第110話 埋蔵センサーが反応するのはミスラの実験のあとで

 護衛依頼でポート村に行くのまで一週間程あるらしい。

 鉄の供給過多による価格変動による騒動が起きているためポットクールさんが抜けられないというわけではなく、最初から一週間後の出発予定だったとか。

 そのため、久しぶりにこの町のダンジョンに行くことにした。


 この町のダンジョンに来るのは久しぶりだな。


「さて、今日は埋蔵センサーを使って宝探しをするぞ!」

「はい、頑張りましょう!」

「……おぉ」 


 アムが胸の前で両手を合わせ、ミスラが力なく拳を上げる。ミスラはやる気がないわけではなく、単に声が小さいだけなんだよな。

 魔法を使うときに声を出さないといけないので、喉を常に大事にしているため大声を出さないと彼女は言っていた。

 ダンジョンに入ったところで、埋蔵センサーを取り出す。

 見た目は腕時計のような形で、一定距離内に宝が埋まっている場所があると音が鳴って報せてくれて、その音が鳴る間隔によって宝までの距離がわかる。

 いまは反応はない。


 奥に進むことにした。

 確か、このダンジョンは不死生物アンデッドの魔物が多かったな。

 最初に出てきたのはスケルトンだった。

 さくっと光魔法で倒すか、それともアムのライトソードで倒してもらうか。


「……トーカ様、試したい魔法がある。実戦で使ってみたい」


 ミスラの実験か。

 まぁ、危険な魔物ではないから、別にいいか。

 俺が同意すると、ミスラが魔法を放つ。


「……水よ顕現せよ」


 出したのは水魔法。

 ウォーターガンのような強力な水ではなく、ほとんど花に水をやるときの放水くらいだ。そんな攻撃で倒せないと思う。

 と思ったが、スケルトンの身体が溶けていく?

 もしかして、強酸かっ!?

 いや、変な臭いとかはしないし、地面も溶けていない。


「……うまくいった」

「ミスラ、その魔法は?」

「……サンダーボルトの応用」

「サンダーボルトの?」


 雷と水の違いもあるが、速度や威力、その他諸々全然違う。

 説明を求める。

 サンダーボルトは雷魔法であるが、光属性も混じっている。だから、不死生物アンデッドや悪魔相手にも効果がある。

 ミスラはその方法を応用した。

 水魔法で打ち出す水に光属性を混ぜたのだ。

 ただし、普通の水魔法を使うのに比べて倍以上の魔力を消費するそうだ。


「でも、なんで水魔法に光属性を混ぜる必要があるんだ? 魔力をそんなに消費するなら、普通に光魔法を使うだけでもいいだろ」

「……水魔法は広範囲に放つことができるし、地面に撒けば不死生物アンデッドが押し寄せてきたときの罠にもなる。飲み水として飲ませれば、悪霊に憑依されたときの除霊にも使える。それに、瓶に入れて聖水にできる。売ったら儲かる」

「聖水って――そんなの勝手に売ったら教会に目を付けられるだろう? 教会で聖水は売ってないのか?」

「教会でも除霊用の聖水は売っています。光属性の魔石を砕いて教会の秘術により溢れた魔力を水の中に込めたものでとても高価なものです。安い聖水もありますが、リラックスできる効果しかない香草水――中にはただの水を瓶に詰めているだけのものもあります」


 つまり、ミスラの魔法は教会が秘匿している方法でお金もかけて作っている聖水と同じ効果のある水を無料で作り出す魔法ってことか。

 そんなものを聖水なんて言って安価で売り出したら確実に教会に目を付けられる。

 光の水とかそういう名前で売ってもいちゃもん付けられるかもしれない。


「……ポットクール商会に売る?」

「これ以上何かやったら、ポットクールさん過労死するかもしれないぞ。とりあえず、ウサピーに相談して考えよう。商売については俺は無知に等しいからな。それに、その水がいつまで効果があるかも確かめないといけない」

「……そのあたりは今度確かめるけど、理論上は蒸発するまで使える」


 そりゃ凄い。

 蒸発したら込められている魔力が空気に溶けてしまうらしい。


《ピ…………ピ…………ピ…………》


 歩いていると、埋蔵センサーが鳴り始めた。

 どうやらこの先に宝が埋まっているらしい。

 宝が埋まっている場所を探して歩く。

 もう少しってところで、またスケルトンが複数出てきたが、三人で一瞬で倒す。


《ピピピピピピピピピピピピピピピ》


 ここだな。

 場所は部屋の真ん中から少しズレた場所だった。


「アム、頼む」

「はい」


 アムが穴を掘るの能力を使うと、地面に大きな穴が開いた。


「凄いですね、埋没レーダーは。私ひとりではここを掘ろうとは思いませんでした」

「だな。さて、中身は――」


 と中に入っていたものを掘り出す。

 地面に埋まっていたのに土で汚れていないことに対するツッコミは今更だな。


「可愛らし人形ですね。この服、私が以前に着ていた服に似ています」


 アムが人形を見て言う。

 似ているのは当然だ。

 彼女が着ていた服はこの人物のものを元に創られたのだから。


「これは聖女ミーティア人形だな」


 蒼剣シリーズ第一作、聖剣の蒼い空のヒロインのミーティアの1/8サイズのフィギュアだ。

 コレクター名は蒼い英雄シリーズ。

 ちなみに、コレクターアイテムの中で唯一、実際に公式オンラインストアで販売されているシリーズでもある。

 残念ながらお金に余裕のない俺は購入できなかったので残念に思っていたが、まさかこうして手に入れることができるとは。


「……下着は普通」


 ミスラがフィギュアを下から覗き込む。

 やっぱりミスラはハーフエロフだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る