第164話 川の向こうに行くのはダンジョン攻略のあとで
うっそうと茂る森の中を進む。
何度もグレイトピッグに襲われた。
人間がいなくなって五十年、人の築いた社会は完全に崩れてしまっている。
ここはもはや豚の王国だな。
それにしても、島に入った途端、自然が豊かになるんだよな。
死の大地はほとんど荒野だったし、ハンバルの漁村の周辺も草地はあってもこんな風な森はなかった。
「……死の大地の周辺は結界を維持するために大地の力を吸収している。間に海を挟んでいるから、大地の消耗はなく、自然も豊か」
そういやそういう設定だったな。
村は天の恵みのお陰で栄養たっぷりの畑だらけだったから忘れるところだった。
これが本来のこの辺りの自然なのか。
そんなことで時間を取られ、目的の村に到着したときにはかなりの時間が経っていた。
ポットクールさんたち、絶対心配してるだろうな。
村は島の中央部より僅か南西の位置にあった。
海岸沿いだと塩害の影響で育てられないような穀物や野菜を育てるためにこのような場所に村を作ったらしい。
なるほど、死の大地の影響も受けないわけだし、ここに畑を作ろうという心意気は理解できる。
だが悲しいことに、建物は石造りの建物が結構残っているのに対し、畑があったと思われる場所は雑草どころか森に呑み込まれている感じがする。これだとこの村に一から畑を作り直すのに何年も時間が必要だろうな。
騎士達は村の捜索を開始。
ここに敵がいないのは確認済みだが、山賊が逃げたあとかもしれないので、何か証拠が残っていないか調べている。
だが――
「この村に人がいた形跡はありません」
「どうやらハズレのようです」
とのことだった。
まぁ、ダイダラワームが這ったような痕もないし、
まぁ、この場所、ダイダラワームが移動した先を直線上に伸ばした先としては、だいぶ西の位置になってしまうからな。
ラッキー船長が言うには、ここよりさらに東にも村があるそうで、そっちが本命なのだろうが。
「これはさすがに無理だろ」
幅十メートルはある川――そこに架かっていたというつり橋が見事に落ちていた。
水の流れが強い。
「妙だ。普段はここまでの水嵩はないのだが」
「山頂の方で雨が降ったのかもな」
島の中央部はかなり高い山になっている。
「他に道はないのか?」
隊長が尋ねる。
俺とアムの身体能力なら、もしかしたら向こう岸に飛び移ることができるかもしれないが、ミスラは絶対に無理だし、年よりのラッキー船長や重装備の騎士達も無理だろう。
「ここからだと山を迂回するか……あそこを通るしかないか」
「あそことは?」
「ダンジョンだ。この島には二つのダンジョンの入り口があって、そこは中で繋がっている。だが、別の入り口に行くには、一度ボス部屋を越えないといけない。並大抵の冒険者では乗り越えられないぞ。」
波大抵の冒険者じゃなければ乗り越えられるってことだよな?
この激流を泳いで渡るよりはマシだろう。
「ラッキー船長、そのダンジョンの入り口に案内してもらえますか?」
「ああ、問題ない。だが、中の構造まではわからんぞ?」
「それこそ問題ありません」
ダンジョンのボス部屋なんて、一番下か一番奥に決まってるんだから。
ラッキー船長の案内でダンジョンに向かう。
暫く進むと地図上にもダンジョンの入り口が表示された。
ご丁寧なことに、川の向こうのダンジョンの入り口まで表示されている。
俺たちはダンジョンの入り口に入った。
岩でごつごつしていて入り口は狭い。
このダンジョンに名前はないそうなので、橋代わりのダンジョンと勝手に呼ぶことにした。
橋代わりのダンジョンの魔物は結構多くの種類がいるそうだが、特に面倒なのがポイズンスライムだ。
スライムといえば、俺がこの世界に召喚されて最初に倒した魔物だが、ポイズンスライムはその名の通り毒を持つスライムだ。
触れるだけで毒に感染んしてしまう。
このあたりにはまともな診療所もなく、ポイズンスライムに有効な毒消しを作るための薬草も自生していないので、体力のないものが毒に感染したら待っているのは死のみ。
並大抵の冒険者では乗り越えられないってのは事実のようだ。
「ポイズンスライムか……」
「ご主人様、どうしたんですか?」
アムの問いに、俺は騎士達には聞こえない声で言う。
「ポイズンスライムはアドモンがいるんだよ。メディスンスライムっていう治療特化のスライムで、魔核は体力上昇。宝箱からは薬のレシピや治癒系の魔導書が出やすい」
二人が宝箱と魔導書という単語に反応したが、今回はアドモン狙いは無しだからな。
ポチを一刻も早く助け出したい。
ポチは戦闘に不参加だが、ステータスは存在して、その能力は最強クラス。
ロック鳥やダイダラワームにやられるほど弱くはないので、殺されたとかは思っていないが、それでも早く助け出さなければいけないことには違いない。
「ええ、ポチさんを助けたら」
「……帰りに――」
いや、帰りも騎士達が一緒なんだから無理だって。
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