第162話 ラン島に行くのは波と風を制したあとで
「岬の崩落に巻き込まれたあいつは、岬の先端にいた仲間の兄だったんだ」
ラン島に向かう船の中で、犬耳の獣人の騎士が沈鬱な顔を浮かべて言う。
「獣人は兄弟が多い。俺の家も十五人は兄弟がいる。だが、あいつらはたった二人の兄弟でな。だからかもしれないが、いつも仲がよかったんだ。それなのに、まさかあんなことになるなんて――」
俺にも妹がいる。
いまはもう会うことができないが、もしもあそこにいたのが会って間もない騎士ではなく、その妹だったら、果たして俺は冷静な行動をとれただろうか?
仮に慎重に行動できたとして、その結果妹が死んでしまえばやはり後悔しただろう。
だから、罠だとわかっていても、助けにいかずにはいられないに違いない。
「許せねぇよな」
「ええ」
俺は頷いた。
最初、山賊たちは荷物は奪うが人は殺さないと聞いていた。それを聞いたとき、もしかしたらその山賊は義賊のようなものではないか? だから、行方不明になっている騎士たちも実はまだ生きているのではないか? と心のどこかで思っていた。
だが、さっきのやり方――傷ついた仲間を囮にして罠に誘い込むその方法は義賊とは程遠い。
人を戦いの駒としか思っていない奴のやり方だ。
一方、何の事情も知らずに一緒に来たミスラとラッキー船長、ハッピーの三人は事情を聞き終えたようだ。
「……これまで聞いてた山賊像とは随分違うみたい」
ミスラも俺と同じ感想を述べる。
「ああ。儂も一度襲われたが、そこまで凶悪な奴らじゃなかった。それに、岩山には手漕ぎの船があった。山賊の奴らはその船を使って移動していたと思ったが――」
船を使って移動していた?
ってことは、俺の予想は間違いで、海底トンネルを使っていなかったのか?
それとも、その船は海底トンネルの存在を気付かれないためのダミーだろうか?
と思ったとき、大きく船が揺れた。
普通の揺れじゃない。
「なんだ、この波はっ!? ハッピー!」
「はい!」
よくわからないが、タダ事ではないらしい。
船が方向を変える。
「どうした?」
「あり得ない波がこっちに押し寄せてきてる。このままだと転覆する」
あり得ない波。
俺たちがラン島に来るのを邪魔しているのか。
どうしたら――
「……ん、ミスラの出番」
ミスラが立ち上がり、杖を構える。
「……水よ、我に従え」
四元素の杖にはめ込まれた青色の魔石が光ると、波が落ち着いた。
「何をしたんだ?」
「……ん、こちらに向かって来る波と逆位相の魔法を掛けた。長時間は無理だからいまのうちにお願い」
さすが魔導書を読み続けているだけのことはあるな。
「他人の魔法に干渉して打ち消すとは――さすがはトーカ殿の仲間の魔術師。王都の役立たずとは違うようだ」
自国の魔術師を現場に出てこない引きこもりと嫌っている隊長さんがミスラを褒めたたえる。
とその時、何かが近付いてくる。
地図の索敵範囲の外、かなり離れているのにはっきりとその姿が見えた。
間違いない――あれは――
「ロック鳥だ! 弓兵! 構え!」
「ミスラ、魔法は――」
「……今は無理……波の制御の途中」
「そうか――だったら、ファイアボール!」
俺は火魔法を使った。
当たった!
そう思ったが、何故か火の玉が当たらない。
避けられたのではない。
ロック鳥の手前で逸れた。
風の魔法か?
これなら風の影響を受けにくい雷魔法を使えばよかった。
雷魔法はトーラ王国が独占しているというので、騎士達の前で使わないようにしようと思ったが。
当然、風の魔法に阻まれて、弓兵たちの放つ矢も当たらない。
質量のないソニックブームはどうだ?
いや、あれは風の刃、かまいたちのようなものだ。
風の結界を突き破ることはできるかもしれないが、それで威力が落ちて致命傷にはならない。
だったら――
俺は道具欄から巨大貝(盾)を取り出して、それを近付いてきたロック鳥に対しフリスビーのように投げた。
風の結界を突き破るが、ロック鳥が避ける。でも、避けられるのは織り込み済み。
ロック鳥が無理に避けたせいでロック鳥が大きくバランスを崩した。
それがチャンスだった。
次の瞬間、バランスを崩したロック鳥にマグロが突き刺さった。
地図を確認する。
無事に倒せたようだ。
「さすがアムだ」
「ご主人様が動きを止めてくださらなかったら当たらなかったです」
「俺の考えを理解して行動してくれて助かる。さて、マグロが沈む前に回収しよう」
と言って俺たちはロック鳥が落ちた場所に行くようにラッキーさんに頼んだ。
そして騎士達は言う。
「「「なんでマグロ?」」」
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