賞、デイリー賞、デイリー賞、3等、末等、4等、3等、3等、4等」


 と結果が表示され、取り出し口にドッグフードが3つ、福引券が3枚、ポーションが3つ、ポケットティッシュが1つ出てきた。

 って、偉く内容が偏ってるな。

 ポケットティッシュが1つなのは僥倖といってもいいが、特等から2等までが1個も出ないのは期待値以下だ。


「てことで、福引券が今出てきた3枚を含めてあと32枚、福引回数券が3枚残ってる。てことで、アム。3回やってみようか!」

「はい――やってみます!」


 さっきカジノで豪運を引き寄せていたアムなら、きっと凄い結果が出るに違いない。


『3等』『末等』『末等』


 見事にスカを引き当てた。


「申し訳ありません」

「まぁ、気に病むな。次、ミスラ行こうか」

「……ん、トーカ様、ロッカーキーって横の扉を開けるもの?」

「そうだ。白色ロッカーキーは右の白いロッカーの中から自由に一つ開けることができる」

「中に何が入ってるの?」

「いろいろだな。魔導書や技術書が入ってることもあるぞ」

「……狙うは一等」


 ミスラが三枚の福引券を受け取る。

 が、そう簡単には当たらないんだよな。

 福引きはカジノと同様、ステータスの運の影響が受けないだけでなく、カードゲームのように知識や技術も介入しない。

 完全なリアルラック勝負。

 物欲出しまくりのミスラに、女神はきっと微笑まない。

 まぁ、さっき無欲になりきって福引回数券を使った結果、惨敗した俺が言うのもなんだが。

 だいたい、簡単に当たるのなら――


『特等』


 ファンファーレが鳴る。

 一瞬理解が追い付かない。


『おめでとうございます。特等のゴールド福引券です』


 ジハンくんがそう言うと、取り出し口に金色のケースが出てきた。

 ミスラはその券をじっと見て、


「一等にチェンジで」

『できません』


 んなことするな!

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