第136話 臭いを消すのは辱めを受けたあとで
※注意
今回、ちょっと変態チックなお話です
トーカもアムもミスラも……
キャラのイメージを崩したくないって人は、そっと次の話にお進みください。
―――――――――――――――
「…………」
アムの表情が優れない。とてもく落ち込んでいる。
ラフレンキノコの激臭により意識を失ってしまったのがショックのようだ。
とりあえず、アムが元気になるまで少し休憩することにした。
「まぁ、そういうこともあるよ。アムの嗅覚は人間より鋭いんだから仕方ないって」
「いいえ、仕方ないで済まされることではありません。これは私の落ち度です。母も生前言っていました。弱点を弱点だと気付いておきながら放置するのは、亡者に片足を掴まれたまま何もせずに冥府に引きずり込まれるのを待つ愚者と同じだと」
「弱点ってわけじゃないだろ? アムの嗅覚は逃げてる奴を追いかけたり、魔物からの不意打ちを防いだり役に立つ面もある。むしろ、今回のようなケースの方が稀だろ」
「それでもご主人様の足を引っ張ったことには変わりありません」
今日のアムはいつもより頑なだ。
本当に気にすることじゃないのに。
「……鼻が弱点だとして、どんな方法で克服するの?」
え、ミスラ、気になるのそこ?
いや、俺も気になる。
「考えていませんでした……徐々に臭いものから慣れていく……とかでしょうか?」
アムが考え込むように言う。
確かに方法としては有効かもしれないが――具体的に何から慣れればいいんだ?
「臭い物――シュールストレミングまで行くとラフレンキノコといい勝負しそうだし、最初は納豆とかかな?」
「ナット? ……そういえば、前にポチさんが話していましたが、御主人様の故郷の食べ物なのですよね? 臭いのですか?」
「臭いといえば臭いな」
納豆な。ナットだとボルトなどと一緒に使うネジの一種になってしまう。
俺は納豆は嫌いじゃないので臭いとは思わないし、最近の市販品の納豆は臭いが抑えられている。
ただ、納豆を作るとミケが嫌な顔をするのは必至だな。
「あとは定番だと、何日も履いた靴とかかな? 雨に濡れたあととか最悪だ。まぁ、激臭というほどひどくはないと思うが
「ご主人様の靴ですか?」
「ああ――」
と言って俺は花の上に座り、靴を脱いで嗅いでみる。
うん、かぐわしい匂いではないな。
さっき手に入れた消臭剤を使いたい。何回か使えるからな。
「お借りしてもよろしいですか?」
「いや、さすがにアムに嗅がれるのは抵抗が――」
「お願いします。弱点を克服する第一歩になるかもしれないのです」
アムが頭を下げた。
そこまで言われたら断りにくい。
自分の発言が原因なので、渋々靴を渡す。
アムが靴を嗅ぐ。
……これ、どんな羞恥プレイだよ。
「………………」
「あの、アム」
「………………」
「無理するなよ?」
「……申し訳ありません、ご主人様。これでは特訓になりません」
「ああ、悪臭ってほどじゃなかったか?」
「むしろ安心する匂いです。このままお借りしたいほどに」
え?
いやいや、良い匂いってのは流石に嘘だろ。
俺に遠慮してるんじゃないか?
と思ったら、ミスラが横から靴を取り、においをかぐ。
「……ん。嫌いじゃない」
「ミスラまで⁉」
ミスラはこういう時にお世辞を言ったりしない。
てことは、俺の靴の臭い、二人には好評なのか?
てことは――少し気になるのは、アムとミスラの靴のにおいだ。
俺はにおいフェチではないので、彼女たちの靴のにおいとか嗅ごうと思ったことがない。
でも、俺にとっての悪臭である自分の靴が、アムやミスラにとって良い匂いだというのなら、アムとミスラの靴のにおいは俺にとって良い匂いなのではなかろうか?
宿に戻ってからこっそり嗅ぐか?
いや、ここは男らしく、匂いを嗅がせてくださいとお願いするべきだろうか?
「……アム」
「はい」
俺が考えている間に、アムとミスラは右足の靴を脱いだ。
まさか、俺の考えが彼女たちに伝わり、匂いを嗅がせて――
二人は液体タイプの消臭剤を靴に掛けていた。
「あの、アム? ミスラ?」
「すみません、ご主人様。私の靴の臭いはちょっと――」
「……ん。抵抗がある」
考えが読まれて否定される前に匂いを消されてしまった。
俺の靴の臭いは嗅いでおいで、それはズルいんじゃないか?
いや、待て。
アムとミスラがいま消臭剤をかけたのは右足の靴だけ。
左足の靴がまだ残っている。
ここは二人の主人として強権を――
「ご主人様は私が奴隷だからといって無理やり靴を寄越すように言って来る方ではないと信じています」
「……ん。トーカ様はアムを奴隷から解放しようとしている。そんなことするわけない」
発動できるわけねぇ!
俺がもたもたしている間に、二人の靴のにおいは消臭剤によって消されてしまった。
「アム、ミスラ。俺の靴にも消臭剤使うから返して……」
「「もう少しだけ」」
とても空しい。
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