第179話 夜の仕事は入村チェックのあとで

 ミスラがゴールド福引券を当てた。

 彼女が狙っていたのは一等のロッカーキーだから、物欲センサーが見事にそれを避けた結果かもしれない。


「……ん! ……ゴールド福引券を使えばレアな魔導書が」

「使えないぞ。ゴールド福引券を使えるのはカジノのレベルが3になってからだ」


 ゴールド福引券で貰えるアイテムの中には金色宝箱のアイテムを越える高性能な武器もある。

 序盤で手に入れてしまい、パワーバランスが崩壊するのを避けるためかもしれない。

 施設のレベルを上げるには、拠点ポイントもそうだけれど魔力粘土や鉄塊、木材などいろいろな素材が必要になってくる。


「……ならもう一回」

 

 ミスラが持っていた残りの福引券を使う。

 二回目は末等のポケットティッシュ。

 三回目は二等の型紙の欠片だった。


「……むぅ。トーカ様、もう一回」

「今日はここまでだ」

「……なんで?」

「ドッグフードが十分手に入ったからな。デイリー賞の中には手に入れたいものもあるんだ」


 デイリー賞の中で一番欲しいのは、ランダムダンジョンチケットだ。

 転移門を使ってダンジョンに行くことができる。

 ダンジョンのレベルは選ぶことができる。

 ランダムダンジョンでは揺り戻しのねじ巻きを使うことはできないが、そこでしか手に入らないアイテムが結構ある。


「……トーカ様だけ回数券使ったのに」


 ミスラが口を尖らせて言う。

 それを言われると辛いな。


「ミスラ、我儘を言うものではありません。福引券はご主人様のものなのですから、ご主人様が使うのは当然です」

「…………ん。ごめんなさい」


 アムに怒られてミスラが謝る。

 そんな謝られるほどのことではないと思うのだが、アムからしたら主従の関係を崩すものだったらしく、俺はしっかりその謝罪を受け入れた。


『ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております』


 ジハン君の声に見送られ、俺たちは福引所を出た。

 カジノスペースではミツキも諦めて帰っていた。

 彼女は会う事に求婚してくるが、ストーカーというわけではないだろうからな。

 さて、帰るか。


「ハートのフラッシュ!」

「私はフォーカードです。ぴょん」


 カジノを出るところで、トンプソンとウサピーが激戦を繰り広げている声が聞こえてきた。

 カード運が良すぎるけど、あいつら本当にイカサマしてないよな?



 村の人口が増えたことで、俺の仕事も増えてきた。

 村長としての仕事はガモンに丸投げ――委託しているが、俺にしかできない仕事も多い。

 例えば、天の恵みの能力を使って、畑をゲームシステムの畑にして作物の成長速度を速めるのは俺にしかできない。


 それともう一つ。

 俺の村への移民希望者の最終チェックだ。

 トンプソンとウサピーが事前にチェックしているので、わかりやすい犯罪者や不穏分子は排除している。

 ただし、村の様子を調べに来ただけの諜報員などは敢えて泳がせているらしい。

 そもそも、こういう諜報員は何十年も、下手したら子の世代、孫の世代までその地に根付いて周囲に溶け込もうとする。

 そういう人間は働き者であり、村の発展に貢献してくれるらしい。


 表の情報はウサピーが、裏の情報はトンプソンが調べているので非常に助かっている。

 ちなみに、排除された人間はトンプソンが有効的に利用しているらしい。

 友好的ではないのは確かだと思う。

 ここまでしてくれるのであれば、俺の仕事は何もないのではないか?


 そう思うだろうが、そうではない。


 本当はアムとイチャイチャしたい時間。

 厄介な仕事が舞い込んできた。


「さて、アム、ミスラ。今夜、荷物が誤送されてきた」

「それは大変です。送り返さないといけませんね」

「……ん、今日はミスラは休み。トーカ様、頑張って」


 わかってるよ。


――――――――――――――

次の話が長めなので、今回が短めです。

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