第108話 最後の一撃はノーガードのあとで
冒険者ギルドに来て、Cランクスタートになった。
これは運がいい。
そう思っていたら――
「マッコラ! 妖狐族の女はまだしも、その男もCランクなのかよ! ありえないだろ!」
髭面巨漢が大声を上げて叫ぶ。
俺たちの会話を聞いていたのか?
まぁ、女の子二人連れてる冒険者なんて珍しいだろうから、聞き耳を立てられていたとしても不思議はない。
どうやら、俺が特例でCランク冒険者になれたのが気に食わないようだ。
「ドッコイ。こいつは魔法が使える。それだけでもDランクの要件は満たしている。そして、詳しくは言えないがCランク昇格を打倒とする魔物素材の納品があった」
「昇格試験をしてないだろうが。魔物素材の納品だって仲間の手柄かもしれないじゃないか! 勝手に決めていいのかよ」
「ギルド長にはBランクまでなら妥当と判断した場合、冒険者の昇格試験を免除できる規則がある。問題はない。それともお前が相手するか? Cランクの昇格試験は、Cランク冒険者との模擬戦だぞ」
「マッコラさん。俺はそれでも構いませんよ」
どうやらドッコイという名前らしい冒険者は俺たちと同じCランクの冒険者らしい。
模擬戦か。
俺は別にそれでも構わない。
この世界の一般的なCランクの冒険者がどのくらいの強さか知っておきたいからだ。
負けることはないと思うが、ここで躓くようならば甘んじてその評価を受け入れようと思う。
どうやらドッコイは俺の言葉を挑発と受け取ったらしく、こちらを睨みつけてきた。
マッコラといいドッコイといい、冒険者ギルドのおっさんは全員怖い顔をしているな。
いくら強くなったとはいえ、なんで平然としていられるのだろうかと思ったが、ガモンとかガンテツとか他の村の連中もたいがい怖い顔をしている。
うちの村で関わって来るのはおっさん率が高いから、だいぶ慣れたのだろう。
「地下の訓練場に行くぞ」
マッコラはそう言って俺たちを地下に案内する。
いまは使っていなかったらしく、階段を下りると真っ暗でほとんど何も見えない。
入口のところに置いてあったランプに火をつけ、部屋の四隅に置く。
なんでこんな薄暗い場所で訓練してるんだ? と思ったところ、巣窟型のダンジョンだったり、野営中だったり、冒険者は何かと暗い場所で戦うことが多いから、こういうところで訓練をした方がいい――というこの冒険者ギルド支部の初代ギルド長の考えらしいが、訓練場用の土地を確保できないから仕方なく地下に作ったというのが本音らしい。
城塞都市って面積が限られているから土地の確保とか大変そうだもんな。
試合の設備が整った。
マッコラが先に説明を行う。
「トーカには試験前に説明しておく。Cランク昇格試験と同じで、この勝負の勝敗が直接昇格に直結するわけじゃない。試合に勝ったからといって、卑怯な手段を取ったり相手に重傷を負わせた場合、Cランクへの昇格を見送るだけでなく罰則も適応される。逆に試合に負けてもCランクとしての戦い方ができると判断したら昇格が認められる。そもそもトーカは魔術師だ。本来は前衛に守られながら戦うのが役目で一対一の戦いを想定しているわけじゃないだろう」
「いえ、俺が負けたらDランクからでいいですよ。それに、今回は俺はこいつで戦います」
俺はそう言って鞄から出すフリをして、蒼木の短剣を出して構える。
「魔法も剣も両方いけますので」
「おいおい、木の剣でいいのか? 試合用の剣もあるぜ? まぁ、安心しろ。回復魔法で治せる程度の傷しか負わさねぇよ」
そう言ってドッコイは刃のない鉄の大剣で自分の肩を叩く。
重症の定義とは、回復魔法で治せないレベルの怪我を言うらしく、骨折程度では重症とはならないらしい。
「ご主人様、御武運を!」
「……トーカ様、怪我させない程度に頑張って」
二人に応援されて俺は訓練場の中央でドッコイと向かい合う。
さて、お手並み拝見とするか。
マッコラが試合開始の合図を出した。
同時にドッコイがこっちに向かって来る。
速度はアイアンゴーレム並みか。
あの巨漢にしては速い方だが、アムや悪魔に比べればはるかに遅い。
案の定、ドッコイの剣は斜め上から振り下ろされた。
真っすぐ振り下ろしてしまったら俺の頭に当たって殺してしまう可能性があるし、大剣で突きや払いをするには技術が必要だろうからな。
と長々と頭の中で考えることができるくらい、大剣を短剣で楽々といなす。
「やるな!」
地面に落ちた剣を振り上げながら俺に攻撃をしかけるが、俺は短剣を捨て、素手でそれを両手で受け止めた。
真剣白羽取り――真剣じゃないけど。
「なっ! ぐっ、動かん!」
俺をそのまま飛ばそうとするドッコイだが、俺が軽く力を入れると、彼はくるんと回転して肩から地面に激突した。
ドッコイはまだ俺を睨みつけてくる。
まだ戦意に満ちているな。
これで素手と素手の勝負だ。
ドッコイが起き上がるのを待つ。
「ちっ、認めてやる。お前は確かに強いよ」
「どういたしまして」
「だが、可愛い女の子二人にご主人様だのトーカ様だの言われてることが気にくわねぇ! こっちは女の子に黄色い声援を浴びたことなんて一度もないのに!」
これまでで一番の思いの籠った拳が俺に向かってきた。
彼の本気の一撃を俺は無防備に受け止めた。
「ドッコイ、あんたの言いたいことはわかった。俺もつい最近まで妹以外の女の子と碌に会話したことがなかったからな」
「なんだ、俺とお前は同じだと言いたいのか? だから攻撃をわざと受けて――」
「羨ましいだろ?」
俺の見え透いた煽りにドッコイの頭に血管が浮かび上がって、再度殴りかかってきたが、その前に隙だらけの鳩尾に拳を叩きこんだ。
彼は白目を向いて気絶した。
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