第106話 納品依頼はカード発行のあとで

 冒険者ギルドの受付に行く。

 受付をしていたのは五十歳くらいのゴツイおっさんだった。

 若い受付嬢を期待したんだけどな。


「よう、ミスラの嬢ちゃん。久しぶりだな。家を引き払ったと聞いてたが、戻ってたのか」

「……ん、西の開拓村に引っ越した」

「そうか。じゃあ今日は魔物の納品か?」

「……ん、それもある。でもトーカ様とアムの付き添いが主な用事」 


 おっさんの視線がこっちに向く。

 いや、見ていたのはアムだった。


「でかくなったな。お前さん、アムルタートだろう?」

「すみません。どこかでお会いしたことがあるでしょうか?」

「ああ、覚えてないのも無理はない。ここに来たのはまだ赤ん坊の頃だったからな。お前さんの母親に連れられて何度か来たんだ。まったく、子供を背負って魔物退治するなって何度注意したことか……しまいには、『じゃああんたが預かってくれ』って。冒険者ギルドは託児所じゃないっていうのに」


 どうやらアムの母親が何度か来ていたらしい。

 アムの母親の武勇伝はあちこちで聞くけれど、冒険者ギルドでもその話は残っているようだ。

 

「母が……いえ、幼き日の私がご迷惑をお掛けしました」

「責めてるんじゃねぇよ。過去を懐かしんでるだけだ。あんたの母親のことは聞いている。あのときは、いや、ゴブリンの時も悪かったな。本当は冒険者を派遣してでも助けてやりたかったのだが――」

「いえ、冒険者ギルドには冒険者ギルドの立場がありますから。死の大地周辺のに村を作るとなったとき、冒険者ギルドを含め、国家やその他団体からの支援が得られないという覚悟はしていましたので」


 冒険者ギルドは冒険者の互助組織であり、慈善団体ではない。

 派遣してもらうにはお金を支払う必要がある。

 

「それで、付き添いってのは?」

「私とご主人様の二人で冒険者ギルドの登録をしたいのです」

「ご主人様?」


 おっさんが鋭い眼光で俺を睨みつけて来た。

 そして、おっさんは俺を見たまま、アムに尋ねた。


「アムルタート、そのご主人様ってのとはどういう関係だ?」

「はい。私はご主人様の奴隷です」

「奴隷だとっ!? どういうことだ、お前っ!」

「ま、待ってください! 事情を説明させてください!」


 俺はおっさんにアムを奴隷にすることになった経緯を説明した。

 最初は怒っていたおっさんだが、これまでの経緯と彼女を奴隷から解放したいと思っていることも伝えるとおっさんはようやく落ち着いたようだ。


「なるほど……ポットクールの奴め。そんなことならまずは俺に相談をしやがれ。あの狸親父め」


 おっさんは忌々し気に呟く。

 どうやら怒りの矛先はポットクールさんに向かったようだ。

 狭い町だし、二人が知り合いなのは不思議ではない。


「で、冒険者登録だったな。まず、面倒だが冒険者の説明をするぞ」


 おっさんはそう言って冒険者ギルドの仕組みについて説明した。

 まず、登録料として100イリス必要。

 冒険者登録すると冒険者カードが発行され、その情報が各地の冒険者ギルドに送られる。

 冒険者ギルドの有効期限は最初は一年間で更新手数料として、100イリスが必要となる。

 二回目以降は、有効期限が三年間に伸びるが、不祥事を起こした冒険者は冒険者ギルドの判断で一年ないし二年に変更する場合がある。

 ただし、Bランク以上の冒険者は有効期限が無い。

 また、冒険者ギルドの判断で、冒険者資格を失効することができ、そうなったら冒険者カードは使えなくなる他、三年間再度冒険者資格を得ることができなくなる。

 この冒険者ギルドで発行される冒険者カードはトランクル王国の中でのみ効果を発揮するが。他の国で冒険者として活動したいのなら、その国でも冒険者ギルドに登録する必要があり、その国に応じて冒険者ギルドの仕組みは異なる。

 冒険者にはFランクからAAランクまでランクがあり、そのランクが上がると依頼が増えたり冒険者ギルドが保有する情報を得られたり、冒険者ギルドが管理するダンジョンに入れたりする。

 特にAランク冒険者ともなれば、本当に様々な恩恵があるらしい。

 Dランクまでは冒険者ギルドの判断により好きに昇格することができる。Cランク以上になるには実績を積んだ上冒険者ギルドの試験を受けて昇格できる。

 ただしAAランクは特別で、冒険者ギルドの支部長の推薦の後、冒険者ギルド本部の承認により認められる。名誉ランクのため、試験のようなものは存在しないし、特権などもAランクと同等らしい。


「何か質問はあるか?」

「俺は攻撃魔法が使えるんですけど、Dランクから登録可能でしょうか?」

「ああ。じゃあトーカはDランクで登録でいいな。魔法に関しては自己申告でOKだ。虚偽の報告だったら冒険者資格はく奪だから気を付けろよ」

「……嘘じゃない。トーカ様は魔法を使える。ミスラ程じゃないけど」


 ミスラが言ったので、おっさんは納得してくれた。


「Cランクになるための試験を受けるにはどのくらいの実績が必要でしょうか?」

「Cランク以上の依頼を達成したり、魔物の納品を続けたら冒険者ギルドから声が掛かるぞ。ミスラの嬢ちゃんは契約魔法絡みの依頼を結構受けてたし攻撃魔法も使えたから三カ月でCランクに昇格できたが、普通は何年もDランクでくすぶることになるぞ」


 何年もDランクは御免だな。

 Cランクの依頼ってどんなのなんだろう?

 気になって尋ねたら、掲示板に貼り出してるからそれを見るように言われた。

 Cランク相当の依頼はDランク以上の冒険者が受けられる。

 護衛依頼ばっかりだな。

 魔物退治はほとんどないようだ。

 魔物素材の納品はランクに関係なく受けられるが、備考欄に魔物の討伐推奨ランクが記載されている。


「あの、この納品依頼を受けたいのですが」

「ああ、待ってろ。もうすぐカードを作るから……っておい、この依頼は流石に無理じゃないか? 魔法がほとんど効かないBランク相当の魔物だぞ」

「問題ありません。すでに在庫があるので」

「あん?」

 

 その依頼書に書かれたのは、アイアンゴーレムの納品依頼だった。

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