第109話 指名依頼を受けるか決めるのは依頼を聞いたあとで

 攻撃を受けて体力の減り具合から計算してみたが、ドッコイは蒼剣だとレベル8から10程度。最初に会ったアムより少し強いくらいか。

 最初に出会ったミスラよりも強いので、彼女がCランクなのは魔法のお陰って感じかな?

 当然、現在のアムやミスラの敵ではない。


 内臓にダメージがあって後遺症があったら後味が悪いので、ドッコイにヒールの回復魔法を掛けた。

 意識を取り戻したドッコイは俺を見るとばつの悪そうな顔をして頭を掻き、


「俺の負けだ。悪かったな、いちゃもん付けて」

「いや、アムもミスラもかわいいからな。二人に慕われている俺に嫉妬するのは仕方のないことだ。俺だって逆の立場なら嫉妬する」

「お前がそれを言うか?」

「本当のことだからな。二人と一緒にいるんだ。世界中の男を敵に回す覚悟くらいはできてるよ」


 俺はそう言ってドッコイに手を貸し、彼を立ち上がらせた。

 その時に握った状態で握手を交わす。

 かなりごつい手だ。

 態度は悪かったが、しっかりと剣を振ってきた男の手をしている。

 この一カ月、魔物を倒した数では負けていないと思うが、アイリス様から貰った加護で得た力の恩恵が大きいので少し申し訳なく思う。


「必要ないと思うが、この町の冒険者に絡まれたら俺に言え。これでも古株だからある程度は顔が利く」

「その時は頼らせてもらうよ、先輩」

「よし、終わったな。ドッコイ、俺の査定にいちゃもんをつけた罰として、訓練場の掃除をしておけ」


 とマッコラが言ったとき、ギルドの職員らしい人が何か手紙を持ってやってきてそれをマッコラに渡して戻っていく。

 マッコラはそれを読んでため息をついた。


「トーカ、アムルタート、ミスラ。三人に指名依頼だ。登録してから指名依頼までの最速記録は間違いなく更新しやがったな」


 指名依頼?

 俺たちに指名依頼ってことは、依頼人は間違いなくポットクール商会だろう。

 俺が冒険者登録することを知っていて、かつ依頼できるのは彼らしかいない。

 一階に戻り、仕事の内容を聞く。


「依頼内容は護衛依頼。期限は三週間以上。荷馬車で一週間、船で二日日の距離にあるウェルドン諸島のポート村への往復の護衛だ。三週間分の依頼料は十万イリス。一日増えるごとに五千イリス。前金として三万イリスが先に支払われる。この町のCランク冒険者三人への指名依頼料として少し割高だが、ない話じゃない」

「ポート村ってのはどんな村なんですか?」

「ウェルドン諸島はほとんどがトーラ国の領地だが、ポート村は死の海に最も近い村だからな。ガモンの村、ああ、いまはトーカの村か? そこと同じでどこの国にも属していない」

「死の海?」

「なんだ、知らないのか? 死の大地の結界は円形に広がっていて、その一部は海だ。結界の中の海は死の海と呼ばれている。人も魚も何も入ることができない、だが、死んだ魚だけは何故か波に流れて入ることができる。文字通り死の海ってわけだ」


 死の大地って呼ばれるくらいだから、ずっと荒野が広がっていると思っていたが海もあったのか。

 依頼を受けるかどうかは依頼人に会ってから決めてもいいそうなので、早速ポットクール商会に行ってみた。


 案の定というか、ポットクール商会の中は以前に来たときとくらべて右へ左への祭り状態だった。

 原因は鉄の値崩れだろう。

 既にジャイアントゴーレムが大量に納品された噂は町の中に広がっているらしく、鉄を売りに来る大口の顧客や逆に暴落した鉄を買い求める客が大勢押し掛けているようだ。


「トーカ様! すみません、少々お待ちください!」


 アルフレッドさんが俺に気付いたらしいが、彼も手が離せないようだ。

 暫くして、中学生くらいの少年がやってきて、俺たち三人を商談用の部屋に案内してくれた。

 待つこと一時間三十分。


「それは生きているものか?」

「……はい」

「それは魔物か?」

「……はい」

「俺たち三人で倒したことはあるか?」

「……いいえ」

「んー、俺たち三人で見かけたことはあるか?」

「……はい。質問はここまで。トーカ様、答えは?」

「んー、コボルトビルダー、正確にはポチだな」

「……はずれ。よいどれキャットのミケ」

「くそっ、二分の一で外した」

「ウサピーさんの可能性もありましたね」

「ウサピーって魔物の扱いでいいのか?」


 やることもないので、推理ゲームで遊んでいた。

 これが結構面白いのだが、序盤、ミスラが俺の知らない偉い学者の名前とかを答えにしたときは困った。

 逆に俺が知っている果物とかもこの世界では知られていないらしくてやはり問題となった。


「次はアムが答えを考えてミスラが質問する番だな」

「はい。それではお願いします」

「……ん。じゃあ――」


 とミスラが質問しようとしたとき、扉がノックされて、少し疲れた表情のポットクールさんがやってきた。


「聖者様。大変お待たせしました」

「ああ、お気になさらず。俺たちが原因のようですし。指名依頼の件でお邪魔しました」

「それは助かります。大まかな話は冒険者ギルドから聞いているでしょうか?」

「ポート村への護衛依頼ですよね? 期限は二週間以上」

「はい。それと、これは依頼としては書けなかったのですが、水と食料の輸送を行いたいので、聖者様には収納能力を使って運搬のお手伝いをしていただきたいのです。それと可能ならば、転移門の設置もお願いしたい」

「それはこっちも可能性としては考えていました」


 海の町にサブ拠点ができたら、施設として港を設置することができる。

 港があれば、商店に並ぶ商品の種類が大幅に増えるだけでなく、造船所や釣り堀も作れるようになる。

 今は拠点ポイントが足りないので遥か先の話にはなるが、しかし転移門ができて、海の魚がいつでも食べられるってのはありがたい。

 馬車で一週間かかる距離にあるとするなら、生魚を運ぶには少々鮮度に問題が出るだろうからな。


「でも、転移門を設置できるとは限りませんよ」

「はい。可能であればという話だけでして。無理であっても、ポート村の周辺の海には最近山賊が出るらしく、その対処をしていただきたいのです」

「山賊が出るんですか?」


 海なのに山賊が出るってどういうことだ。

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