第137話 アルラウネと戦うのは覚悟を決めたあとで

 どうやら、このダンジョンの魔物は花に関する魔物が現れるらしい。

 現在戦っているのは、満開の桜の花が咲いている木の魔物――サクラトレントの群れだった。

 いやぁ、最初この部屋に来たときは大量の桜の木を前に、故郷を想って感動したものだが、その桜の木が全部魔物だったときは度肝が抜かれた。

 サクラトレントの攻撃は花吹雪――カッターナイフの刃くらいの強度と切れ味のある花びらを大量に飛ばしてくる。

 もっともその攻撃力は低く、装甲が紙と定評のあるミスラでもレベル差のためほとんどダメージが通らない。

 ただ、服を完全に守るのが難しいので、服を守るために三人ともアバター衣装で戦っている。

 これなら衣装が破れても装備し直すことで元の服はノーダメージだ。


 ただし、服のあちこちに切れ目が入っていく姿は背徳感があって――って考えがおっさんかっ!


「アクセルターンっ!」


 黒鉄の斧を振り回して周囲のサクラトレントを一掃する。


「桜の木を切ったのは俺だ」


 と軽くネタフリをするが、


「はい、お見事でした」

「……ん、さすがトーカ様」


 ジョージ・ワシントンの逸話など知るはずもない二人に話が通じるわけがないのでそういう反応になる。

 ドロップアイテムは桜の枝か。

 聖剣の一つ、桜花一斬という刀を解放するのに必要な素材の一つだ。

 蒼剣では、刀と剣は別物ではなく同じ種類の装備であり、桜花一斬は黒鉄の剣より三ランク上の装備である。

 まだ聖剣の総合レベルが低いのもあるが、なによりレア素材のヒヒイロカネがなかなか手に入らないので、解放は暫く先だろう。

 一応、桜の杖の素材でもあるので、そちらで使う方が先かもしれないな。


 さて、ここも転移魔方陣が三つ。

 どれを選ぼうかな?


 ワクワク気分で転移魔方陣に入った。

 次の部屋は大きな白い花が咲き誇る場所だった。

 鑑定によると、ユキハナという冬に咲く花らしい。

 雪の中にこの花が咲いていてもなかなか見つけられないだろうな――って思っていたら、突然花が動いた。

 え?

 と思ったら、雪の花の中に、巨大な白いカマキリが隠れていた。

 ユキハナカマキリかっ!

 ハナカマキリという花に擬態するカマキリは実在するが、その魔物だ。

 ユキハナカマキリの鋭い刃が周囲の花ごと俺を切り裂こうとするが、アムがその刃を受け止めていた。

 アムの反応――俺より先にユキハナカマキリの擬態を見破っていたらしい。


「はい。見た目はとても似ていますが、匂いだけは真似できなかったようですね。他の花とは違う独特な匂いがしたので気付きました」

「……ユキハナカマキリは餌となるユキムシをおびき寄せるために、同じユキムシの匂いを分泌している。アムはそれを嗅ぎ取った」


 ミスラ、解説ありがとう。

 ユキハナカマキリだからユキハナの香りかと思ったら、ユキムシの臭いを分泌しているのか。


「やっぱりアムの鼻は役に立つな」

「恐れ入ります。先ほどのラフレンキノコの汚名を僅かですが返上できてよかったです」

「十分過ぎるよ。これからも頼りにしてる」


 ラフレンキノコの臭いを嗅いで気絶してしまって落ち込んでいたからな。

 少しは元気になってよかった。


 その後も転移魔法陣を使っては移動を続ける。

 途中、再度ラフレンキノコのいた部屋に入ってしまい、リスポーンしているラフレンキノコの臭いにアムが気絶しそうになったが、なんとか鼻を摘まんで耐えるという成長(?)を見せてくれた。

 その隙にラフレンキノコを倒して消臭剤をゲットした後、即座に別の部屋に移動。

 そして――地図が八割くらい埋まったところでボス部屋に到着。

 ここのボスの名前はトンプソンから聞いている。


「さて、……強敵だな」

「ここのボスは強いのですか?」

「いや、状態異常の毒花粉を飛ばしてくるが、強さ的にはそうでもない。ただ、ここの魔物ってのがアルラウネとその眷属らしいんだよ……」


 アルラウネ――下半身が花、上半身が女性という魔物だ。

 これまでいろんな魔物を倒してきたわけだが、見た目が女性の魔物と戦うのは初めてだ。


「……トーカ様、相手は魔物。油断したら格下相手でも大怪我に繋がる」


 ミスラが注意する。

 そうだよな――うん。

 アルラウネ、ハーピー、ドライアド。女性の姿をした魔物は他にも山ほどいる。

 そのたびに戦うのを躊躇していたら、怪我に繋がる。

 俺だけの怪我ならいいが、アムやミスラを傷つけることになったら、そしてそれが取り返しのつかないものになったら俺は一生後悔することだろう。

 相手は魔物だ。

 そう覚悟を決める。


 俺たちはボス部屋に進んだ。

 ボス部屋は花畑だった。


 そして、その花畑の真ん中で、そいつは優雅に本を読みながら、眷属に囲まれて佇んでいた。

 大勢のオークに囲まれた、上半身が裸の雌オークのアルラウネが。

 って、オークっ!?

 え? アルラウネなのに人間の女性じゃないの?


「……文献で見たことがある。雄のオークを従えるために、雌のオークの姿を取って支配者となった亜種がいると」

「あのアルラウネの上半身は豚の味がするのか、野菜の味がするのかどちらでしょうか?」

「アルラウネは毒の花粉を持ってるから食べない方がいいと思うぞ」


 アムの疑問に、俺は律儀に突っ込みながら思った。

 なんだかんだ言って少し期待してたのに、ガッカリだよっ!

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