第161話 敵を追うのはミスリードに気付いたあとで

 岬の先端が崩れたとき、俺たちは動けなかった。

 動いたところでどうこうなるものではない。

 さっきまであった白い反応が消えている。


 土砂崩れを起こして街道を塞ぐことができるダイダラワームならば、岬を崩すくらいやってのけてもおかしくない。

 もしも俺たちがダイダラワームの存在に気付かず、岬の先端に全員で向かっていたら土砂に呑み込まれて全滅していただろう。帰還チケットを使う暇もなかっただろう。


 魔物相手だったら負けない自信がある。

 それだけ成長してきた。

 だが、こんな攻撃――いや、攻撃なんて呼んでいいものではない。

 これはもう災害だ。


「トーカ殿――」

「助けに行った方も捕まっていた方も気配が完全に消えています……」


 つまり、死んだ。

 これまで魔物を倒してきた俺たちだったが、こんな風に人の死を見るなんて。

 

「しかし、どういうことだ? 岬は完全に封鎖していた。なのに誰の姿も見えないというのは」

「そうだ――」


 山賊もポチもロック鳥も山賊も、誰もいない。

 どうなっている?

 最初から敵はいなかったのか?

 地図を確認する。

 赤いマークが移動している。

 ってあれ? おかしい、ダイダラワームが進んでいるのは海の中だ。


「アム、ダイダラワームはウミヘビのように海の中を泳いで移動できるのか?」

「そんなの聞いたことがありません」

「だよな、俺も聞いたことがない。でも、ダイダラワームは海の中を移動しているんだ。あっちに――」


 待て、本当に海の中を泳いでるのか?

 どこに?

 山賊たちの仲間がいる場所に向かっている?

 でも、船を波と風で誘導していたってことは、ここで山賊が待ち受けていたはずなのに?

 待ち受けて……違う!

 山賊が待ち受けていたのは岬じゃない、黒い山だ。


 この岬を山に見間違えないだろう。

 こんなところに山賊がいて、そこから岬を下って山賊が船を襲うのは難しい。

 ていうことは、岩礁地帯のどこかに待ち構えていた?

 でも、岩礁地帯から岬に移動していたのは確かなはず。

 どうやって?

 海を泳いで?

 船を使って?

 そもそも、岬や岩礁地帯を拠点にするのは難しい。

 だったら、山賊の拠点はどこに?


 海底トンネル!

 海の底に穴を掘って、岬と岩礁地帯と本拠地を繋いでいる⁉


 しまった、ロック鳥が岬の方に行ったから岬に敵の拠点があると誘導された。

 くそっ、知能デバフがかかっていたのは俺の方だ。

 ミストタートルは霧の中に隠れている。だから霧がいたらミストタートルがいる。

 でも、山賊が霧の中に隠れているからって、霧がいたら必ず山賊がいるとは限らない。


「隊長さん! あっちには陸地がありますか!?」

「あ……あぁ。ウェルドン諸島の一つ、ラン島だ」

「山賊の拠点はあっちです! ダイダラワームが海底にトンネルを作って岬と岩礁地帯の岩山と繋いでるんです。岬を崩したのは俺たちを全滅するためじゃなくて、地底トンネルの入り口を隠すため、本拠地の場所を知られないためです」

「だったら、先ほどのダイダラワームの穴を辿って行けば――」

「いえ、海底を通るんです。ダイダラワームがもしも天井に穴を開けたら全員溺死です。追うとしたら船です。渡し船を待たせています。それに乗って移動します」


 俺がそう言うと、騎士達が頷いた。


 疲れているとは思うが、急ぎ、渡し船のある場所に戻る。

 俺とアムだけだったら直ぐに戻れる距離なのだが、やはり重装備の騎士達の動きは少し遅い。

 それでも、ミスラと約束した一時間以内には、崖下に停めてある渡し船に戻ることができた。


「……トーカ様! よかった、無事だった」

「聖者様、先ほど岬の方から凄い轟音が。それに波も押し寄せてきて、何があったんですか!? それに、そちらの騎士様たちは――」

「事情は説明します。ラッキー船長、後何人乗れますかっ!? 急ぎ、ラン島に行きたいんです」

「広い船じゃない。荷物を全部卸しても儂とハッピーを除けば定員は十五人だ」


 十五人。

 騎士達の全員が乗るのは不可能か。


「でしたら、我々は一度荷物を降ろして待ちましょう。ここからなら万が一のことがあっても歩いてハンバルの村にも自由都市にも行けますから」

「助かる。それで乗る人間だが――」

「俺とアム、そして彼女も乗せてください。彼女は魔法を使えます。絶対に役に立ちます」

「ああ、本来であれば民間人である君達を巻き込むわけにはいかないのだが、いまは君達の力が頼りだ」


 隊長さんは俺たちの乗船を認めてくれた。

 そして、隊長さんを含め、十二人の騎士を選抜し、渡し船に乗り込む。


「聖者様、どうかご武運を」

「はい、ポットクールさん、少し待っていてください。騎士の皆様、どうか俺の雇い主をよろしくお願いします」


 俺はポットクールさんにそう言い、残った騎士たちに頭を下げた。

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