第163話 山賊捜索はラン島上陸のあとで
ロック鳥の死体とともにマグロを引き上げにかかる。
巨大貝は既に海に沈んでしまったが、うちには盾使いはいないから別に問題ないだろう。
海から生まれたものが海に還るだけだ。
それにしても、本当にでかいな。
近付いてわかったが、俺たちが乗っている船より大きいぞ。
からあげにしたら、いったい何千人前できるだろうか?
「トーカ殿、このような巨大な鳥を船に載せるのは無理なのでは?」
「収納能力がありますので」
俺はそう言って引き上げたロック鳥を回収する。
薬草一つであっても、どれだけ巨大な鳥であっても、道具欄の一枠に収まるのは変わらない。
「凄いな――あれだけ巨大なロック鳥を収納できるのか」
もっとも、この世界の本来の収納能力というのはレンタル倉庫みたいに、保存量は体積依存らしく、隊長さんにはとても驚かれた。
本来ならロック鳥の四分の一のサイズを収納できるだけでも引く手あまたの運び屋になれるそうだ。
「ご主人様――」
「ああ……俺も見た。あったな」
「あったとは何がだ?」
「刺青です。百獣の牙の従魔の証の刺青が、ロック鳥にあったんです。首の後ろの部分の羽が不自然に引っこ抜かれ、そこに。
「なに、それは本当なのか?」
「ええ。ただ、あのロック鳥が今も百獣の牙の配下かどうかはわかりません」
隠すことでもないので、俺はゴブリンキングの件について隊長さんに話をした。
ゴブリンキングは、自分は既に百獣の牙の支配下にはない魔物であった。
それと、もう一つは、メリサの件だ。
メリサは魔物使いであり、そして彼女もまた百獣の牙の刺青をしていた。
メリサの言っていたあの方というのが、百獣の牙のリーダーかどうかはわからない。
もしかしたら、ただの盗賊や山賊とは違う大きな組織が動いているのかもしれない。
「そういうわけなので、俺たちにとっても因縁の相手なんです」
「重要な情報だな。提供感謝する」
隊長さんが言った。
その時――
「……トーカ様……そろそろ限界。魔力が尽きる」
波に対して干渉を続けていたミスラが言った。
ロック鳥との戦いやその死体の回収に時間を取られすぎてしまったようだ。
魔力ポーションを持ってきているのでそれを飲ませるべきか?
「いや、ここまで来れば十分だ。予定とは違うが、上陸できる場所まではいける」
そう言ってラッキー船長は船を操りラン島に近づけさせる。
さっきまで岩の陰になっていて見えなかったが、そこには港があった。
ただし、人の気配はない。
建物らしき影もあるが、ほとんど崩れていて人が住めるような状況ではない。
地図を見ても反応はないので、誰も住んでいないのは明白だ。
「ここは?」
「かつてラン島に唯一あった港町だ。岬の岩礁地帯は大きな船が通れないが、ここからなら死の海を越えて外洋に出ることも可能だったので我が国の中でも交易の玄関口として栄えていた。五十年以上昔の話だ」
「今は使われていないのですか?」
「ああ。クラーケンに襲われて、町は壊滅状態になった」
クラーケン――イカとかタコを巨大化させた怪物だ。
「それから再興を試みたこともあったが、結局は大陸に別の港を作り、遠回りで外洋に出ている」
「昔の話――か。騎士様たちにとってはそうかもしれないが、儂等にとっては今もなお残っている問題だ」
ラッキー船長が言った。
とても悲しそうな目をしている。
「船長殿、あなたはもしや?」
「ああ、儂はこの町の出身だ。渡し船の船長なんてやっているのも、もしかしたらいつか、この町を再興する日が来るかもしれないという淡い期待があってのものだ」
ラッキー船長はそう言って、船を整備された海岸に接岸させる。
桟橋もあるのだが、そこはボロボロになっていて危ないそうだ。
「儂が島を案内しよう。この島を山賊共が好きにしているというのは元島民として看過できん問題だからな。ハッピー、お前はここに残って船を見張っていなさい」
「部下も護衛につけましょう。船がなくなれば我々もここから帰れなくなりますので」
そう言って、隊長さんは部下を二人護衛として残していくことにした。
そして、俺たちはラッキー船長の案内で島の東部へと向かう。
この島にはこの港町の他に、いくつか村があったそうだが、港町が使えなくなったため多くが大陸に移り住み、いまではこの港町と同様無人の廃墟になっているらしい。
敵がいるとしたらそのあたりかもしれないとのこと。
地図でカバーできない以上、ラッキー船長の案内は助かる。
ただ、島の道もやはり何十年も使われていないと草が生え、まともには進めない。
途中の道が土砂で塞がっていた李、川に架かっていたという橋も無くなっていたりと思うようには進めない。
それに――
「また敵のようです」
俺がそう警戒をする。
現れたのは山賊やダイダラワームではなく、野生の豚――グレイトピッグだった。
豚というのに猪みたいな面構えをしている巨大豚。
もともとこの島にいた魔物で、島に大勢の人がいたときはむしろ狩りの標的となっていて、人間から逃げるために島の奥に逃げていたそうだが、人がいなくなって五十年以上。
世代を重ねた結果人間への恐怖が無くなりこうして襲って来るようになったらしい。
強くはないのだが、一度に五匹、六匹と襲って来るので厄介だ。
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